夏のスイーツといえば、冷たいかき氷。一般的に、市販のかき氷はカップ容器に入ったものがイメージされるが、九州地方では“袋入り”がデフォルトなのをご存知だろうか。袋に入ったかき氷をコンビニエンスストアやスーパーで買い、皿に移さず袋のまま食べる。夏真っ只中には冷凍庫の半分が袋入りのかき氷で埋まるほど、九州では定番の人気商品だ。
そんな袋かき氷だが、今では九州地方以外の地域のセブン-イレブンでも販売されるようになった。なかでも関東地方を中心とした東日本では、栃木県の食品会社であるフタバ食品株式会社(以下、フタバ食品)が製造を担当している。 九州のメーカーでしか作られていなかったローカルスイーツを、なぜ関東の会社が作るようになったのか。 今回は袋かき氷が全国的に認知されるまでに至った経緯を、フタバ食品株式会社の担当者に聞いた。
フタバ食品の「袋かき氷」誕生秘話。当初は社内でも賛否両論
フタバ食品では、2007年から袋かき氷の「かき氷 いちご味」を製造している。担当者によると、それ以前から袋かき氷を認知はしていたものの、社内では袋かき氷の販売に対して消極的な意見と積極的な意見があったという。
「九州地方を中心に西日本で袋かき氷が販売されていることは、以前から知っていました。ただ、『弊社でも作ろう』という話になると賛否両論で…。弊社では既にカップかき氷の『サクレ』を販売していましたし、『かき氷ばかりラインナップを増やしてもしかたない』という消極的な意見と、『九州では需要があるわけだから、販売してくれるお店があるなら挑戦してみてもいいのではないか』という積極的な意見がありました」
もともと袋かき氷は暑い地域限定の商品であり、全国的に販売しても需要は少ないだろうと考えていたそうだ。しかし、結果的に賛同する意見が増え、袋かき氷の展開をセブン‐イレブンに提案。一部のセブン‐イレブンから順次発売が決まり、製造に踏み切った。
もしかしたらセブン‐イレブン側にも、年々変化する気象条件を考慮し、地域限定商品の販売エリアを広げてみたいとの考えがあったのかもしれない。両社にとってなかなかの挑戦だったことが伺える。
既存の袋かき氷のおいしさに近づけるべく試行錯誤の日々
製造が決まり、まず行ったのは、袋かき氷の分析と研究だ。各メーカーの商品を取りそろえ、食べ比べをしていった。袋かき氷を初めて見た社員たちは、「なにこれ?」「どうやって食べるの?」と首をかしげていたという。
「きっとこういう製法で作っているんだろうと、1つずつ製法を予想していきました。弊社の『サクレ』もそうですが、通常のカップ入りのかき氷は、大きな氷を細かく砕き、それにシロップを混ぜて、氷の粒とシロップを絡めた状態でカップに詰めています。かき氷の粒にシロップをコーティングしているとイメージしてください。一方で袋かき氷は、ひと粒ずつ流動性がありサラサラとしていて、もみほぐすと感触が変化する製法で作られていたんです」
フタバ食品が当時持っていた技術では、既存の袋かき氷の質感を再現できなかったそうだ。そのため、独自の製法を考える必要が出てきた。行きついたのが、シロップを先に固める方法だ。
「弊社では、味や色の付いたシロップを先に固め、それを砕いたものを袋詰めしています。詳しい製法は企業秘密ですが、質感はもちろん、味にもこだわりました」
袋かき氷の味付けは、甘さや酸味の加減がメーカーによってそれぞれ異なる。製法と同じく他社の商品を分析し、味のバランスを考えていった。
「分析機にかけ、固形分がどのくらい入っているかを見たうえで、味の強さや爽やかさを考慮したレシピを開発しました。こだわったのは、“本物感より駄菓子感。懐かしい味付け”です。酸味のバランスもおいしさのポイントになっているので、味の強さ、酸味の付け方、いちごの香りを重視して製造しています」
40代を中心に大人気!「懐かしい味」を再現してヒット
果肉や果汁を使って本物志向を目指した「サクレ」と違い、「かき氷 いちご味」では“お祭りの屋台で売っているかき氷の味”を目指したという。
販売スタート時の価格は約60円。駄菓子感覚で買えることから、若年層や九州出身者をターゲットにし、販売目標は控えめに設定。長くセブン-イレブンで販売されるうちに、40代以上の男女から支持されるようになった。
「今のメインのお客様は、40代以上がほとんどです。駄菓子的な要素が、大人からすれば懐かしいのでしょう。毎年6月中旬から8月くらいまで、東北エリア、関東エリア、東海エリアを中心に販売しています。具体な数字は言えませんが、例年数百万袋は売り上げているんですよ」
消費者からは、「懐かしい味」「関東で食べられるなんて!」「発売が始まると夏が来たと感じる」といったコメントが寄せられているそうだ。
「毎年SNS上の感想を見ていますが、柔らかくサクサクとした氷の特徴や、味のバランスといったところを非常に評価していただいています。あとは、自分なりにアレンジして食べていらっしゃる方も多いですね」
SNSを見てみると、ヨーグルトと組み合わせたり、ジュースやアイスを使ってフロート風に食べたり、十人十色のアレンジ方法が紹介されている。フタバ食品では、牛乳をかけて食べる方法をおすすめしているそうだ。
「牛乳をかけて食べることも想定したうえでフレーバーを作っています。練乳だと、ちょっと甘すぎるかもしれません。でも、外で豪快に食べてもらったほうがいいのかなって気持ちもありますね。食べる前におでこや首に当てて外側から体を冷やして、食べて内側からも冷やす。食べる前のアクションも楽しんでいただきたいです」
2023年で販売から16年が経つ、フタバ食品の「かき氷 いちご味」。「今まで手に取ったことがない人にもぜひ体験してほしい」と担当者は意気込む。
「多分、店頭で目にしていても『袋に入っているけど、アレなんだろう?』で終わっているお客様も多いと思うんです。食べてみるとその魅力がわかるので、見かけたらぜひ一度買って食べてみてほしいです!」
九州から飛び出し、今や全国区となった袋かき氷。外で冷たいものをサッと食べたいときや、体を冷やしたいとき、お祭り気分を味わいたいときにぴったりのひと品だ。今年は袋かき氷で夏を乗り切ってみては?
取材・文=倉本菜生