ユニクロ発のブランド「UT」のデザインの決め方とは?“すべてのカルチャーの入り口”を目指した20年に迫る

2023年2月10日

株式会社ユニクロ(以下、ユニクロ)のグラフィックTシャツブランド「UT」。世界中のポップカルチャーをデザインに起用しており、Tシャツにプリントされるのは、流行りのアニメや漫画、洋画の名作、不朽の名盤、企業ロゴ、歌舞伎、浮世絵、ルーヴル美術館所蔵の美術品まで多岐にわたる。

そんなUTは、2023年で誕生20周年を迎える。着る人の個性を手軽に表現できるとして、登場から数多くのコラボを行ってきた。シンプルかつ上質な衣服のイメージが強いユニクロ発のUTが、ここまで幅広いカルチャーをデザインに落とし込んでいるのはなぜだろうか。

今回は、ユニクロUTチームの古川純平さんにUTが生まれたきっかけやコンセプトを、2022年にUTの新クリエイティブディレクターに就任した河村康輔さんに企画の立案方法やデザインの選び方について聞いた。

さまざまな企業やブランド、アーティストとコラボしてきたUT。一体どのようにデザインされているのか?


Tシャツを通してすべてのカルチャーの入り口に

UTは「Tシャツを、もっと自由に、面白く。」をテーマに、2003年に「ユニクロTシャツプロジェクト」としてスタート。2007年にユニクロのクリエイティブディレクター・佐藤可士和さんプロデュースによって「UT」という名前に変更された。そんなUTについて古川さんは、「カルチャーを発信する存在」だと話している。

「Tシャツは1つのキャンバスであり、プリントされた絵柄は何かを伝えることのできるメディアになります。そのようなTシャツの性質を活用し、アートや映画、音楽、漫画、アニメなどを含めたカルチャー全般を発信する存在、そしてユーザーの個性を表現する媒体としてUTブランドを立ち上げました」

2023年春には、庵野秀明が携わった日本を代表する4大ヒーロープロジェクト「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」のTシャツが登場


UTがデザインでカバーするのは、“すべてのカルチャー”。そのため、有名アーティストのイラストからゲーム機器のロゴまで、取り上げるジャンルは幅広く、ユーザーは自分の“好き”を選んで表現することができるのが大きな特徴だ。また、今流行っているカルチャーだけでなく、かつての名作や音楽を若い世代に発信するのも、ブランドの持つ役割の1つ。70年代の洋画やシティポップのイラストといったレトロなデザインも人気を博しているという。

「いわゆる『名作』と呼ばれるものは、何年たっても魅力が色褪せず、そこに文化としての価値があると信じています。私たちのブランドはすべてのカルチャーを発信することがテーマです。そのため、映画や音楽を知らない若い世代が『ビジュアルがかっこいい』というきっかけでシャツを購入し、名作を知る機会になってほしいと思っています。カルチャーの入り口的な役割を担えたらうれしいですね!」


UTのTシャツは、話題のきっかけになったりコミュニティで盛り上がるなど、世代や年齢を問わず大好評だという。ただかっこいいだけでなく、カルチャーを発信して共有するための媒体的な存在になることがブランドのテーマ。「UTをきっかけにカルチャーそのものを知っていただければうれしい」と古川さんは話す。

「直感を信じて決めています」気になるデザインの決め方

カルチャーの発信源として活躍しているUT。実際に、デザインはどのような形で決まっているのだろうか。2022年にUTの新クリエイティブディレクターに就任した河村さんは、「とにかく自分の“かっこいい”という感性が最初にある」と話している。

「自分的に『これはかっこいいな』と思ったものを企画として提案して、そこからチームのみんなと話し合って決めていくという作り方をしています。Tシャツのデザインは視覚的にわかりやすく、洋服の形というよりもデザインやメッセージがダイレクトに入ってきます。それを大前提に、かっこいいものを出したいときはかっこいいもの、かわいいものを出したいときはかわいいものを、というシンプルな選び方をしています」


河村さんの感性がデザインの鍵となっている。コラボ商品を決める際は、一緒に仕事をしたいアーティストや企業、ブランドなどの候補をいくつか出し、そこからデザインのテイストなどを決めてTシャツに落とし込んでいくという。時にはリサーチのために文化の発信地であるロサンゼルスに足を運び、街を歩いている間に「こういったジャンルはUTにいいのではないか」と提案していくこともあるそうだ。

「もちろん、トレンドの波に上手に乗せられない時もあります。すごくかっこいいと思ったイラストやデザインでも、『去年ならウケたのに』と思うようなものもあります。Tシャツが発売される頃のトレンドを予測することがとても難しいですね。パッと見てかっこいいものは世の中にあふれていますが、それをどのタイミングで出すかが重要だと思います」


デザインを考えてから商品が出るまで、かかる年月は半年から1年以上だそう。そのため、河村さんがいいと思ったものでも、Tシャツとして実現できないことも多いのだとか。そんなふうに、答えがないなかで自分の感覚を信じて「これだったらいける」と判断することが、デザインを考えていくうえで難しいポイントだという。

「トレンドを追うことも必要ですが、やはり私たちはブランドを持っている以上、トレンドや流行を作り出していく側に立つのが大事だと考えています。流行を追うのは簡単だが、作り出すことはとても大変。でも負けずに挑戦していきたいです。自分がこれまでしてきた仕事の経験で培った直感や感覚を信じ、ブランドとしての価値を高めていくことが今後の目標です」


UTが展開するTシャツの魅力は、さまざまなカルチャーが多彩に展開され、ユーザーの「かっこいい」「かわいい」といった感性に任せて選ぶことができるところだ。UTブランドが目指すのは、ユーザーにTシャツそのものをカルチャーとして認識してもらうこと。「UTをユニクロから独立したブランドと言えるくらいに、Tシャツで独自性を出していきたい」と河村さんは話す。

2023年春夏はTシャツの原点に立ち返り、現代のストリートシーンを反映したコレクションに


2023年で誕生20周年を迎えるUT。2023年春夏は、Tシャツの原点に立ち返り、スケーターの上野伸平&アレックス・オルソンとのコラボ「Skater Collection」や、グラフィックTシャツの原点ともいえる「The Message」など、現代のストリートシーンを反映したコレクションが登場する。これからもUTは私たちの「かっこいい」を作り続けてくれるだろう。今後の展開からも目が離せない。

取材・文=越前与