「ベビースターラーメン」もとは“従業員のおやつ”?全国的大ヒットのきっかけは子供たちの口コミ

2023年5月10日

昭和、平成、令和と3時代にわたって愛される続ける『ベビースターラーメン』。ラーメンが国民食になるずっと前、そして、スナック菓子という概念もまだ薄かった1959年に誕生した商品だ。どんぶりも箸もお湯も必要なく、“ラーメンをそのまま手で食べられる”おやつであるベビースターラーメンは、当時かなり画期的な商品だったのではないだろうか。

今回は、誕生から約65年が経つ今もなお子供から大人までを魅了し続けるベビースターラーメンの誕生について、株式会社おやつカンパニーの担当者に話を聞いた。

『ベビースターラーメン(チキン味)』の復刻パッケージ


創業者の「麺のかけらがもったいない」という思いから誕生

ベビースターラーメンを製造するおやつカンパニー(当時の社名は松田産業)の創業は1948年。その翌年から麺類の製造を開始し、製粉・製麺業を営むかたわらで即席麺(乾麺)の製造・販売を行っていた。

1948年創業の株式会社おやつカンパニー。その翌年から麺類の製造を開始した


しかし、即席麺製造において避けて通れない「天日干し」という工程でどうしても出てしまうのが“麺のかけら”だった。創業者である松田由雄氏はその“かけら”を集め、アレンジなどをして、従業員たちのおやつとして振舞っていたそうだ。そのおやつは従業員のみならず、その家族や近所の人にまで評判が広がり、松田氏は商品化を決めたという。

松田氏は、小さな“麺のかけら”をそのまま食べておいしいものにするため、材料の配合、麺の太さと長さ、味付け方法など試行錯誤を繰り返し、1959年にベビースターラーメンの前身となる『ベビーラーメン』というおやつを発売した。

もともとは“麺のかけら”だったベビースターラーメンは、今で言う「サステナブル」に通ずる発想から生まれたもので、製麺技術を応用したその製造方法は、オートメーション化された今もずっと変わらず受け継がれているという。

「ベビースターラーメンの誕生のきっかけは、創業者の『もったいない』という思いからでした。ラーメンが国民食になるずっと前、スナックという言葉もまだ日本にない時代だったそうです」

発売当初の『ベビーラーメン』


「子供たちのおやつのなかで1番になるように」

“従業員のおやつ”から晴れて商品化されたベビースターラーメンだったが、前例のない商材ということで、発売当初から支持を得たというわけではなかったと、担当者は振り返る。

「当時『ベビーラーメン』は“風変わりなおやつ”と見られることが多く、すぐさま取引先に受け入れられたわけではありませんでした。しかし、子供たちの目には『おもしろい』と映ったようで、これまで取引がなかった新たな東海エリアの菓子問屋との出会いもあり、子供たちの社交場である駄菓子屋に商品が並ぶようになると、たちまち東海地方の子供たちの間で人気になり、発売から2年で売上は倍増しました」

こうして『ベビーラーメン』の名は各地の菓子問屋に知れ渡るようになり、東海地方だけでなく全国の駄菓子屋へと広まっていき、その支持が安定した1973年、名称に「スター」を加えて『ベビースターラーメン』と改名。「スター」を付け加えた理由は、「子供たちのおやつのなかで1番になるように」という願いからだったそうだ。

「スター」が付け加えられ、『ベビースターラーメン』に

トラックで全国に出荷される様子


「駄菓子」という枠を越えたベビースターラーメン

以降、ベビースターラーメンは駄菓子という枠を飛び越え、さまざまな世代・シーンで親しまれ、言わば「国民的菓子」の名をほしいままにした。従来の“麺のかけら”をパッケージしたデフォルトタイプが1番人気であり続ける一方、ベビースターブランドのなかには、さまざまな意欲的商品が存在する。

ポロポロとこぼれやすい食べづらさを解消するために、つまみやすいように幅広く平たいもの、かけらを丸くひと口サイズに固めたもの、お酒のおつまみにぴったりのピーナッツ入りタイプなど。いずれも当初ターゲットだった「子供」だけのためではなく、さまざまなニーズに呼応する形で誕生した派生商品だ。今日もベビースターラーメンは、人々のライフスタイルに寄り添いながら進化を続け、その味を楽しめるシーンを広げていった。

“麺のかけら”そのままの特徴的な形

さまざまな形状で展開され、子供から大人まで食べやすくなっている

現在の『ベビースター』ブランドの商品群はこんなに!


さらに、その独特の食感、クセになる味わいにより、もんじゃ焼きのトッピングとしても使われるように。2018年以降、おやつカンパニーは、おやつとしてそのまま食べるだけでなく、料理にも使えるベビースターラーメンの新しい楽しみ方を広げるため、サラダのドレッシング代わりとしたり、コロッケやチキンカツなどの揚げ物の衣代わりに使ったり、炒飯や炊き込みご飯に加えるなど、さまざまなベビースターを使ったアレンジレシピを考案。ブランドサイトなどで発信している。

『ベビースターラーメン』を使った「チキンカツ」調理例

『ベビースターラーメン』を使った「ベビースターチャーハン」調理例


「口にすれば笑顔になれるオモシロおやつ」を目指して

近年では、ベビースターラーメンの独創性とパッケージやキャラクターの認知度の高さを武器に、「おやつの常識を超える」をテーマとしたカップ麺やアイス、スニーカー、ビール、焼酎、字体など、実にさまざまなコラボレーション企画を展開。お菓子という枠組みさえ超えて、あらゆるものを楽しくつなげるアイコンにもなりつつある。

1988年のリニューアルより、「白」を基調としたパッケージに

現パッケージに描かれるキャラクターは3代目の「ホシオくん」


約65年前に誕生し、その名にリニューアルされて2023年で50年になるベビースターラーメン。確固たる地位を築き上げた今もなお、「先行きの見えない時代に生きる人々に、ワクワクする気持ちを取り戻してほしい」という思いをもって、さまざまな企画を展開しているという。

最後に、担当者にさらなる未来にかける展望も聞いてみた。

「ファンの方から、『食べるとあの頃を思い出して、気分が前向き・上向きになる』といった、ありがたいお言葉をお寄せいただくことがあります。60年以上にわたってご愛顧いただき続けているベビースターラーメンですが、これから先の未来にもこんなありがたいお言葉をいただけるよう、時代に合わせて進化させられるように努めていきたいと思っています。すでに親しんでいただいているファンの皆様も、まだ食べたことのない方も、ベビースターラーメンの袋を開け、口にしていただければ、自然と顔は上向きになるはずです。ポロッとこぼしちゃっても、なぜか自分も周りも笑顔になっちゃうオモシロおやつ、それがベビースターラーメンです。これからもベビースターラーメンと一緒にワクワクするような時間をお楽しみいただければ幸いです」

三重県にあるおやつカンパニーの工場。『ベビースターラーメン』が壁全面に描かれている


撮影・文=松田義人

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