西日本に“納豆嫌い”が多い理由とは?北海道「牛乳納豆茶漬け」に鳥取県「スタミナ納豆」…納豆の地域性に迫る

2022年11月10日

「納豆」は好きだろうか?その粘り気や独特なにおいから好き嫌いが大きく分かれる食品だが、最近では納豆にもバリエーションが増え、シソ味や卵風味といった商品を打ち出すメーカーも出てきている。最近ではにおい控えめのものなど、食べやすい工夫がされているものも多い印象だ。そんな納豆だが、東日本と西日本では“納豆嫌い”の割合が大きく異なるのはご存知だろうか。

納豆総合情報サイト・全国納豆協同組合連合会納豆PRセンターが2021年6月に公表した「納豆に関する調査」の調査結果報告書によると、「納豆を全く食べない」という回答が中国地方と四国地方で22.1%と最も多く、次いで近畿地方が17.4%、九州地方が13.8%だった。一方で東北地方は5.0%、関東地方は7.9%、北海道が8.1%と、近畿や九州に比べて低く、納豆好きが比較的多いという結果だった。

西日本に納豆嫌いが多いということは、昔から言い伝えられてきたため知っている人も多いかもしれない。では、なぜこのような納豆の好き嫌いに地域差が出たのだろうか。

今回はこの疑問を解消すべく、納豆市場シェアNo.1で創業90周年を迎える「おかめ納豆」でおなじみのタカノフーズ株式会社(以下、タカノフーズ) 納豆営業推進の市村真二さんに話を聞いた。

1980年代に発売されたロングセラー商品の「極小粒ミニ3」


西日本に納豆嫌いが多い理由は「海が近いから」?

納豆が嫌いな理由は、「においが嫌」「味が苦手」「ねばねばしている」など、人によってさまざまだが概ねこの3つに分かれる。もちろん「それが好き」と言う人もいるが、苦手な人にとってはこれらの特徴が我慢ならないものなのだろう。そんな納豆嫌いたちは西日本に多く、その理由として市村さんは「江戸時代の海運が関係しているかもしれない」と予想している。

「納豆は、江戸時代から食べられていたと言われています。当時は今ほど物流網が発達していなかったため、魚などを仕入れにくい内陸の地が多い東日本では、大豆をはじめとした穀物からたんぱく源を得ていたという歴史があります。そのため、保存食として納豆がよく食べられていました。逆に魚を手軽に食べられる西日本ではたんぱく質を魚で摂ることができるため、納豆を食べる必要がなかったのかもしれません。昔から大豆の消費量が多かったというルーツを辿れば、納豆の消費が多くなり得るのではないでしょうか」

「極小粒カップ3」は 1カップ30グラム。「少しだけ食べたい」という人に最適


海が近ければたんぱく源となる魚を調達できるが、内陸となれば海がないため漁ができない。そこで「畑の肉」と呼ばれるほどたんぱく質を多く含む大豆を育てて摂取していたというわけだ。内陸部に住んでいた人々にとっては欠かすことのできない栄養源だった。

逆に西日本は多くの県が海に面しているだけでなく、江戸時代には物流の一大拠点だった「天下の台所」の大坂(大阪)を抱えていた地域。そのため物資や食糧の調達がしやすく、魚を食べる機会が多かったと考えられるという。西日本で納豆が食べられない傾向にあるのは、そもそも昔から食べる習慣が少なかったために、あのにおいや味に馴染む機会が少なかったからかもしれないと市村さんは話す。

中粒以上の国産大豆を使用した食べ応えのある食感と香り高いタレが魅力の「国産丸大豆納豆」

わさびの爽やかな香りとツーンとした辛さが楽しめる「やみつき薬味 山わさび納豆」

赤ちゃんの離乳食としても食べられる「旨味ひきわりミニ3」


地域差が激しいなかでおいしく納豆を食べてもらう工夫

「納豆を全く食べない」という人は、西日本でも多くて2割前後。そのため、およそ8割の人は納豆を食べる機会があるのだが、クセの強い納豆を多くの人に食べてもらうためにタカノフーズはどのような工夫をしているのだろうか。市村さんは「味付けを変えるなどして、納豆が苦手な人向けのアプローチを行っている」と答えた。

「納豆が苦手な人が多い地域では、においが控えめな商品を出したり食べやすい味付けのタレを販売して、食べやすくする工夫をしています。また、『食わず嫌い』ではないですが、年齢を重ねたりふとしたきっかけで納豆を食べられるようになる人もいます。子供が野菜をなかなか食べられないのと同じで食の好みが変わってくることもあるため、納豆初心者でも食べやすい商品を出してユーザーの獲得に努めています」

北海道産ユキホマレ大豆だけで作った贅沢なひきわり納豆「北海道産ユキホマレ大豆ひきわり」


また、市販の納豆の多くには醤油系のタレが付属しているが、地方によって慣れ親しんだ醤油の味や種類が違うため、販売する地域の食文化に合わせてタレを変えているという。

「九州は甘い醤油がメジャーなため、九州向けの商品は甘い醤油ダレを使っています。関西では黒く濃い醤油があまり好まれないため、ダシの旨味を強めにしたタレを付けています。味の好みの多様化も年々進んでいるので、昔に比べてバリエーションを増やしています」

醤油や味噌など、土着の味はさまざまだ。そのためタカノフーズは地域ごとに味を変えて販売し、違和感なくおいしく食べられる工夫を行っている。全国どこのスーパーでも見かける「おかめ納豆」も、実は地域によって細かな違いがあったのだ。

九州人に「おいしい」と言ってもらえる納豆を目指して作られた九州限定の「おかめ仕立てミニ3(九州)」

西日本の人々の舌に合わせて作られた「おかめ仕立てミニ3(西日本)」


“スタミナ納豆”に“牛乳納豆茶漬け”?多様化する納豆の食べ方

納豆といえば醤油ダレだけでなく刻みネギや卵黄、キムチ、海苔などのトッピングを入れるのも醍醐味だ。ご飯の上にのせたり焼き餅に挟んで食べたりと、食べ方のバリエーションが豊富なのも特徴だが、地域によって入れるものや食べ方などは違うのだろうか。

「例えば東北では漬物を刻んで納豆に入れるなど、その地域で食べられている特産品と納豆は相性がいいことが多いですね。地域によってはびっくりするような食べ方もあり、鳥取県では『スタミナ納豆』という、挽肉とニンニク、ひきわり納豆を炒めた料理が学校給食で出ており、家庭でも人気です。ほかには北海道・富良野市のお店で提供されている『牛乳納豆茶漬け』という料理があり、とても衝撃的でした」

S-903納豆菌を使った「すごい納豆 S-903」


意外にも牛乳やチーズなどの乳製品と納豆は相性がいいそうで、特に牛乳はまろやかな味わいで納豆のにおいを隠してくれるのだとか。そのほかの食べ方として、ホットケーキミックスと混ぜて焼いたり、バニラアイスやバナナを混ぜてデザートとして食べるなど、予想外の食べ方も存在する。ちなみに市村さんのおすすめレシピは「サバ缶納豆」。サバ缶と納豆を混ぜるだけの料理で、作りやすいだけでなく、魚のたんぱく質や栄養を一緒に摂取できるのがイチオシポイントだ。

「納豆は土地柄に合わせて進化してきた食品です。これまでは全国に納豆メーカーがたくさんありましたが、徐々に廃業と集約が続いてきたという歴史があります。そのため、納豆メーカーにはさまざまな地域の食べ方やノウハウが集まっているんです。これからもそのノウハウを活用し、納豆を販売するだけでなく、私たちの持つ知識を総動員して納豆の魅力を発信していきます」

毎日飽きずに食べ続けられるまろやかな味わいの「まろやか旨味ミニ3」


今はインターネットやSNSでいろんな納豆料理を知ることができる時代。納豆の歴史のなかで、これほどまでに食べ方の多様性が広まったことはないのではないだろうか。これからもタカノフーズをはじめ納豆メーカーが出す新商品や、納豆ファンが編み出す新しい食べ方がとても楽しみだ。もしかすると、いつか納豆嫌いでもおいしく食べられる食べ方が発見されるかもしれない。

取材=西脇章太(にげば企画)
文=小林英介(にげば企画)

参照: 納豆に関する調査