家でコーヒーを飲まない時代に生まれた「雪印コーヒー」が“コーヒーの1ジャンル”となった理由とは?60年間の歩みに迫る

2022年12月17日

ミルキーなコーヒー飲料として世代を問わず親しまれている「雪印コーヒー」。2023年で誕生から60周年を迎え、今も昔も多くの量販店で販売されているロングセラー商品だ。

しかし、雪印コーヒーが生まれた当時は、まだコーヒー文化が世間に浸透していない時代。一体どのようにして、ここまでの人気となったのだろうか。

今回は、雪印メグミルク株式会社 市乳事業部 飲料グループの浪江晃斗さんに、そんな時代に生まれた雪印コーヒーが長く愛されるヒット商品になった理由を聞いた。

現在の「雪印コーヒー」ブランドのラインナップ。その展開はもはや飲料だけにとどまらない


始まりは「三角形のパック」から!世間に浸透させるための工夫

今ではすっかりお馴染みの四角い紙パックに入った雪印コーヒー。スーパーやコンビニの売り場で目にする機会はあまりに多く、忙しい朝にも手軽に飲めるコーヒー飲料として、筆者の家の冷蔵庫にも常時ストックしている。

この習慣から、「雪印コーヒーは四角いパックが当たり前」と思っていたものの、誕生年の1963年当初は「テトラパック」とも呼ばれる三角形のパックだったという。その後、1970年まではこの容器で販売されていたんだとか。

「その時代、コーヒーは“喫茶店で飲むもの”というイメージでしたが、1960年代に入るとインスタントコーヒーがお茶の間にじわじわと普及してきました。そこに着目して生まれたのが雪印コーヒーでしたが、まだ“コーヒーを家の冷蔵庫から出してそのまま飲む”という習慣の普及には至っておらず、三角形のパックでの発売となりました。1970年に現在の形の500ミリリットルパックが発売されました。喫茶店で飲むおしゃれなイメージにあやかり、しゃれたグラスのイラストを採用し、多くの方に浸透させる工夫を施しました」

発売当時は「雪印コーヒー牛乳」という名前で三角形のパックで売られていた


スーパーなどで売られている1リットルパックの雪印コーヒーが発売されたのは、さらにその8年後の1978年。このことからも、雪印コーヒーが世間に普及するまでの道のりはそう容易いものではなかったことがわかる。

また、雪印コーヒーのパッケージデザインの「茶・黄・赤」の3色の配色は、当時はもちろん今でも他ブランド製品に見ないものだった。この大胆な配色がその後「雪印コーヒー」ブランドの象徴となり、認知に大きく貢献。それが今日まで継承され続けている。

1970年に変更されたパッケージ


「誰もが思い出せる味」だからこその挑戦

味わいや意匠などによるイメージ戦略を着実に行い、圧倒的な地位を勝ち取った雪印コーヒーだが、その素朴な味わいも人気の理由だろう。誰もが名前を聞けば味を思い出せる商品になったからこそ生み出される、派生商品や限定品も多く発売してきた。

特に500ミリリットルパックは、雪印コーヒーの派生フレーバーを多く展開してきた。過去には、「パンプキンプリン風味」「ピーナッツクリーム風味」「チョコラータ」「塩キャラメル風味」「チョコミント」「焦がしきなこ風味」など、斬新すぎて思わず手に取ってしまうフレーバーの数々を展開。ファンの間では、復活を望む声が多いものもあるという。

雪印コーヒーの派生フレーバー群。なかなか斬新なものも…


また、現行品では「牛乳とまぜるだけ 雪印コーヒー 希釈タイプ」といった商品も。5倍希釈で約8杯分楽しめる設計だが、自分好みの濃度の雪印コーヒーを作ることができ、これもファンにはたまらない商品だ。

5倍希釈で約8杯分を楽しめる「牛乳とまぜるだけ 雪印コーヒー 希釈タイプ」


さらに飲料以外では、雪印コーヒーの味がデザートとして楽しめる「雪印コーヒープリン」や、パンに塗って食べられるスプレッド「雪印コーヒーソフト」という挑戦的な商品もある。いずれも雪印コーヒーという確立された商品だからこそ展開された、意欲的商品群と言っていいだろう。

雪印コーヒーの味がデザートとして楽しめる「雪印コーヒープリン」

雪印コーヒー風味のパンスプレッド「雪印コーヒーソフト」


まさかの銭湯コラボ!?歩みを止めない雪印コーヒー

雪印コーヒーに関連する展開は飲食物だけにとどまらず、10年前には発売50年を記念したオリジナルキャラクター「うしっ娘ゆきこたん」も登場。説明には、「みんなをまとめようといつも一生懸命なうしっ娘ゆきこたん。でも実はドジっ子で、よく走り、よく転ぶ。『うし』であるせいか、『もーっ!』が口グセ。しっぽの動きで、その時の気持ちが分かるらしい」とある。

雪印コーヒー発売50周年を記念して登場した公式キャラクター「うしっ娘ゆきこたん」


一見、人間の女の子のように見えて実は牛…という遊び心は、長い歴史がありどこかストイックにも映る雪印コーヒーのイメージをキャッチーにしているように感じられるが、こういった柔軟性はキャラクターの登場だけに終わらない。

今から5年前には、発売55周年企画として東京の銭湯で「雪印コーヒーの湯」を展開。雪印コーヒーの色合い、香り、肌触りを徹底再現した湯で、銭湯内の装飾も全て雪印コーヒーに変身させたという。

雪印コーヒー発売55周年を記念して期間限定で誕生した「雪印コーヒーの湯」のイメージ


「雪印コーヒーは2022年に発売60年目を迎えました。2022年春にはブランドリニューアルを行い、現在も『#雪コに甘やかされたい』というプロモーションを展開し、この一環で巨大な雪印コーヒーを模したクッション、動画、QUOカードのプレゼントなどを実施しました。現段階では告知できないのですが、誕生60周年以降も多くの方に支持していただけるよう、コミュニケーションを図っていきたいと思います。ぜひ今後とも、ご注目いただければありがたいです」

応募者が殺到したという雪印コーヒーの巨大クッション


雪印コーヒーは「もはやコーヒーの1ジャンル」に

改めて振り返ると、雪印コーヒーには類似商品の追随を許さない何かがありそうだ。最後に、雪印コーヒーが今日も多くの人々を魅了して止まない理由を聞いた。

「雪印コーヒーには長年変わらない味わいと、60年という長きにわたって多くの方にご愛顧いただいてきた歴史があります。このことから、市場における雪印コーヒーは、もはや“コーヒーの1ジャンル”として独立した存在だと自負しており、このことが他社からの類似商品を寄せ付けない要因だと考えています。いつ、どんなシーンでも思い出せる味わいであり、これは広い世代の方にご認識いただいていると思います。今後も雪印コーヒーを弊社の大きなブランド資産として、60周年以降もさらにブラッシュアップさせていきたいです」

どんなシーンでも思い出すことのできる味わいが1番の魅力だ


挑戦をやめないからこそファンを獲得し続け、ずっと変わらないからこそたまに無性に飲みたくなる、唯一無二のコーヒー飲料。すっかり日常に溶け込んだ雪印コーヒーの今後の展開から目が離せない。

取材・文=松田義人(deco)