スーパーやコンビニのお菓子コーナーに行くとあらゆるチョコレート商品を目にすることができるが、なかでも馴染み深い商品の1つが「キットカット」ではないだろうか。個包装で食べやすいことに加え、チョコレートとサクサクのパフの相性の良さから、1つ、また1つ…と無限に食べたくなる人も多いだろう。
しかし、ここでふと疑問に思ったことがある。「キットカット」は、なぜ“2切れ”なのだろうか。当たり前のようにパキッと割ってひと切れずつ食べているものの、できればもう少しスムーズに、より多くあの味を楽しみたいと思うのだが…。さらに、どうして1つのチョコレート菓子が、受験生応援に欠かせないものとなっているのだろうか。
今回はこの素朴な疑問について、「キットカット」の製造・販売を行うネスレ日本株式会社の広報担当者にインタビュー。合わせて、誕生から日本上陸までの歴史や「キットカット」にまつわる裏話を聞いてみた。
2切れ仕様は日本だけ!受験生応援の理由とは?
イギリス生まれの「キットカット」が誕生したのは、1935年のこと。今日では世界中で愛されているチョコレート菓子として親しまれているが、誕生当初から現在に至るまで本国・イギリスだけでなく、多くの諸外国では4フィンガー(4切れ)仕様なのだという。冒頭で触れた2フィンガー(2切れ)仕様なのは、なんと日本だけなのだそう。
「イギリスで生まれた『キットカット』は誕生当時からずっと、4フィンガー仕様でした。日本に上陸してからも30年ほどは4フィンガーでの製造を行っていましたが、小サイズを好む日本人の嗜好に合わせ、日本での『キットカット』は2003年から2フィンガー仕様での展開となりました。日本では2フィンガーが定着していますが、日本以外の諸外国では今でも4フィンガーが主流です」
日本人の嗜好に合わせて仕様を変更したと言うが、「キットカット」好きの筆者としては少々残念なような…しかしこの小さいサイズ感もまたかわいくて良いのだ!という、なんとも複雑な思いが交錯した。また、日本上陸から2切れ仕様に転じられた2003年までの間に、とある課題とエピソードがあるという。
「もともと『キットカット』は、イギリスでは“朝から晩まで働く労働者の栄養補給用のお菓子”として作られました。工場で働く男性から寄せられた『お弁当と一緒に職場に持っていけるチョコレートバーを作ってはどうか』という提案から、『キットカット』の元となる4フィンガーのチョコレート菓子が生まれました。その後、1973年から日本での発売が開始されましたが、1990年代に入ると、『特売で販売される大袋製品』というイメージが定着。そのため、主な購入層の母親世代に加え、若い世代に認知・支持されるブランドへ育成していくことが大きな課題でもありました。
そんななか、90年代後半以降、『キットカット』が、九州地方の方言『きっと勝っとお』と音が似ていることから、受験生のゲン担ぎアイテムとして人気を集めるようになりました。このムーブメントを受け、“受験生のお守りのような存在になれたら”と考え、ブランドとしての新たな価値を生み出すべく『受験生応援キャンペーン』を開始。今では受験生の間でゲン担ぎアイテムとして親しまれるとともに、“がんばる人を応援するブランド”という位置付けを確立できたと考えています」
日本人が食べやすいようにと2切れ仕様に変更し、ゲン担ぎアイテムとして受験生を応援し、多方面から消費者の気持ちに寄り添うことで地位を確立した「キットカット」。現在では、裏面にメッセージが書けるパッケージになり、ちょっとしたコミュニケーションツールにも使えるお菓子になっている。
缶に詰められた「キットカット」の“サステナブルな思い”
日本初上陸から2023年で50周年を迎える「キットカット」だが、この記念すべき周年を前に、2つの缶商品がリリースされた。幅21センチという巨大な「キットカット ミニ ギフト缶」と、レトロデザインの「キットカット ミニ レトロ缶」だ。
いずれも馴染み深い「キットカット」の歴史を感じさせながらも、持っておきたくなるかわいいアイテムだが、それだけでなくサステナブルな思いも込められているという。
「『ギフト缶』は、赤い個包装からひょっこり茶色のチョコレートが見えるかわいらしいデザインで、食べ終わったあとはお部屋に飾ったり小物入れとして使うのもおすすめです。1973年の日本上陸時のデザインをモチーフにした『レトロ缶』は、幅11センチほどの小型缶なので、小物を入れてポーチのようにもお使いいただけます。
しかし、単にかわいいというだけではありません。ネスレ日本では2019年9月より『キットカット』の主力製品である大袋タイプの外袋を、従来のプラスチックから紙パッケージへと変更し、海洋プラスチックごみの課題に向けた取り組みを推進しています。この結果、2019年の取り組み開始以来、累積790トン(2021年度末)のプラスチック削減を実現しました。パッケージを紙へと変更したことで、折り紙や小物入れ作りなどの二次利用を楽しむお客様も多く見受けられることから、よりお客様にパッケージの二次利用を楽しんでいただくために、今回新たに缶製品2品を発売しました」
単なるチョコレートを超え、人々の心のよりどころに
「キットカット」は古くからの良さを矜持にしながらも、時代ごとのニーズに合わせて変化を遂げてきており、冒頭の疑問である「2切れ仕様」も今の時代にマッチしているからこそということなのだろう。最後に、今後の展望を聞いてみた。
「2022年春から、ブランドのコミュニケーションとして『きっかけは、キットカットで。』を掲げています。不安定で不確定な社会のなかで前に進むことに躊躇しているお客様や、大切な人に応援や感謝の気持ちを伝えたいお客様に、『キットカット』を通して一歩踏み出すサポートができればうれしいです。単なるチョコレートを超えた、皆様の心のよりどころや人生のパートナーのような存在に進化していきたいと本気で考えております。昨今の先行きの見えない時代において、伝えられなかった思いを伝えたり、夢に向けて気持ちを奮い立たせてさらなる一歩を踏み出せるような、新しい可能性を切り拓くきっかけになる存在を目指していきます」
取材・文=松田義人(deco)