西日本の定番おやつ「おにぎりせんべい」って知ってる?東日本で定着しない理由とその魅力に迫る

2021年7月14日

「おにぎりせんべい」といえば、西日本に住む人にとっては家やコンビニでよく見かける定番のおやつ。“実はおにぎりせんべいは全国区ではない”ことを知り、衝撃を受けた西日本の人も多いのではないだろうか。関西出身の筆者も、関東に住んでいる友人に「食べたことがない」と言われたことで、その事実を知った。

「こんなにおいしいのに全国区じゃないなんて!」と思った筆者は全国に魅力を伝えるべく、おにぎりせんべいを製造販売する株式会社マスヤの広報担当・松井智咲さんを直撃。おにぎりせんべいのおいしさの秘密と、東日本での普及について聞いた。

「おにぎりせんべい」。おにぎりせんべいといえばこの味。甘辛いしょうゆ味がたまらない!


「当たり前」を覆したおにぎりせんべい誕生秘話

おにぎりせんべいは、おにぎりのような三角形と甘辛いしょうゆ味が特徴のせんべいだ。おにぎりせんべいが誕生したのは52年前の1969年で、当時のせんべいの常識を大きく塗り替えた画期的な商品だった。

「この頃はせんべいといえば四角形や丸形、また堅くて噛み応えのある草加せんべいが主流でした。しかし『三角形のせんべいがあってもいいのではないか』というアイデアが上がり、草加せんべいに対抗した『ソフトな食感のせんべいを作ってみよう』という、これまでのせんべいの形にとらわれない自由な発想から開発がスタートしました」と松井さん。

そこから1年数カ月の試行錯誤を経て誕生したのが「おにぎりせんべい」だ。

発売当時のパッケージ。パッケージも三角形の「おにぎり」スタイル


みんなに愛される「おにぎりせんべい」という名前がつけられたのもこの頃。三角形から連想される「おにぎり」と「せんべい」を掛け合わせて名付けられたのが由来だそうだ。

発売の瞬間から大人気!おにぎりせんべいが有名になったワケ

歌舞伎の緞帳幕のような朱色と緑でおなじみのパッケージには、「おにぎりせんべいを華々しくデビューさせたい」という思いが込められているという。

今でこそ定番のおやつだが、初舞台も華々しく、売り場のメインを飾ったそうだ。松井さんはおにぎりせんべいの販売が始まった当初のことを話してくれた。

「発売当時、創業者が同郷(三重県)の量販店の協力を得て、商品棚の1番目立つ売場に2週間おにぎりせんべいを並べていただいたそうです。当時は1週間に3袋売れたらヒット商品といわれていましたが、おにぎりせんべいは1週間で7袋を販売しました。この売れ行きが口コミで名古屋や大阪、広島、福岡などに広まり、爆発的なヒットへと繋がりました」

発売当時の包装風景。今と変わらない朱色と緑色のパッケージだ

発売当時の店頭風景。山盛りに積まれたおにぎりせんべい。大ヒット商品ならではの光景だ


それから半世紀を超えた今もなお、関西を中心に人気のおやつとして定着しているが、不思議と東日本にはあまり普及することがなかったそうだ。その理由の1つが、東と西の「しょうゆ文化の違い」だったという。

「40年ほど前、西日本で絶大な人気を誇るお菓子として、東日本にも販路を広げようと試みたのですが、しょうゆ文化の違いからかお客様に受け入れられませんでした。その後も『東日本プロジェクト』と称して『関東しょうゆ味』などの商品を販売しましたが、大きな壁を越えることはできませんでした」と、松井さんは東日本でおにぎりせんべいが普及しなかった理由について話してくれた。

47都道府県おにぎりせんべい認知度調査。西日本に比べて東日本では知名度が低いことがよくわかる


その後はテレビ番組や雑誌などで商品が紹介されたり、SNSで話題になるなど、東日本でも徐々におにぎりせんべいの知名度が上がり、販売店舗も増えてきているそうだ。また2002年に販売が始まった小分けにできる吊り下げタイプの商品が、子供にぴったりのおやつとしてママたちに人気となり、徐々に全国に普及し始めるなど知名度は年々上昇中だ。

「東日本での販路拡大のため、日々営業活動に奮闘中です」と松井さんが話すように、おにぎりせんべいが東日本でヒットする日も遠くないかもしれない。

「4連おにぎりせんべい」。コンビニなどでよく見かける小さいサイズのおにぎりせんべい


昔から変わらないおいしさ!愛されるしょうゆ味のヒミツ

そんな東日本進出真っ只中のおにぎりせんべいだが、関西で人気の理由はヤミツキになってしまう甘辛のしょうゆ味だろう。「いつ食べてもおいしい」と思えるこの味になるまで、さまざまな工夫があったようだ。

「社外秘のため詳しくはお話できないのですが、ダシの旨味にこだわったおにぎりせんべいのタレはさまざまな調味料を配合して作っており、その数は全部で14種類になります。『昔から変わらない味』と思われていますが、時代やユーザーの嗜好に合わせて調味料の配合を微妙に変えながら、1番おいしいおにぎりせんべいをお届けできるようにしています」

また、しょうゆ味のほかに塩味の「おにぎりせんべい銀しゃり」や「おにぎりせんべいわさび」も人気の味で、1年を通して販売している定番商品だという。

「大きさの異なるつぶ塩がお米の旨味を引き立てる『おにぎりせんべい銀しゃり』は、来年で発売10周年を迎えます。『しょうゆよりも銀しゃり派!』と言うユーザーもいるほど、しょうゆ味に負けず人気の商品です。おにぎりせんべいのしょうゆタレとツーンとしたわさびの辛さがクセになる、『おにぎりせんべいわさび』は2017年に季節限定商品として発売したのですが、大変ご好評いただき、定番商品の仲間入りをしました」

「おにぎりせんべい銀しゃり」。銀色のパッケージが目を引く商品。塩が効いていてパクパク食べてしまう

「おにぎりせんべいわさび」。わさびの風味がたまらない大人のおやつ


ほかにも季節限定の商品などもあり、近年では「おかか味」「梅しそ味」「和風カレー味」などを販売。特に「梅しそ味」「和風カレー味」は毎年好評なんだとか。

また、株式会社マスヤの人気商品の1つが「ピケエイト」だ。朝食のトーストをイメージした洋風せんべいで、サクッとした食感と口に広がる香ばしいバターの風味が特徴だ。

「ピケはフランス語で『畝』(うね)を意味します。焼き上がったせんべいのブクブクとした表面が工場の周りにある畑の畝に似ていたことから『ピケ』、また8人の開発者の手によってつくられた商品であることから『エイト』、この2つを掛け合わせて『ピケエイト』と名付けられました。また『エイト』には『無限の可能性がある』という思いも込められています」と松井さん。

現在、ピケエイトは東海エリアを中心とした地域限定の販売。東海エリアを訪れた際は、コンビニやスーパーで探してみよう。

季節限定商品も大好評。毎年どんな味が出るのか楽しみになってしまう

「ピケエイト」。朝食のバタートーストをイメージした欧風せんべいだ


袋に詰まっているのは「ワクワクドキドキ」

2020年からはおうち時間や在宅勤務の楽しみの1つとしてお菓子を買う人も多そうだが、おにぎりせんべいも例外でなく、松井さんは「巣ごもり生活のお供として、お菓子を召し上がっていただく機会は増えたように思います」と話す。

「2020年はTwitterで『お菓子の力で日本を元気に!』という思いを込めて、ほかのお菓子メーカーと一緒に『#おかしつなぎ』というキャンペーンを実施しました。その際にはたくさんの反響をいただき、改めてお菓子の持つ力を実感しました。また、ユーザーから温かい励ましの言葉もいただき、コロナ禍を通してお客様の存在の大きさを再確認しました」

株式会社マスヤは会社の目指すべき姿として「みんなが幸せになれる会社をつくりましょう」を掲げている。これには、「ユーザーや販売店など、自分たちと繋がるすべての人が幸せになれるような会社にしたい」という思いが詰まっているそうだ。現在の状況において、お菓子は人々の心の癒やしとなっていると言っても過言ではなく、おにぎりせんべいは私たちのおなかと心を満たしてくれている。

「また、私たちは『いつも変わらないおいしさとワクワクドキドキをお届けします』というミッションを掲げています。おいしさや品質はもちろんのこと、お菓子の楽しさ、食育、親子の絆など、“お菓子”の枠を越えたものをお届けできる存在でありたいと思っています。これからもユーザーにとってのワクワクドキドキを探求し続け、“西日本のおせんべい”から”日本を代表するおせんべい”になるべく、がんばっていきたいです」(松井さん)

およそ半世紀以上もの間、変わらないおいしさを私たちに与え続けてくれているおにぎりせんべい。これからも西日本をはじめ、日本中の人々に笑顔を届けてくれるだろう。まだ食べたことも見たこともない人は、ぜひ探してパリッとかじってみて!

取材・文=越前与

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