「ハーゲンダッツ グリーンティー」発売まで7年もかかった理由とは?ハーゲンダッツ史上初の“日本発”フレーバー

2023年8月4日

数々の人気フレーバーを展開してきたプレミアムアイスクリームブランド「ハーゲンダッツ」。そのなかでも、バニラやストロベリーと並ぶ代表的なフレーバーの1つが「グリーンティー」だ。誕生から27年以上もの間、日本人にとって馴染み深い味として、多くの人々に親しまれている。

濃厚でほろ苦く、すっきりとした甘さのグリーンティーだが、実は、ハーゲンダッツ史上初の日本で開発されたフレーバーだった。開発には、アメリカのブランドオーナーに日本の抹茶文化を理解してもらうため、そして当時はまだ珍しかった抹茶の風味を完璧に再現するために、さまざまな試行錯誤が必要だったという。

今回は「ハーゲンダッツ グリーンティー」の誕生秘話について、当時開発を担当したハーゲンダッツ ジャパン株式会社(以下、ハーゲンダッツ)営業本部の小松宏樹さんに話を聞いた。

当時、「ハーゲンダッツ グリーンティー」の開発に携わっていた小松宏樹さん


「日本独自のフレーバーを」開発から発売まで7年も試行錯誤

ハーゲンダッツは今から約40年前の1984年にアメリカから上陸し、東京・青山に1号店がオープン。当初は店頭販売のショップを中心に展開していたが、1990年にアイスクリームの輸入が自由化されたこともあり、それをきっかけにさまざまな販路を広げることになった。

その際、日本でのみ展開されていたのが、個食用の「ミニカップ」。当時、カップアイスクリームといえば大きなパイントカップが主流だったが、日本の消費者はそこまでボリュームのあるアイスクリームを必要としなかったため、日本市場向けのサイズを新たに展開した。このように日本独自の商品開発が行われるようになったことも後押しして、「日本発のフレーバーを開発しよう」という話になったんだとか。

「今でこそコンビニやスーパーで普通に売られていますが、それまでは百貨店にしか置いていなくて、あとはすべてショップでの販売でした。これから日本で市場を拡大していくことを考えると『日本でも独自のフレーバーが必要だろう』と思い、『それなら、日本文化の本質に近く格式あるものを選びたい』と、『ハーゲンダッツ グリーンティー』の開発を進めることになりました」

1996年に初めて発売された「ハーゲンダッツ グリーンティー」


こうして、「日本の消費者を対象に新しいフレーバーを提供する」という目的で開発が始まった。しかし、最初にグリーンティーのアイデアが出たのは1989年だが、実際に発売されたのはなんと1996年。7年もの時間がかかったのは、完璧を目指してこれ以上ない味わいのアイスクリームを開発したこと、そして、当時は抹茶味のデザートが今ほどメジャーではなく、開発においてすべてが初めて尽くしだったことが要因だ。

日本中に足を運んで…完成・発売までの道程

「ハーゲンダッツ グリーンティー」の原材料は、クリーム、脱脂濃縮乳、砂糖、卵黄、そして抹茶と、いたってシンプルな内容。ハーゲンダッツは、“家庭にあるような素材で作る”という「キッチンフレンドリー」と呼ばれる理念を掲げているため、このような原材料になっているそうだ。舌触りやなめらかさが配合によって微妙に変わるため、開発においては、「“シンプルでプレミアムなグリーティー”を作るのに非常に苦労した」と小松さんは語る。

「材料がシンプルなだけに、作るのが非常に難しかったです。素材の良さを生かしつつ、もともとのハーゲンダッツのミルクの濃厚さもしっかり残さなければいけない。それらが合わさった状態のなかで、ベストなバランスを見つけていくことに1番苦労しました」

そして、開発に必要となったのは、メインの原材料である「抹茶」のことをより深く知ることだった。そのため、小松さんは日本中の日本茶専門店などを訪問し、“アイスクリームに合う抹茶”を追求した。

「専門店で私たちが飲んだのは、一般的な加工品に使われるような抹茶ではなく、お手前の世界で称される高品質なお茶でした。実際に飲んでみると旨味がしっかり感じられ、甘味すらあるように思いました。そのときに専門店の方からも『本当においしいお茶というのはこういうものなんですよ』と言われて、『これはすごい素材を見つけたな』と思いましたね。開発中は一番茶と二番茶を配合するなどして、100回以上もの試作を繰り返しました」

納得した商品を作るため、徹底した市場調査のもと試行錯誤を繰り返して開発を続けた。しかし、アメリカのブランドオーナーにはなかなか日本の抹茶文化を理解してもらえず、販売許可が下りなかったため、わざわざアメリカにいるブランドオーナーたちを日本に招待して本物の抹茶を飲んでもらうことで、やっと許可を得ることができたそうだ。

「ここまで開発に没頭できたのは、『お客様に感動していただけるような商品を作らなければいけない』という使命感があったからですね。『期待通りだったら“満足した”で終わるけど、それを超えるとお客様に感動していただける、そういう商品を作りなさい』と、当時の上司に言われました。この言葉が私の中でストンと落ちて、『完璧を目指す』ということが原動力になっていました」

2016年頃のパッケージ


大ヒットで定番入り!日本を代表する「抹茶アイスクリーム」に

さまざまな苦労を重ねてようやく誕生した「ハーゲンダッツ グリーンティー」は、1996年6月に青山店で発売された。するとすぐに大反響を得たため、次に関東限定で小売店での販売を行った。当時のショップでの売れ行きが好調すぎるあまり、全国で販売することは逆に困難かもしれないと判断した結果だという。しかし、グリーンティーの発売を心待ちにしていた全国の消費者からは、「なんで関東にしかないんだ」と多くの声が上がったそうだ。

ちなみに、商品名を「抹茶」ではなく「グリーンティー」にしたのは、「“アメリカのブランド”というイメージを担保するために、ハーゲンダッツとしてカタカナのほうがいいのではないか」という考えがあったからなんだとか。このようなブランド戦略と、徹底的にこだわり抜いた味わいで日本全国のファンの心を掴んだグリーンティーは、今やバニラやストロベリーと並ぶ、ハーゲンダッツを代表するフレーバーの1つになった。

「ハーゲンダッツブランドをさらに訴求すべく、ミニカップやクリスピーサンド、バータイプなど、いろんな製品を開発しました。そして、節目のときにはグリーンティーにフォーカスしたブランド訴求を行っており、2019年にハーゲンダッツが35周年を迎えたときは、『翠~濃茶~』という手摘みの初摘み茶葉のみをふんだんに使用して、いつものグリーンティーとは異なる濃茶を表現したアイスクリームを展開しました」

2019年頃のパッケージ


ハーゲンダッツはグリーンティーの成功以来、日本発の商品開発に力を入れていて、現在でも1カ月に2種類の期間限定商品を発売するなど、新商品の展開をコンスタントに行っている。また、グリーンティーの人気は日本だけにとどまらず、中国などアジア圏を中心に海外にも広がって、国内外で愛されているようだ。

「苦労して開発した商品が日本だけでなく世界で愛されているのは、すごくうれしいことです。現在、私は開発業務に携わっておりませんが、これからも、1人でも多くのお客様に“感動”していただける商品をお届けできるよう、常にチャレンジしてほしいと思います」

いつも私たちの生活に潤いをもたらしてくれるハーゲンダッツのアイスクリーム。いつかグリーンティーと並ぶような日本を代表するフレーバーが誕生するかもしれないと思うと、今後のハーゲンダッツの展開から目が離せない。

取材・文=山本拓人(にげば企画)

ウォーカープラス編集部 Twitter