気温が下がって肌寒くなるこの時期、「そろそろシチューの季節だな」と考える人も多いのではないだろうか。シチューといえば“白いクリームシチュー”を思い浮かべる人も多く、家庭でもよく作られる冬の定番メニューだ。
では、そのクリームシチューを普段どのようにして食べているだろうか。シチューの食べ方でたびたび話題になるのが、“ご飯と分ける人(単体で食べる人)”と“カレーライスのようにご飯にかけて食べる人”がいることだ。SNSなどでは、ご飯にかけて食べる勢のことをご飯と分けて食べる勢が「ありえない」と言う様子をよく見かける。
「人それぞれ」という言葉で片付けてしまえないほど意見がはっきり分かれ、何度も議論になっているこの話題。今回は、ルウシチュー市場シェアNo.1で「シチューミクス」「北海道シチュー」などのロングセラー商品を販売するハウス食品株式会社(以下、ハウス食品) 食品事業一部 田村紘嗣さんに、日本人がシチューを「ご飯と分けて食べる派」と「ご飯にかける派」に二分される理由を聞いてみた。
実はご飯にかけて食べるためのものだった…ルウの開発秘話
シチューには、クリームシチュー、ビーフシチュー、コーンクリームシチューなどさまざまな種類があるが、「シチュー」と聞いて思い浮かべるのは、やはり白いクリームシチューではないだろうか。クリームシチューに似た料理は大正時代にはすでに存在していたが、実際に日本全国に普及したきっかけは戦後の学校給食。給食にシチューが出されたことによって全国的に知名度が広がり、その後の1966年にハウス食品が粉末状のルウ「シチューミクス」を発売。誰でも家庭で簡単にシチューが作れるようになった。
シチューミクスを開発したきっかけは、開発担当者が「昔給食で食べた『白いシチュー』のルウを作りたい」という思いからだったという。担当者が目指したのは、日本の食卓に出すことのできる「ご飯に合うシチュー」。ご飯と一緒に食べておいしいルウの開発に取り組み、今の形に至るそうだ。
そのため現在のシチューは、実は“ご飯と一緒に食べるもの”として設計されている。ということは、シチューをご飯にかけるのは理にかなった食べ方であり、開発担当者が目指した1つの完成形と言えるだろう。
沖縄では7割が“かける”!分ける派とかける派に分かれるワケ
ご飯と一緒に食べるメニューとして開発されたクリームシチューだが、実際のところ、ご飯と一緒に食べることは良くても「ご飯に“かける”なんて許せない!」という人が一定数存在する。逆にシチューをご飯にかけて食べる人も少なくなく、両者は互いに拮抗している状態だ。
「分ける派のなかには、シチューをご飯にかけることを『行儀が悪い』や『みっともない』と思う人も多いようです。かける派に対して手厳しい印象ですね。逆にかける派の人は分ける派のことをあまり気にしていないようです。シチューは各家庭ごとに味や材料などが異なるので、育った家庭によってご飯と分けるのが普通という人もいれば、かけるのが普通という人もいます」
分ける派とかける派について、ハウス食品が2016年に行ったWEBアンケート「シチューとごはん ごはんと分ける?ごはんにかける?」では、全国で分ける派が58%、かける派が42%という結果に。そのなかでも沖縄県では7割がかける派で、東北地方では分ける派とかける派が5対5と、全国平均に比べてかける派が多いという特徴的なデータが出た。
「沖縄でかける派が多い理由は、タコライスやチャンプルーなど、調理したものを混ぜて食べる文化が根付いているからではないかと想定しています。そのため、シチューも“混ぜる料理”としてご飯と一緒に召し上がるのかもしれません。また、東北ではきりたんぽやせんべい汁など、汁物に炭水化物を入れる料理が多いため、ご飯にかけるのに抵抗が少ないのかもしれませんね」
逆に分ける派が多いのが関西地方。特に奈良県では7割の人がシチューとご飯を分けて食べるという。関西に分ける派が多い理由ははっきりとわかっていないが、田村さんは「おばんざいをはじめとした“お皿を分ける料理”が多いため、かけることに抵抗があるのでは」と推測している。
ハウス食品が販売する全国シェアNo.1のシチューは「北海道シチュー」だが、東北地方などかける派の多い地域では「シチューミクス」の売上のほうが高いのだとか。この商品はルウの味付けが濃いめで、ご飯との相性もいい。開発当初の「ごはんに合うシチュー」というコンセプトは今でも変わらず、主菜としてご飯のお供に食べられるよう味わいに作られているため、かける派はシチューミクスを好むのでは?と考えているそうだ。