料理をする・しないにかかわらず、誰もが使っている食品用ラップフィルム。多くの人が「サランラップ」と呼んでいるものだが、食品の鮮度維持に役立つことはさることながら、ラップフィルムの密着力や切りやすさも大きな魅力。ちなみに、「サランラップ」は商標で、旭化成ホームプロダクツ株式会社が販売している商品である。もともとはアメリカで誕生したものだ。
「サランラップ」は今や食品用ラップフィルム業界トップシェアを誇るが、実は日本で発売された当時の売上は芳しくなかったようだ。では、誰もが食品用ラップフィルムを「サランラップ」と呼ぶほどの認知を得たきっかけは何なのか?
今回は、旭化成ホームプロダクツ株式会社(以下、旭化成)マーケティング部の髙橋弘樹さんに、「サランラップ」の誕生秘話と現在の認知度に至るまでの話を聞いた。
発売当時は売上不振…しかし家電製品の普及で一気に売上急増
「サランラップ」が日本で販売されるようになったのは、1960年のこと。もともとは、アメリカで普及していた食品用ラップフィルムの生産を担当していたダウケミカル社と旭化成との提携により、日本での製造・販売を開始した。しかし当時の日本は、冷蔵庫や電子レンジといった家電製品が一般的ではなく、食品用ラップフィルムを活用するシーンがなかった。今では考えられないが、売上不振の日々が数年間続いていたという。
「1960年頃の冷蔵庫の普及率は約10%だったので、相応に売れ行きが伸び悩んでいました。また、当時の『サランラップ』の価格は高めに設定されていて、7メートル巻きが100円だったのですが、現在の物価に換算すると1000円以上の値打ちとなります。当時の『サランラップ』は高級品だったのです(笑)」
その後、高度経済成長の後押しもあって、1965年には冷蔵庫の普及率が50%に上昇。それに伴い、「サランラップ」は一般に浸透し始め、第1次ブームを迎えた。さらに1975年には、電子レンジの普及により第2次ブームに突入。「1980年代には『サランラップ』の出荷は安定した伸びを見せ、生活の必需品となっていきました。発売当初の売上が悪かったときと比べると考えられないですよね」と髙橋さん。そして現在、食品保存においてなくてはならない存在となった。
店頭販売のステージを「スーパー」に変更して地道な販促活動を
家電製品の一般普及率向上が売上に大きく寄与していたわけだが、一方で、店頭での販売はどのように行われていたのだろうか。そこには多くの競合ブランドがあるなかで、食品用ラップフィルム業界No.1として広く認知されている理由の一端があった。
「1960年の発売当初からテレビCMの打ち出しと、店内での実演販売を行いました。実はこの頃の小売業における代表格は百貨店だったのですが、弊社は当時台頭してきていたスーパーマーケットに注目し、スーパーでの実演販売を開始しました。近年では当たり前の販売手段ではありますが、百貨店より身近なスーパーで実際に触れたり、試していただけたのが良かったのではないかと考えています」
昨今では、物価高騰による節約志向の高まりや、共働き世帯の増加により「作り置き」ニーズが⾼まっていることが追い⾵となり、堅調に売上を伸ばしているそう。そんななか、旭化成では2022年から「サランラップ」と「ジップロック」共同で、食材やおかずを冷凍してストックしておくことで、忙しい毎日の暮らしにゆとりを生む新習慣「冷凍貯金」を推奨し、積極的にプロモーションを行っている。こうした長年にわたる地道な取り組みの1つ1つが、ブランド構築に繋がって今に至る。
「サランラップ」=黄色なのはなぜ?商品パッケージに込められた思い
「サランラップ」といえば、黄色いパッケージを思い浮かべる人が多いかもしれないが、発売当初は違う色だったそうだ。髙橋さんは「1966年のリニューアルで『キッチンに映えるパッケージに』という考えのもと、黄色のパッケージを採用しました」と話す。
2014年以降は緑、ピンク、水色の3色に一新されたが、商品名は長らく愛されてきた黄色を踏襲している。
最後に、今後の展望について聞いた。
「商品の品質や使い勝手の良さに関するお声もいただきますが、“母が愛用していたので、自分も使うようになった”“実家では使っていたが、1人暮らしを始めたときに安いラップを購入したところ、使いづらくて、やっぱり『サランラップ』だ!と思った”と、親子代々でご愛用いただいているエピソードも多く伺います。これからもそういったお言葉をいただけるよう、引き続き食品用ラップフィルムNo.1ブランドとして、使用されるすべての人々にとって使いやすい商品をご提供すべく、品質向上に努めてまいります!」
日頃から当たり前のように使用しているため、つい忘れがちだが、「サランラップ」の登場で手軽に食品の保存が可能となり、それまでと比べてライフスタイルの自由度は格段に上がったと言える。さらに品質向上していくとのことだが、今よりさらに便利になった「サランラップ」を使う日が楽しみだ。
取材・文=西脇章太(にげば企画)