新感覚の“ヌン活”が誕生!?奈良県で「古代スイーツアフタヌーンティー」を体験してみた

2022年12月20日

プレートに並ぶ色とりどりのスイーツやセイボリー(軽食)を楽しむアフタヌーンティー。ホテルやカフェでの優雅なティータイムを楽しむスタイルが大人気となり、「ヌン活」という言葉もすっかり定着している。

さまざまな趣向を凝らしたアフタヌーンティーが流行するなか、古都・奈良県でひと味違ったアフタヌーンティーが登場した。その名も「古代スイーツアフタヌーンティー」。古代人が食べていたスイーツとはどんなものなのか?アフタヌーンティーのお味は?実食してレポート!

立派な杉の看板が目印


古代スイーツを楽しめるアフタヌーンティーの全貌

古代スイーツアフタヌーンティーを提供しているのは、奈良市にある「雑貨カフェBAR ことのまあかり」。奈良や古代にまつわるカフェメニューと雑貨をそろえ、夏は削氷(けずりひ・古代のかき氷の呼び名)でも人気のお店だ。

奈良にまつわる本や絵画などが置かれた店内


場所は、近鉄奈良駅から徒歩3分ほど。観光客で賑わう東向き商店街の西側にあたる、小西さくら通り商店街内へと向かう。大きな杉材の看板を目印に建物の2階に上がると、木の温かみを感じるレトロな空間が広がる。昭和から平成にかけて営業していた喫茶店「可否茶座アカダマ」の面影を受け継いでいるのだという。

早速、アフタヌーンティーを用意してもらった。テーブルにズラリと並んだ古代スイーツの数々は、さながら古代の貴族の食卓のようだ。メニューのほとんどが、古代の食器である須恵器や土師器を復元した器に盛られているのも芸が細かい。

テーブルいっぱいに並ぶ古代スイーツ。そのお味は?※写真は4人分の一部


まずは、おちょこのような器に入った「暑預粥(いもがゆ)」から。そう、『今昔物語』や芥川龍之介の小説『芋粥』でもお馴染みのアレである。事前に配られていたお品書きによると、「甘葛(あまづら)風シロップを薄めた汁とヤマイモの粉を合わせて軽く煮たもの」とのこと。甘葛とは、砂糖がまだなかった時代に用いられた甘味料のことだ。アフタヌーンティーで提供されるのは、『今昔物語』に登場するものよりさらに古い作り方のものなのだそう。とろりとした液状のもので、口当たりは滑らか。ホッとするような優しい甘さが染みわたる。

古典文学や小説でもおなじみの暑預粥(いもがゆ)


お腹の準備が整ったところで、揚げ菓子3種を手に取る。小麦粉と米粉の生地を縄のようにねじって揚げた「索餅(さくべい)」は、そうめんやうどんの原型になったと言われ、昔は宮中で七夕の日に食べるものだったそうだ。ポリポリとスナック菓子のような感覚でいただく。

「索餅(さくべい)」はそうめんやうどんの原型とも言われている


お次は、小麦粉と塩で練った生地を輪っかにし、頭の部分をねじった「捻頭(むぎかた)」。噛むほどに小麦の風味を感じられる。見た目からドーナツのようなものを想像していたのだが、脂っこさはなく、どちらかというと食感は固めのベーグルに近いかもしれない。

小麦粉を使った揚げ菓子「捻頭(むぎかた)」


揚げ菓子3品目の「糫餅(まがり)」は、米粉の生地をツル草の形に成形したもの。お米本来のの素朴な甘味はメニューのひと皿である漬物とよく合う。揚げ菓子はいずれも奈良時代に唐から渡ってきたものを原型としているのだという。糫餅と捻頭は宮中のほか、地方の寺院でも食べられていたと考えられている。

お米本来の甘さが口いっぱいに広がる「糫餅(まがり)」


でん粉と甘葛風シロップを煮固めた「粉粥(ふんしゅく)」は、甘さ控えめのわらび餅のような味わいだ。揚げ菓子のあとに口をさっぱりさせるのにちょうどいい。

わらび餅のような味わいの「粉粥(ふんしゅく)」

ツルンとなめらかで、モチモチした食感


鴨肉と野菜を薄く伸ばした生地で包んだ「餅餤(べいだん)」は、現代で言えば食事系のクレープに近い。アフタヌーンティーではセイボリーに位置づけられるものだろう。鴨肉と香ばしい生地との相性は抜群だ。

「餅餤(へいだん)」はセイボリー感覚で味わおう


取材日(11月下旬)に提供された季節の果物は、むべ、栗、ドライフルーツの柿の3種。思わず「むべなるかな」と呟いた人は、正解である。かつて天智天皇が、行幸の際に出会った老夫婦に長寿の秘訣を聞いたところ、「この地にこのような果物を産します」と答え、果物を献上した。その果物を食べた天智天皇が「むべなるかな(もっともなことだなぁ)」と呟いたのが名前の由来なのだそうだ。むべは種の間に詰まった果肉部分を味わう。

外側の果肉は舌が痺れるほどアクが強いので、欲張って食べてしまわないようにご注意を。種ごと口に含めば、とろっとした果肉はクセがあまりなく、ジュワッと甘さが染み出してくるようだった。

季節の果物(この日はむべ、柿、栗の3種)

むべは種の間の果肉を舐めとるようにして味わう

上品な甘さが印象に残る


最後に味わったのは、古代のチーズ「蘇(そ)」。同店では開店当初から提供されている定番メニュー。コロナ禍で外出自粛が続き、牛乳の消費が呼びかけられた際に自宅で蘇を作ることが流行したのは記憶に新しい。牛乳をただひたすら煮詰めただけなのに、キャラメルのような香ばしさとほのかな甘さを感じる。キャラメルのように歯にくっつかないのはうれしい。

コロナ禍の自粛期間中にも話題になった古代のチーズ「蘇(そ)」


柿の葉茶専門店「SOUSUKE」の「爽枝(さえ)ブレンド」はポットで提供され、お代わり自由。奈良県産の柿葉とローストした柿の枝をブレンドしたお茶で、香ばしくすっきりした後味だった。

すっきりした味わいの柿の葉茶は古代スイーツとよく合う


ひと皿ずつに歴史的な由来があり、食から古代の人々に思いを馳せるおもしろさを味わうことができた。現代の砂糖たっぷりのスイーツとは違い、素材の甘味を生かしたものが中心なので、「甘いものはたくさん食べられない」「ケーキよりおせんべいが好き」という人にもおすすめしたい。

実はアフタヌーンティーに最適な「古代スイーツ」

ユニークなアフタヌーンティーのアイデアは、どのようにして生まれたのだろうか。オーナーの生駒あさみさんに話を聞いた。

――「古代スイーツ」を作ったきっかけは何だったのでしょうか。

「当店は奈良にまつわる雑貨やカフェメニューをそろえています。なので、古代をモチーフにしたものはいつか出したいと思っていました。奈良女子大学で古代史や古代の食について研究しておられる前川佳代先生にレシピ提供をしていただき、実現することができました」

――専門家の研究をもとにしたレシピだったのですね。

「そうなんです。前川先生は甘葛煎(あまづらせん)や古代スイーツの再現に取り組んでおられ、以前からイベントでご一緒する際などにアドバイスをもらっていました。前川先生の活動内容と、奈良や古代という当店のテーマがうまくマッチしたんです」

――「古代スイーツ」の提供をはじめたのはいつからでしょうか。

「2022年3月にイベント出店で2日間のみ提供することからスタートし、製造の段取りを把握したところで、4月にセットメニューとしてお店でも出すようになりました。古代のお菓子はバリエーションが多く、『いっそアフタヌーンティーにすればいいのでは?』と思いつき、アレンジの方法や提供の仕方を前川先生と相談しながら決めました。アフタヌーンティーをスタートしたのは11月からです」

――アフタヌーンティーの構成を考えるにあたって、どんなことに気を付けましたか?

「古代は平安時代までを指すのですが、奈良をテーマにしている当店では奈良時代に食べられていたであろうお菓子をアフタヌーンティー仕立てにしました。唐から渡ってきたものや果物を中心に、お皿ごとに異なる食感や味を楽しめるようにしています」

――「むべ」という果物があることや、今でも栽培されていることは今回初めて知りました。

「滋賀県近江八幡市に、むべを栽培されている農家さんがあるんです。天智天皇が祀られている近江神宮に献納されているそうですよ。ただ、今年分は11月末に収穫が終わってしまったので、今後は別の果物をご提供することになると思います」

――柿の葉茶もおいしかったです。

「ありがとうございます。お茶は何を出すか迷いました。というのも、奈良時代のお茶は固形だったという説があり、普通のお茶だとコンセプトがズレてしまうと思ったんです。柿は奈良時代にもあったことがわかっていたので、柿の葉茶なら繋がるなと」

――須恵器や土師器といった、古代の器も雰囲気が盛り上がりますね。

「これはアフタヌーンティーのために新調したのではなく、もともとお店で使っているものなんです」

――なるほど!お客様からの反応はどうでしょうか。

「Twitterで告知したところ、たくさんの反応をいただきました。古代スイーツアフタヌーンティーを目当てに奈良に来たというお客様もいて、すごくうれしかったです」

――たしかに、奈良だからこそ、という感じがしますね。

「私自身も奈良が大好きなので、古代スイーツアフタヌーンティーが実現できたのがうれしいです!古代の奈良の人々のことを思いながら召し上がっていただきたいですね」

古代スイーツアフタヌーンティーは、ことのまあかりの予約専用フォーム( https://edisone.jp/kotonomaakari )にて3日前までの要予約。1人3850円。1~3人までの対応可(4人以上は要相談)。2時間以内でお茶のお代わり自由。夏季以外の通年提供を予定している。

この冬はぜひ、古都・奈良で時空を超えた「ヌン活」を体験してみては?

取材・文=油井やすこ

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