「生々しい生卵」など衝撃作品が続々誕生!“おいしそう”だけじゃなくなった現在の食品サンプル事情とは?

2023年2月11日

日本に住む人にとってはなじみが深い「食品サンプル」。飲食店の入り口に並んでいるサンプルを見て、どのメニューにしようか悩んだ経験は誰しもあるはずだ。食品サンプルは大正末期から昭和初期に日本で発明され、その精巧なつくりは“日本のリアルアート”と評され、世界でも注目を集めているのだとか。

そんななか、飲食店などから注文を受け、年間約20万点もの食品サンプルを受注生産しているのが株式会社いわさき。注文を受けるだけでなく、毎年「食品サンプル製作コンクール」を開催しており、そこには多彩な作品の数々が出展されているという。なかでも「生々しい生卵」「食べかけのプリン」といった作品は、本来の使い道を超えたユニークな食品サンプルとしてTwitterで話題となった。

今回は、株式会社いわさき(以下、いわさき) 総務本部の西さんに、ユニークな食品サンプルが生まれる背景や製作のこだわりを聞いた。

「どこに置いても衝撃的」とTwitterに投稿された写真。パソコンを見てこれがあったら悲鳴をあげてしまいそうだ…


“リアル感”は大前提!ユニークな作品作りに力を注ぐ理由

いわさきは、1932年に創業した「岩崎製作所」を前身とする、食品サンプルを中心とした、各種販促物の製造・販売を行う大阪府に本社を置く企業だ。創業者の岩崎瀧三が食品サンプルの事業化に初めて成功して以来、現在も業界のパイオニアとして外食産業を支えている。

そんないわさきグループで実施しているのが、食品サンプル製作技術者が対象の「食品サンプル製作コンクール」(以下、コンクール)だ。製作技術者の技術向上と開発を目的として1966年から始まった。出展作品はユニークなものも多く、特に2022年に開催した「食品サンプル製作コンクール 一般WEB投票」でグランプリを獲得した「生々しい生卵」は、Twitterで10万以上のいいねを獲得している。

「当初はシンプルに技術を競い合うものでしたが、時代を経るにつれて技術や技法を生かすことは前提として、本物と区別のつかないような超リアルな作品や、遊び心満載でユーモラスな“映える”作品などが出展されるようになりました。また、食品サンプル製作技術共有の場や、各地の製作技術者の交流の場としての狙いもあり、多くの新技術や新しい表現方法の発見、新商品の開発に生かされています」

グランプリに輝いた「生々しい生卵」

3社合同役員審査グランプリ「実家からちゃぶ台ごと届いた晩ごはん」


さらに、出展作品は「8時間以内で製作する」という規定が設けられている。通常業務をこなしながら製作をするため、製作方法の試行錯誤は行うが試作品を製作することは少なく、ほとんどが一発勝負。いわさきグループに在籍する全国約100名の食品サンプル製作技術者の腕を競い合う場となっている。

株式会社いわさき 社内審査銀賞「えっ!?木じゃないの!?」

「おいしさのアート展2022 in 大阪会場 あべのハルカス近鉄本店」の様子。2022年はいわさきグループ創業90周年を記念して、東京ソラマチ、岐阜県・郡上八幡との3カ所での開催となった


大切なのは“実用性”。日々の生活に遊び心をプラス

いわさきでは、一般の人でも気軽に食品サンプルを楽しめるようにと、2019年に飲食店用だけではなく一般消費者向けの商品開発に乗り出した。見た目だけでなく実用性も兼ね備えているのが魅力であり、「食べかけ懐かしプリン小物トレー」「ひんやり枡酒メモスタンド」「【ギフトセット】定番和食!おにぎりと味噌汁」といった商品を展開している。

「プロジェクトの会議のなかで、『こんな商品があったら楽しいかも』と各世代のメンバーが意見を出し合うことでアイデアが生まれています。メンバーのなかには製作技術者もいるので、『こんな作り方だったらどうですか?』『じゃあ、一度作ってみよう』というやり取りからアイデアがどんどん形になっていきます」

「食べかけ懐かしプリン小物トレー」の食べかけの部分。クリームやカラメルの具合までリアルだ

「【ギフトセット】定番和食!おにぎりと味噌汁(わりばしボールペン付)」


一方、いわさきが運営するSNSに寄せられた声から生まれた商品が、「何か入れネバ!納豆ごはん小物入れのふた」。「納豆がモチーフの商品がほしい」という声をきっかけに、「一瞬触るのをためらうネバネバとした納豆ごはんのサンプルのなかに、SDカードや小銭を隠しておくとおもしろそう!」と出てきたアイデアなのだとか。西さんは、「『何か入れねば(ネバネバ)!』と、名前を見てクスッと笑ってもらえると幸いです」と話す。商品のアイデアからネーミングセンスまで、いわさきの遊び心がいたるところで感じられる。

「『食品サンプルならではの表現』と、『身近でプラスアルファに使っていただける実用性』を両立させることにこだわっています。例えば、枡酒グラスのひんやり感やこぼれている様子など、本物なら一瞬しか表現できないことも、食品サンプルならその瞬間を止めることができます。これに加え、メモスタンドとしての機能をつけるなど、実用性を持たせることを心掛けて商品開発をしています」

メモが挟める「ひんやり枡酒メモスタンド」

今にもこぼれ出してきそうなほどリアル

「何か入れネバ!納豆ごはん小物入れのふた」

普通ならありえないシチュエーションが実現できるのが食品サンプルの魅力だ


見る人々を笑顔に!食品サンプルの“今”の魅力とは?

食品サンプルは年齢や国籍を問わず、言葉を超えて直感的に料理の魅力を伝えられる販促物だ。もともとは“料理の見本”として始まった食品サンプルの歴史だが、販売促進の意味合いが強まっていき、今や“本物そっくり”よりも“おいしそうな瞬間の演出”が求められているという。

「食品サンプルは『おいしそうだけど食べられない』という存在自体のおもしろさで、これまで多くの人々の興味・関心を引いてきたのだと思っています。そして今のご時世だからこそ、街中に食品サンプルをあふれさせ、人々の気持ちを明るくしていきたいですね」

2022年に創業90周年を迎えたいわさき。ここ数年は食品サンプルの技術を応用して、栄養指導や病院・教育施設向けの「栄養指導フードモデル」や、医療用の「メディカルトレーニングモデル」と、幅広いジャンルの商品開発を行っている。人々の生活になくてはならない存在になる日もそう遠くはないかもしれない。

牡蠣のプリッと感まで完全再現したキーホルダー

飾りとしても楽しめ、実用性も兼ね備えるハイブリッドな商品

いわさきのTwitterアカウントでは、インパクト大の食品サンプルの写真と秀逸なコメントを投稿している。ファンが絶えない理由の1つだ


飲食店も従来通りの営業を再開し、また食品サンプルを目にする機会が増えてきた。外食時に本物さながらの食品サンプルを見てわくわくしていた子供の頃のように、今一度じっくりと観察してみてはいかがだろうか。あの頃からさらに進化した表現力や豊富なバリエーションに、改めて驚きと感動を覚えるかもしれない。

取材・文=中谷秋絵(にげば企画)

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