かつては「地方出身」ということでからかわれたり、いじられることもあったが、現在はその風潮に変化が起きているようだ。
株式会社朝日新聞出版が運営するウェブサイト「AERA dot.」(アエラドット)と慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所が共同で、都内の大学生を対象に「地方いじりの実態」についての調査を行ったところ、「地方出身」であることをからかわれた人のうち半数以上が「話題になってうれしい」と回答し、プラスに考えていることがわかった。また、からかった経験のある首都圏出身者にその理由を尋ねたところ、86%が「話が盛り上がるきっかけ」だったと回答。かつてはからかわれることがあった「地方出身」が、今日ではその人の個性や価値に結びついているようだ。
この調査をもとに、実際に慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所 文学部2年の飯野恵さんに実体験をふまえた解説を聞いた。Z世代にとって“地方への思い”はどう変わってきているのかを見ていきたい。
東北なまりが原因で「留学生かと思った」と言われた
この調査は、大型広告企画「大学対抗!AERA dot.ネットニュース総選挙」で、2022年9月17日から10月11日にかけて都内の大学に通う学生を対象に行われたもの。一都三県の高校出身者を「首都圏出身者」、それ以外の高校出身者を「地方出身者」とし、都内大学の部活・サークル、県人寮、友人・知人らを通じて実施。首都圏出身者から164件、地方出身者から112件、合計で276件の回答が集まった。
まず、調査に際して飯野さんが「地方いじり」をテーマにした理由を聞いた。
「学生代表である私が、青森県出身だったことがきっかけです。上京後、私は友人に恵まれ、実りある生活を送ることができていますが、それでも地方いじりに遭遇し、違和感を覚えていました。悪気はないかもしれませんが、東北なまりが原因で英語の授業の講師から『留学生かと思った』と言われたのもその一例です。私の高校の先輩には、地方いじりも含めて東京での暮らしに順応できず、退学して青森へ帰ってしまった人もいます。こうした経験から、地方出身者や首都圏出身者が地方いじりをどうとらえているのか、調査したいと思いました」
【調査1】の「地方出身をからかわれたことがあるか?」では、地方出身を「からかわれたことがある」と答えた人が112人中47人の42%。「からかわれたとき、たいていどう感じるか?」では、からかわれた人のうち53%が「話題になってうれしい」、34%が「何も感じていない」、9%が「いい気持ちではない」と回答した。
飯野さんにとって、この結果は少し意外でもあった。飯野さん自身が地方いじりに違和感を抱いていたことに加え、青森に住む飯野さんの母(50代)や親戚(50代)も、以前東京に来たとき、「上野から帰れ」と至るところで言われたことがあったという。相手は冗談のつもりであったとしても「東京で良い扱いを受けなかった」と感じ、地方出身であることをネガティブに考えたと聞いていたからだ。
しかし飯野さんの周りの学生を取材すると、地方出身であることをプラスにとらえる人が何人もいることがわかった。例えば、「『地元では徒歩圏内にコンビニがない』『スタバのある駅がない』と言うとウケがいい」、「地方出身であることを自虐ネタにして笑いに変える」という人が多いようだ。
首都圏出身者からも「地方出身であることはアイデンティティとして羨ましい」「方言がかわいい・カッコいい」という声もあることから、飯野さんの親族も「時代も変わったねぇ」と驚き、価値観の変化を身をもって感じているという。
気になる“いじる側”の意見と傷ついたケース
【調査2】の、「地方出身者をからかったことがあるか?」「地方出身者をからかったのはなぜか?」の結果も興味深いものになっている。
地方出身者を「からかったことがある」と回答した人は26%。地方出身者をからかった理由については、「話が盛り上がるきっかけ」と回答した人が86%、「コミュニケーションの一環」と回答した人が74%にのぼった。このことから、「からかう側」は相手に対してプラスの感情を抱いたうえで、コミュニケーションの一環としてからかっていることがわかる。
実際のエピソードとして、首都圏出身者からは「OIOI(マルイ)を『オイオイ』と読む地方出身者に対し、気まずくなるのを避けるためにユーモアを込めてからかった」「『群馬県に行くにはパスポートが必要か』とからかった」「福岡出身の友人に『明太子を備蓄してるか』と聞いた」など、話を盛り上げるために発言した人も多い。
ちなみに、飯野さん自身も上京当時は「OIOI」を「オイオイ」と呼んだそうだが、「真面目なトーンで間違いを指摘されるよりも、その場でユーモアを持ってからかってくれたほうがいいと感じた」と話す。
しかし、約10人に1人が「いい気持ちではない」と思っていることも事実だ。実際に地方出身者のコメントのなかには、「ひどく傷ついた」というケースもあった。
具体的には、「西武新宿線が止まって寮に帰れず、どうすればいいか友達に聞いたら、『振替輸送も知らないの?中央線で帰ればいいじゃん(笑)』と小馬鹿にされ、その場では笑って流したがショックだった(青森出身者)」「8県と接する“陸の孤島”と嘲笑われた(長野出身者)」「『岐阜って海もないし、行くところないじゃん』と言われた(岐阜出身者)」などだ。
さらに前述の飯野さんと同じように、「言葉のアクセントを指摘される」という例も少なくない。「私は講師をしていて、生徒からアクセントを指摘されることがあるが、生意気な中高生に言われると腹が立つ(塾講師)」という声も。
有名なエピソードでは、お笑い芸人・空気階段の水川かたまりさんによる「岡山弁の方言“〇〇じゃが”に対し、大学で『じゃがいも星人』といじられ中退した」というものがある。このような例から、「地方いじり」は言い方によっては相手を深く傷つける場合もあるようだ。
「ときには相手の人生をも変えてしまうほど深刻な問題につながることもある」ということを念頭に置き、相手との信頼関係を築いたうえで、臨機応変にコミュニケーションすることが重要であることもわかった。
「都心部が1番優れている」という考えは古い?
センシティブな一面もあり、これまでありそうでなかった有意義な調査だが、だからこそ多くの人が感じているリアルな気持ちを浮き彫りにしたようだ。
同時に、これだけ情報があふれ、多様化する今の社会では、「都市部が1番優れている」といった考えは前時代的なもののように見える。
地方いじりを経て、その土地に興味がわくということもあるだろう。各地に根付く慣習や風土を、特にZ世代の若者たちは“認知し合う傾向が強い”と解釈してみるのもいいかもしれない。
取材・文=松田義人(deco)
■調査結果の詳細、空気階段・水川かたまりさんインタビュー
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