秋田県には南北264.2キロの日本海に面した海岸線があり、四季を通して魚が豊富にとれるエリアだ。ハタハタ、マダイ、マダラなどが有名だが、これら以外にもさまざまな魚種の名産地として魚ファンに知られている。
しかし秋田県の魚は流通の都合上、全国で口にできるとは限らず、特に需要の少ないマイナー魚種は食べれば絶品にもかかわらず地元に行かなければ口にすることができなかった。また、地元の漁師を含む水産業者にとっても、こういったマイナー魚種を食べられるのに捨てる(海に戻す)ことがあり、もどかしい思いを抱いているんだとか。
そんな状況を打破するべく、ここ数年、こういった需要薄の魚種を「未利用魚」「低利用魚」と呼称し、ECサイトなどを通じて全国の消費者へ直売する業者が少しずつ増えているという。
今回は、未利用魚・低利用魚を直売する全国の水産業者のなかでも「漁師の分け前セット」という人気商品を生み出した、秋田県の漁師団体「fish door」副代表の千葉北斗さんに話を聞いた。
新鮮な魚の詰め合わせが2000円で買える!?
fish doorが提供している未利用魚・低利用魚のサービスのなかでも注目を浴びているのが、「漁師の分け前セット」。漁業を営む比較的若い世代が一念発起し、鮮度抜群の複数魚種を10数本詰め込んだものを“2000円”(送料別)という破格値で販売したところ、全国の魚ファンから大好評。NHKの番組でも取り上げられたほどだ。
仲介業者を介さないことから、鮮魚店やスーパーなどで流通する魚に比べて価格・量・鮮度とも優れているものもあり、魚ファンの注目の的となっている。
消費者の側からすれば「どうしてこれほどの低価格が実現できるのか」と少々謎だが、千葉さんによると、“漁師特有の事情”があるからだという。
「今までは寿司ネタとして並ぶような『お金になる魚しか水揚げしない』というのが漁師の考え方で、私たちのような底引き網船の場合、“お金になる魚”と“お金にならない魚”を船の上で選別する作業があり、お金にならない魚は捨てることも多くありました。一方、お客さんにとってみれば『もったいない』『全然おいしく食べられる魚じゃないか』みたいな見方もあり、従来の流通外でこういった未利用魚や、未利用魚でなくても一般流通のロットに見合わない半端な数の魚などをお客さんに提供することができれば新しい価値がつくのではないかと考え、私たちが先立って取り組みました。食べれば本当においしいのに捨てることも多かった魚なので、この低価格を実現できているというわけです」
ただしあくまでも“漁師の分け前”であって、細かい魚種の指定などはできず、内容もその都度流動的だ。また、毎日異なる天候の状況や、禁漁時期などはどうしても品薄になるという理由で提供できなくなることもあるため、「漁師の分け前セット」を購入する場合は常に販売サイトをチェックし続けないといけない。そして当然のこととして、ある程度魚の知識があり、自分でさばくことができなければいけない。
この点は我慢が必要だが、これほどの安さなので「これから魚を学びたい」「秋田の魚を知りたい」という人にとってもうってつけのサービスだ。
「魚にはタイのような普通の魚やカレイのような平べったい魚などいろんなものがありますが、『漁師の分け前セット』には種類をまんべんなく入れるように心掛けているので、魚をさばく練習なんかにもいいと思いますよ」
「漁師の分け前セット」を注文してみたら…まさかの高級魚が!
長らく売り切れ状態だった「漁師の分け前セット」だが、今回運良く注文することができたので、実際どんなものかを紹介する。
わずか2000円+送料(東京は1500円前後)で届いた魚の内訳は以下の通り。東京で食べようと思えば1匹1500円以上はするノドグロがあったり、小ぶりではあるもののタイが2匹入っていたりと大満足の内容だった。
・ホッケ 3匹
・アジ 3匹
・タイ 2匹
・ノドグロ 1匹
・カナガシラ 2本
・カレイ類(水カレイ、エゾカレイ、宗八カレイ) 5本
これらはあくまでも一例で、必ずこれだけの量や魚種が届くとは限らないものの、千葉さんによれば「その都度できるだけ良い魚を詰められるよう努めている」という。
未利用魚・低利用魚を販売する各地の業者によっては、「これどうやって食べるんだ!?」と思うほどの本当に珍しい魚を詰め込むところもあり、この点を「珍しくておもしろい」と思うか「よくわからない魚が届いて困る」と思うかは人によるだろう。
しかし今回届いた実物のように、fish doorでは未利用魚・低利用魚といっても比較的慣れ親しんだ魚を送ることが多いようで、できるだけ消費者に寄り添っている点がありがたい。
秋田県の鮮魚を全国へ!流通を飛び越えた産直の動き
千葉さんによれば、fish doorのように漁師が消費者に直販する取り組みは確実に増加傾向にあり、今後も増えていくだろうとのこと。
「私たちは『秋田で、みんなで仲良く漁を行い、みんなで潤えば良い』『全国のお客さんに秋田の良い魚を届けたい』という考えのもと漁業だけでなく直売を始めたわけですが、いろんな魚の産直サイトを見ると、各地に私たちと同じような取り組みをしている漁師さんがいることがわかります。各地の漁師がさまざまな事情を抱えていて、それを解決する1つの試みとして直売の動きがあると思いますし、今後も確実に増えていくだろうと思っています」
最後に、秋田県の魚の魅力について千葉さんはこう話す。
「これまで秋田県の魚は、せいぜい新潟県止まりで全国に流通することは極めて少なかったのですが、産直サイトのおかげで水揚げしてすぐの魚を全国に流通させられるようになりました。特に秋田県の魚は冬がおすすめで、旬のタラなどが入る機会が多くなると思います。秋田県自慢の魚を全国の方に食べていただけたら、私たちも本当にうれしいです」
取材・文=松田義人(deco)
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