平成の小学生男子の憧れ「ナップザックのドラゴン」が絶滅寸前?2000年代に起きた“ドラゴンブーム”の理由

2022年8月23日

“平成の懐かしいシリーズ”として度々SNSなどで話題になるのが、小学校の家庭科の授業で作った「ナップザック」。いくつかのデザインから好きなものを選ぶことができ、なかでも特に男子に人気があった定番の柄といえば「ドラゴン」。西洋風の金色のワイバーンや東洋の龍に近いものまでデザインはさまざまで、とにかく当時の男子小学生の心をときめかせたものだ。

平成に小学生だった男性たちにとって、ドラゴンのナップザックは思い出の一部ではないだろうか。しかし筆者は当時女子目線で、「なんで男子たちはドラゴンばっかり選ぶのだろうか」とただただ不思議に感じていた。

大人になった今、ふと「そういえばあのドラゴンって今どうなっているんだろう?」と疑問が。数多くの男子小学生のテンションをぶち上げていたあのデザインの近況を確かめるべく、学校教材の企画・販売を手掛ける株式会社文溪堂 教具部の安藤さんに話を聞いた。

2011年に誕生した「バトル」というデザイン。青く光っているところが懐かしさを増幅させる


始まりは「リザードン」!ドラゴン誕生のきっかけ

2000年代前半には、ナップザックだけでなく裁縫セットやエプロンなど数々の教材のデザインに登場していたドラゴン。そんなドラゴンが初めて文溪堂の教材に登場したのは1998年。最初のドラゴンはオリジナルのイラストではなく、あるゲームのモンスターだった。

「この頃に、『ポケットモンスター』のキャラクターである『リザードン』の商品が誕生しました。ドラゴンそのものというよりは、ポケモンのなかのキャラクターの1つとしてナップザックのデザインに落とし込んだものが最初の商品でした」

これが大ヒットしたというわけではなかったが、そこそこの売上に。ここから「ドラゴン」というヒントを得て、翌年に東洋風の龍をモチーフにしたオリジナルドラゴンデザインを発売してみると、まさかの爆発的な大ヒットに。男子小学生たちの心をがっちりと掴んだ。

ファイヤー(1999年)


そこからブームが始まり、ありとあらゆるデザインのドラゴンが登場。ナップザックだけにとどまらずエプロンや裁縫セット、画材バッグ、彫刻刀ケースなどのあらゆる教材に使われることに。

「男の子向けの柄に困ったらとにかくドラゴン!という感じで、たくさん作っていました(笑)」と、当時のドラゴン人気は凄まじいものだったと安藤さんは語る。

ドラゴン(2001年)


ドラゴンが少年たちの心を掴んだ理由とは?

では、なぜドラゴンはこれほどまでに男子小学生たちを惹きつけたのだろうか。ちょうど教材に登場した頃は、時代的にヤンキーファッションやタトゥー、クロスのモチーフ、シルバーアクセサリーといった、ちょっとヤンチャなイメージの商品やアクセサリーが流行していた時代。「かっこよさに憧れる、背伸びしたい男の子に刺さったのかもしれない」と安藤さんは予想している。

「『遊戯王』や『ドラゴンクエスト』など、ドラゴンが登場するアニメやゲームの影響もあったと思います。ドラゴンがモチーフとなっているコンテンツは今でも人気が途絶えてしまうことがなく、コンスタントに登場していますよね。ほかのモチーフと比べて古さを感じさせないことが、長い間人気が衰えなかった理由ではないでしょうか」

グレートドラゴン(2004年)

クロムドラゴン(2007年)


全盛期には教材全体で20点以上の商品があり、文溪堂以外の教材メーカーもこぞってドラゴンを出していたため、文溪堂はほかのメーカーと差をつけようとドラゴンを避けていた時期もあった。

「不死鳥や恐竜、動物などかっこよくデザインした教材を出していたこともありましたが、目立って売れることはありませんでした。やっぱりドラゴンは圧倒的人気でしたね。『とりあえずドラゴンを出せば売れる!』というくらいに、一定数の需要が常にありました」

もともとドラゴンは架空の生き物で、権力や強さの象徴として神話や物語で描かれていることも多い。「かっこいい」「強い」といったイメージに憧れを抱きやすい男子小学生にとって、これほどまでに魅力的な存在はドラゴンのほかになかったのかもしれない。

エンペラーD(2008年)


どうしてドラゴンは絶滅してしまったのか

ドラゴンの商品点数のピークは2007~2012年頃。圧倒的な人気を誇っていたが、現在はブームも下火だ。文溪堂が最後に新柄を出したのが2014年で、残念ながら2020年に文溪堂のドラゴンは絶滅してしまったのだとか。他社の商品でもだんだんと減少しているようで、時代の変化と共に人気のデザインも変わっているのだという。

「最近は長く使うことを考慮する傾向にあるため、派手すぎたり、飽きが来そうなデザインのものは避けるよう、選ぶ際に親の意見が入ることがあります。そのため、キャラクター等のモチーフを大きく出したデザインは以前より選ばれにくくなっていると感じます」

時代の流れと意識の変化により、ドラゴンをはじめとしたキャラクターを全面に押したデザインは減少していく結果に。近年はスポーティーで大人になっても飽きのこないデザインが1番のトレンドに置き換わっているようだ。現在の小学生にとって、今やドラゴンは「かっこいい」「憧れ」のものではなくなっているのかもしれない。

ドラゴンハンター(2009年)


「あの頃のドラゴン」として大人の間でブーム再来!?

悲しいが、子供たちが喜ぶデザインが時代に合わせて変化することは避けられない。現在は文溪堂の教材からは退いてしまったドラゴンたち。ブームが再来する日は来るのだろうか?

「ドラゴン全盛期の少年達が成長して親世代になり、SNS等で『あの頃のドラゴン』と度々話題となっているので、もしかしたらこれを機にまた“ドラゴンの時代”が再来するかもしれませんね!」

レジェンドドラゴン(2013年)


改めて当時のナップザックのデザインを見てみると、ドラゴンのデザインにしか出せないかなりのインパクトがある。どの時代のナップザックを見ても「これ懐かしい!」とつい反応してしまうほど、私たちの心にずっと残るドラゴン。今後は大人たちが思い出話に花を咲かせるなかで活躍していく様子を見守りつつ、再ブームを期待したい。

取材=西脇章太(にげば企画)
文=永田奏歩(にげば企画)

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