「いずれは“牛丼とから揚げの店”に」創業125周年を目前に、吉野家がから揚げに力を入れる理由とは?

2023年8月30日

大手牛丼チェーンとして、まずその名が上がる「吉野家」。今から124年前の1899年に創業され、「牛丼」を初めて考案したことで知られている。吉野家は現在、全国に1213店舗を展開しているが(※2023年8月末時点)、いずれの店舗でも牛丼を中核商品としながらも、各種丼、定食、サラダ、鰻重、カレーなど、約60種以上のメニューを提供している。

そんななか、「今後、牛丼と並ぶ目玉商品に」と吉野家が力を入れているのが「から揚げ」だ。

数年前の“から揚げブーム”により、各地に「から揚げ専門店」が続々とオープンしていたが、現在はひと段落した雰囲気がある。そんな今、どうして吉野家は、牛丼に並ぶ商品をから揚げに決めたのだろうか。今回は、株式会社吉野家の担当者にその経緯を聞いた。

日本で初めて牛丼を考案し、日本人にとっての日常食にした吉野家が「から揚げ」に力を入れる理由とは?


吉野家が牛丼以外のメニューを開発したきっかけ

創業当初から2000年代に入るまでの長きにおいて、吉野家のメニューは牛丼一筋だった。しかし、ある事象をきっかけに“牛丼以外のメニュー”の考案を余儀なくされることに。

「2003年にBSE(牛海綿状脳症)に感染した疑いのある牛が発見され、これを機に、吉野家が採用していた米国産牛肉を調達することが難しくなりました。その結果、翌年の2004年2月から2006年9月までの約2年半、牛丼は販売休止になり、同時に牛丼以外のメニュー開発を積極的に行うようになりました」

このときに考案されたものは「豚丼」をはじめとする各種丼やカレーなどだったが、奇しくも、後に訪れる多様性の時代のニーズにも呼応する形となり、牛丼以外のメニューを食べに吉野家を訪れる顧客も増えたという。

そんな背景から、吉野家がから揚げをメニューに加えたのが2016年のこと。近年のから揚げブームは2015年ごろからじわじわと盛り上がりを見せつつあったため、吉野家でもその流れを受けていち早く取り入れたように映る。しかし、担当者によれば「ブームに乗じたわけではない」とのこと。

「前述のBSEの一件を経て、吉野家では『牛丼だけでなく、さまざまな日常食をご提供したい』と考えていました。当初の牛丼以外のメニューは各種丼やカレーでしたが、さらなる日常食としてから揚げに注目したというわけです」

つまり、から揚げブームが起こり始めた時期と、吉野家がから揚げに注力し始めた時期が重なったのは偶然だったということになる。

吉野家のから揚げ


フライヤーまでこだわり抜いたから揚げの味わい

から揚げブーム以降に増えたから揚げ専門店の多くは、衣がカリカリで薄味のから揚げが大半だった。それを受け、吉野家では独自のから揚げの開発に専念。“吉野家ならでは”のから揚げの追求をし続けたという。

「から揚げの販売をスタートさせた2016年以降、さらなるおいしさを追求しながら、複数回の味のリニューアルをしてきました。カリカリ、サクサクの食感のあとにジューシーな旨味が広がる肉厚なから揚げは、一般的なから揚げと比較すると1.5倍以上もの大きさのビッグサイズです」

実際に食べてみると、たしかに、いわゆるから揚げ専門店の多くの商品に対して味は濃いめでかなりインパクトがある。ご飯がどんどん進む味わいで、「また食べたい」と思うやみつき感も特徴だ。あの牛丼と同様に、吉野家ならではの絶妙なこだわりが反映されているように思える。

「旨味たっぷりなのにもたれない、あっさりとした食後感を味わえるのは、吉野家が開発した特製ダレにあります。生姜をたっぷりと使ったタレなのですが、これを鶏もも肉に48時間以上漬け込んだあと、店舗で1つずつ丁寧に粉付けしてから、高温の油でカリッと揚げています。また、店舗の厨房のフライヤーはから揚げ専用で、雑味を生み出さないことも吉野家ならではの味わいになる理由だと自負しています」

濃いめの味付けでご飯がすすむ!


テイクアウトのから揚げをおいしく食べるコツとは?

すでに吉野家では、から揚げを加えたさまざまなメニューを展開している。ご飯の上にから揚げがのった「から揚げ丼」に始まり、アレンジメニューの「油淋鶏から揚げ丼」「ねぎ塩から揚げ丼」「タルタル南蛮から揚げ丼」、牛丼とから揚げを両方楽しめる「から牛」や、ご飯増量・おかわり無料の「牛皿・から揚げ定食(W定食)」、から揚げのみの「から揚げ(単品)」などがある。

吉野家自慢の牛丼とから揚げを同時に楽しめる「から牛」(テイクアウト)


から揚げを提供している店舗の丼と単品メニューであれば、いずれのメニューもテイクアウトすることができるが、ここで気になることがある。テイクアウトとなると、どうしても冷めたから揚げを食べることになるため、から揚げブーム以降に登場した専門店の大半が“冷めてもおいしい”を売りにしていたが、吉野家のから揚げはどうだろうか。

「もちろん、吉野家のから揚げも冷めてもおいしいですが、もしオーブントースターがあれば、温め直していただくとよりよいと思います。温め直す場合のコツは、アルミホイルを少しくしゃくしゃにしてその上にから揚げを置き、オーブントースターで4〜5分温めていただくと、時間が経過した中で出た余分な水分が飛んで、カリッとした仕上がりを再現できます」

吉野家のから揚げのおいしさをさらに高める「ねぎ塩から揚げ定食」(テイクアウト)


「将来的には『牛丼とから揚げの店』に」

現在、吉野家の全国1213店舗のうち、から揚げメニューがある店舗は800店以上。すべての店舗でオーダーできるわけではないものの、今後は前述のフライヤーなどの設備、店頭スタッフのオペレーションを整えていき、さらなる展開を目指すという。

最後に、創業125周年を目前にした、今の吉野家の思いを聞いた。

「これまで、多くの方からご支持いただいてきた吉野家の牛丼ですが、将来的には『牛丼とから揚げの店になりたい』と思っています。多くの日本人にとっての日常食であるから揚げを吉野家ならではの味わいで提供し、さらに多くの方に喜んでいただければ、こちらもうれしいです。吉野家のから揚げは1個からのオーダーもでき、ご飯にもお酒のおつまみにも合うと自負しています。カリッとした食感のあとにジューシーな旨味が広がり、なのにあっさりとした後味のから揚げのおいしさをぜひお試しいただければ幸いです」

吉野家では順次から揚げ実施店を増やしていくという


吉野家という大手チェーンが改めてから揚げに注力することで、これまでとはまた違うから揚げブームが生まれるかもしれない。今後の展開に注目だ。

取材・文=松田義人(deco)

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