江崎グリコのロングセラー商品といえば「ポッキーチョコレート」(以下、ポッキー)。「チョコレートコーティングされたビスケットブランドの世界売上No.1」としてギネス世界記録に認定されるなど、日本だけでなく世界各地で愛されているお菓子だ。
そんなポッキーシリーズの人気No.2として君臨するのが「ポッキー<極細>」(以下、ポッキー極細)。赤いパッケージでおなじみのポッキーチョコレートを限界まで細くした、ポッキー史上最も細い商品だ。一見するとただ細くなっただけに思えてしまうが、実はチョコレートの比率やプレッツェルの細さ、そして味わい方まで通常のポッキーと大きな違いがあることはご存知だろうか。
今回はそんなポッキー極細が愛される理由を探るべく、江崎グリコ株式会社 ポッキー企画グループの槌田智子さんにインタビュー。気が付けば定番商品となったポッキー極細の意外な誕生秘話を聞いた。
コンセプトは「原点回帰」。ポッキー極細の誕生秘話
ポッキー極細が誕生したのは2006年。発売当時はその細さに驚いた人も多いかもしれない。そんなポッキー極細が生まれる前の2000年代初頭は、新たなユーザー獲得を意識してブランドの多様化が進んでいた時期だったため、江崎グリコはより多くの商品を出すことに集中していた。
「『アーモンドクラッシュポッキー』や『ムースポッキー』のような高級志向の商品や、『冬のくちどけポッキー』などの季節限定商品も多様化の流れから誕生しました。そんななか、話題性で一時的に需要があるものだけでなく『原点に立ち戻る』『ユーザーから長く愛される商品を作り直す』というコンセプトを掲げて開発したのがポッキー極細です」
ポッキー極細はポッキーをただ細くしただけように見えるが、実は「おいしさ」「食感」「ユーザーが満足する最適な量」を軸に綿密な商品設計がなされている。そして細くなることでチョコレートとプレッツェルの比率が通常のものより大きくなり、よりチョコレート感を楽しめるようになっているのも特徴。
サイズはポッキーの1/2程度の細さになっているが、これがポッキーとして味を楽しめる限界の細さだそうだ。
「ポッキー極細は、ポッキーよりも製造が難しいんです。ポッキーはチョコレートをかける工程で均一にかけるのがとても困難なのですが、極細ではそれが特別難しくて、開発に半年以上もかかってしまいました。また、生産から流通の段階までで折れないギリギリの細さの見極めもとても大変でした。食べる時にボキボキに折れていたらショックですからね(笑)」
ポッキー極細の味はチョコレートの1種類のみで、ほかの味を発売することを検討したこともあったが、まだ実現していないという。一方で中国ではいちご味、ミルク味、抹茶味の3種類が発売中。中国のスーパーは棚一面に同じブランドの商品をズラリと並べるのが一般的で、棚の広さに応えるように種類を多く取り揃えているという。いつか日本でも発売するのを期待したい。
開発陣もびっくり!多彩なポッキー極細の楽しみ方
ポッキーの発売は1968年で、それに比べてポッキー極細はまだまだ新参者というイメージ。にもかかわらず、売上はポッキーと肩を並べるほどなんだとか。
「ポッキーもポッキー極細も、地域や年齢を問わない人気の商品です。違いがあるとすれば、ポッキーは男性人気が高く、ポッキー極細はチョコ比率が高いからか女性から人気という印象です。チョコレート好きは極細を選ぶ傾向にあるようですね。さらにポッキー極細は特に学生に好評で、ひと袋に約50本入っているので“大人数で分けても行き渡る”という点も人気の理由の1つです」
発売当初はユーザーからも「細くなっただけなのでは?」という声が上がったが、「チョコがリッチでおいしい」「細くなっただけなのに全然味わいが違う」と瞬く間に好評の声が。当時の開発陣も、ポッキー極細がここまで人気になるとは思っていなかったという。
「こんなに愛される商品になるとは思ってもいませんでした。これまでポッキーは1本ずつ食べるのがメジャーだったのですが、ポッキー極細は4〜5本まとめて一気に食べる人が多いんです。ポッキーに比べて硬めの食感なので、一気に食べてボリボリ食感を楽しむそうです。こんな楽しみ方は当初は想像すらしていなかったのでとてもびっくりしました。商品のラインナップのなかでも特にシンプルな味わいなので、食べ方が工夫できる余地があるんだと思います」
ポッキーは口溶けが意識されているためプレッツェルを少し膨らませ、サクッとした食感を楽しめる設計になっている。一方でポッキー極細は軽やかさを楽しめるようになっていて、少し硬めの食感が魅力。そのため、数本を口のなかで折って歯応えを楽しむ人が増えたんだとか。
なかにはさらなる硬さを追求する人も。冷凍するとチョコレートに含まれる油脂が固まって硬くなるので食感が増す。そんなアイスのようになったポッキー極細を味わうのが、知る人ぞ知るおいしい食べ方だという。そして常温(20度)と冷凍(マイナス20度)での硬度比の差は、ポッキーシリーズのなかでもポッキー極細がNo.1。歯応えのあるお菓子が好きな人は一度試してほしい食べ方だ。
懐かしい楽しみ方も!ポッキーをシェアしてハッピーに
江崎グリコはこれまでさまざまなポッキーシリーズを展開してきたが、最近特に大切にしているのは“食べるシーンの提供”だそう。CMで流れる「Let's share Pocky」や「Share happiness! Pocky」などのスローガンを掲げ、“みんなで幸せを分け合う楽しさ”を提案してきた。
最近ではポッキーシリーズを冷凍庫に入れて食べる「ICE BREAK 凍らせポッキー」や、50代以上の世代に向けて「お酒と愉しむ、大人のポッキー」といった、コンセプトを明確にした商品を展開している。また、近年のレトロブームを受けて、氷を入れたグラスにポッキーを入れたりお酒のマドラー代わりにしたりする1970年代に親しまれた楽しみ方を「令和のポッキー・オン・ザ・ロック」と称して復活させるなど、幅広い世代に向けてアプローチしている。
「ポッキー極細に限らずブランド全体としてですが、製品数を増やしていくことはもちろん、食べるシーンを提案していろんな時と場所で愛されるブランドとして確立していきたいです。今後もシーンに合わせてポッキーを楽しんでいただけるようなプロモーションを実施していきます」
江崎グリコが次のポッキーのキャッチコピーに掲げるのは、「いつかさそおう、を今日さそおう」。コロナ禍で人と会うことが減ってしまった人も多いが、たまにはポッキーをひと袋ずつシェアして笑顔を分け合ってみるのもいいかもしれない。
取材・文=越前与