エースコック『ワンタンメン』開発の鍵は“手延べそうめん”と“松茸”?60年間愛され続けた理由に迫る

2023年6月1日

今ほどインスタントラーメンがポピュラーじゃなかった60年前、いち早く市場に登場した、エースコックの「ワンタンメン」。現在まで多くの人に愛され続けるロングセラー商品だが、“いち早く”ということは、当時は類似商品も少なく手探り状態での開発となったはずだ。

そんなワンタンメンも、2023年で誕生から60周年を迎える。その背景には、一体どんな試行錯誤があったのだろうか。今回はエースコック株式会社の担当者に、ワンタンメンの知られざる誕生秘話を聞いた。

2023年で誕生から60周年を迎えたエースコック「ワンタンメン」。あのCMソングには続きが!


開発の鍵は「手延べそうめん職人」と「松茸風味調味料」!

今日では即席麺の一大メーカーとして知られるエースコック。社内ではワンタンメンの発売に至る以前からインスタントラーメンの開発を行っていたというが、あるとき、創業者の村岡慶二氏は「どうしたらもっとおいしいインスタントラーメンを作ることができるか」を悩み続けた末、1つのアイデアが浮かんだそうだ。

「村岡は、麺が持つ“つるつる感”と、もやしなどの“シャキシャキ感”の食感の違いがおいしさを生み出すということに気づき、『1つのインスタントラーメンで2つの食感を楽しめるようにすればどうか』『幅広い麺と細い麺とで、食感の違いを出せばおいしくなるのではないか』と考えました。その発想から、幅の広い『ワンタン』が入ったラーメンの開発を始めることにしたと言われています」

手延べそうめん職人だった開発者が、たった1人で完成させたという


なんと、当時のエースコックの開発チームの中に手延べそうめんの職人がいたそうだ。その職人がインスタントラーメンに最適なワンタンの食感や長さなどの調整を担当し、試行錯誤の末、たった1人でワンタンメンのワンタンを完成させたという。一方、麺とワンタンのバランスにこそ納得した村岡氏だが、それに合わせるスープにはなかなかOKを出さず、開発チームは苦戦を強いられた。

「当時のスープの担当者が、オニオン・ガーリック、山椒、柚子などさまざまな旨味を加えておいしいスープを作ったものの、村岡はなかなかOKを出しませんでした。社員旅行にも行かずにスープの開発に打ち込んでいた担当者ですが、ある日のこと、ふと研究室の棚にあった松茸風味調味料の小瓶が目につき、それまでは松茸風味調味料にそれほど魅力を感じていなかったものの、なんとなく気になって調合してみたそうです。すると、村岡も大絶賛のスープが完成しました」

特徴的なスープもおいしいワンタンメン(左:『ワンタンメン』、右:『ワンタンメン 豚骨しょうゆ』)


ついに完成間近に至ったワンタンメンだが、肝心な商品名を考える際、村岡氏は「『ン』がたくさん付ければ、運も良くなりそうだ」と言い、「ワンタンメン」と名付けたという。こうして、松茸の風味、なめらかでコシのある麺、しっかり厚みがありもちもちとした食感が味わえるワンタン、そして縁起の良い商品名を携え、1963年に発売。以降、エースコックの看板商品となり、特に同社の本拠地がある関西エリアでは絶大な支持を得るようになった。

その後は他社から類似商品が発売されることもあったが、「やっぱり『ワンタンメン』と言えば『こぶた(エースコックのキャラクター)が描かれているものが1番!」という声が多かったようだ。

後に登場したカップラーメン式の「ワンタンメンどんぶり」(写真はタンメン味)

「ワンタンメンどんぶり」のワンタンは具入り


「ブタブタコブタ…」あのCMソングには続きがあった!

ワンタンメンの発売時、エースコックはCMなどを積極的に打ち出し、そのおいしさを広めるよう努めた。その際、多くの生活者に印象づけたのがエースコックのキャラクター「こぶた」だ。このこぶたは、エースコックがインスタントラーメンの製造・販売に進出した1959年から考案されたもので、ラーメン発祥の地・中国で“円満と繁栄の象徴”として親しまれているブタをキャラクターとして採用したという。

採用後は1年ごとにマイナーチェンジを重ねていったが、ワンタンメンの発売に合わせて考案された「4代目」が、今日までエースコックのキャラクターとして守り抜かれているそうだ。

「実はこの4代目・こぶた、村岡の息子で現社長の村岡寛がモデルなんです。当時はまだ子供だった現社長に似せて作ったそうです(笑)」

「こぶた」のマイナーチェンジの変遷


ワンタンメンのCMではこのこぶたがアイコンとなり、「こぶたの歌」というCMソングも登場。このCMソング自体も大ヒットとなり、「第10回民法大会CMコンクール」では最優秀金賞を受賞した。「ブタブタコブタ お腹がすいた ブー エースコックのワンタンメン」というフレーズを知っていて、さらに歌える人も多いと思うが、あの歌の続きは以下のような歌詞となっているのをご存知だろうか。

「ブタブタコブタ コイツに決めた エースコックのワンタンメン
ブタブタコブタ くたびれた おしまい ドーン」

「さらに親近感を抱いてもらえるように」

1963年の登場から60周年を迎えた今年、ワンタンメンはお馴染みのこぶたを大きくあしらった特別パッケージにリニューアル。エースコックでは長きにわたるワンタンメンの愛顧への感謝を示しながら、これまで以上に多くの生活者に親近感を抱いてもらえるよう、60周年を盛り上げていくという。

「当社を代表するワンタンメンが多くの方から愛され続け、発売60周年を迎えられたことを大変うれしく思っています。弊社の企業スローガンである『Cook happiness』を大切にしながら、ワンタンメンを筆頭に、今後もエースコックらしい楽しさや驚きなどを付加した新しい商品を創造していきます」

エースコックのワンタンメンはさらなる未来へ!


撮影・文=松田義人(deco)

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