日本上陸のカギは北海道・根釧地区のミルク!「ハーゲンダッツ」がみんなの“ご褒美”となったワケ

2022年11月9日

アメリカ発祥のアイスクリームブランド「ハーゲンダッツ」。日本には1984年に上陸し、それ以来国産ブランドと一線を画す支持を得て今日に至る。しかし圧倒的なおいしさを多くの人が認識する一方で、そのブランドストーリーや味わいの秘密については意外と知られていないようにも思う。

そこで今回はハーゲンダッツ ジャパン株式会社の担当者に、ハーゲンダッツの起源や日本上陸の変遷、味わいのこだわりについて聞いた。

“ご褒美”として愛されるアイスクリーム「ハーゲンダッツ」の知られざる秘密とは?


創業当初はセレブが自家用ジェット機で買いに来るほどの人気

ハーゲンダッツは1961年にアメリカ・ニューヨークで誕生した。当時のアメリカでアイスクリームは“子供向けのおやつ”とされ、合成着色料などの添加物を使ったものが多く売られていたという。

そんななか、「大人も満足できる高品質なアイスクリームを作りたい」と立ち上がったのが、ハーゲンダッツ創始者であるルーベン・マタスだ。

ハーゲンダッツの創業者・ルーベン・マタス氏と娘のドリスさん


ルーベンのモットーは「Dedicated to Perfection(完璧を目指す)」。「原材料の探求」「空気の含有量(オーバーラン)の研究」など、それまでのアイスクリームには見られなかった創意工夫をこらし、開発に至った。長きにわたる開発期間を経て誕生したハーゲンダッツは、1961年よりアメリカ・ニューヨークの高級食材を扱うデリで販売を開始。

発売当初のフレーバーは「バニラ」「チョコレート」「コーヒー」の3種類だけだったが、その味に感動した人が続出。なかにはハーゲンダッツの厳選素材から成る味わいのとりことなり、ハリウッドのセレブが自家用ジェット機でニューヨークまで買いに来るほどの人気を得ることとなった。

アメリカで絶大な人気を得たハーゲンダッツは、1980年代に入ってから世界進出を図る。1982年にカナダ、1983年にシンガポールと香港、1984年に日本、1987年にドイツと、続々とその味わいを広めていった。日本に上陸したばかりのハーゲンダッツは、東京・青山に直営ショップ「ハーゲンダッツショップ 青山店」を開店し、オープン時からしばらくは連日行列ができるほどの大盛況となった。

また、1990年にはコンビニエンスストアでの販売をスタートさせ、これと同時に初めてのテレビCMを世界に先がけて放映。「ハーゲンダッツ」の名は全国で知られるようになった。1990年代以降も続々と世界進出を遂げたハーゲンダッツは、現在100カ国以上の国々で愛されるアイスクリームブランドとして成長を遂げている。

日本上陸時の「ハーゲンダッツショップ 青山店」


「シンプルな素材」がモットー!選ばれたのは北海道のミルク

ハーゲンダッツは、ほかのアイスクリームブランドの追随を許さない高級感のある味わいが特徴。しかしその原材料は極めて少なく、例えばミニカップのバニラは「ミルク」「砂糖」「卵」「バニラ」のたった4つの素材で作られている。

「誰もがおいしいと感じるアイスクリームはシンプルな素材からしか生まれない」というルーベンの思いからできるだけ原材料をタイトにし、また、「家庭のキッチンに置いてあるような、誰でも知っている材料を使う」ということが信条なんだとか。

ただし、このシンプルな素材には相当なこだわりがあり、実際には相当な手間がかかっていることも事実。ハーゲンダッツが日本に上陸する際に1番の課題だったのが、ルーベンが目指すアイスクリームの味を実現できるミルクを国内で見つけることだった。

当時のスタッフは日本の数ある酪農地域へと足を運び、最初に選んだのは浜中町を中心とした北海道根釧地区のミルク。北海道根釧地区の乳牛たちは栄養価の高い牧草を食べ、広い大地を自由に動きまわるというストレスフリーな環境でのびのびと育てられており、コク深く濃厚な味わいを実現するミルクを調達できる。この浜中町のミルクとの出合いが、ハーゲンダッツの日本上陸を実現させた大きなポイントの1つだったという。

ハーゲンダッツが選んだ釧路・浜中町の乳牛たち


硬さとなめらかさの理由とは?「悪魔のささやき」の挑戦

ハーゲンダッツのアイスクリームは、冷凍庫から出した際にほかのブランドのものよりも硬い印象があるが、実際に口にするとなめらかな口当たりでとろけていくような独特の食感が魅力だ。

この食感の秘密はハーゲンダッツ独自の製法にあり、なかでも象徴的なのが「オーバーラン」と呼ばれるアイスクリームの空気の含有量を、20~30%と低めに設定する製法。この効果で、小さいカップでもずっしりとした食べ応えとなめらかな口当たりを実現できるそうだ。

ちなみに、冷凍庫から出したばかりで硬いハーゲンダッツのアイスクリームは、常温で少し置いてから食べるのがおすすめのようだが、置きすぎにはもちろん注意。カップ外側を持って指で押した際に少しへこむ程度が食べ頃だという。

現在ハーゲンダッツは16種のレギュラーフレーバーに加え、複数の期間限定フレーバーがあるが、これら多くのフレーバーのうち特に注目を浴びているのが、今秋登場したミニカップ「悪魔のささやき」シリーズ。「チョコレート」と「キャラメル」の2つのフレーバーがあり、いずれも“ねっちり、とろーり”とした口当たりが特徴で、アイスクリームの上にクッキーとソースをトッピングしたものだ。これまでのハーゲンダッツのおいしさを、さらにやみつきにさせるような味わいを目指したという。

悪魔のささやき「キャラメル」と悪魔のささやき「チョコレート」


さっそく「チョコレート」と「キャラメル」の両方を食べてみたが、「チョコレート」はビターなチョコレートソースがかかっており、どこか大人っぽい濃厚な味わい。「キャラメル」はバタークッキーの香ばしい甘さが特徴だが、ほろ苦くとろりとしたキャラメルソースのせいか、なんとも魅惑的な味わいだ。

悪魔のささやき「チョコレート」はビターな味わいが魅力

悪魔のささやき「キャラメル」はしっとりとしたバタークッキーの食感も楽しい


「守り」と「攻め」でさらなる飛躍を目指すハーゲンダッツ

日本に上陸してからまもなく39周年を迎えるハーゲンダッツだが、ルーベンが創業時に掲げたコンセプトをしっかり守りながら、「悪魔のささやき」シリーズのように時代ごとの新フレーバーの提案も攻め続けている。こういった姿勢もまた、ハーゲンダッツが顧客を満足させ続けるための工夫なのだろう。

最後に、担当者に今後の展望について聞いた。

「ハーゲンダッツは2023年で39周年を迎えます。これだけ長きにわたってハーゲンダッツが愛され続けたのは、当初から変わらぬ独自の製法と、各フレーバーごとにシンプルでありながら徹底して厳選した素材を採用している点にあると思います。こういった素材へのこだわりは今後も変わらず続け、お客様の期待を超える新たなフレーバーを開発し続けます。今後ともハーゲンダッツのアイスクリームにご注目いただき、ご愛顧いただければ幸いです」

多くの人々の“ご褒美”として愛され続けるハーゲンダッツ。今後の新展開からも目が離せない。

おいしさを守りながら、顧客を楽しませるために攻め続けるハーゲンダッツ


取材・文=松田義人(deco)