平和と復興を願って生まれた「はとバス」の現在。レアすぎる“制限区域内ツアー”開催の理由とは?

2023年9月15日

東京の街を走る、ひと際目立つ黄色い観光バス「はとバス」。株式会社はとバスが運行しているそのバスは、東京タワーや浅草などの定番スポットを巡る半日・1日観光ツアーをはじめ、東京の街を存分に楽しめるツアーが人気だ。そんな株式会社はとバスは、2023年8月で創業75周年を迎えた。

都内在住の人にとっては「はとバス」が走っている光景は日常で、都内に住んでいるからこそ、その実態を知らない人も多いはず。実は東京の名所以外にも、空港や過去に運行した首都高など、普段なら入ることができない場所を巡るツアーも開催しているそうだ。

今回は、自由におでかけができるようになり、今後さらに大活躍となりそうな「はとバス」の歴史やツアー内容について、株式会社はとバスの担当者に話を聞いた。

レモンイエローのカラーリングが施された「はとバス」の一般車両


最初は黄色いバスじゃなかった!「はとバス」誕生秘話

はとバスが生まれたのは1948年で、戦後の荒廃から国民が立ち上がり、日本を復興させようとしていた時代。「観光事業を通じて、多くの日本の人々に夢を、そして外国の人々には平和な日本の真の姿を紹介したい」という理念のもとに、1948年8月14日に創業した。当時の社名は「新日本観光」で、当初からハトのシンボルマークがあった。

「ハトが採用された理由は、戦後間もなかったことからハトが平和の象徴であること、また、伝書鳩が飛び立ってから無事に目的地に着き、出発したところに必ず安全に戻ってくることから来ています。その後、1950年に『はとバス』の文字が入った2代目シンボルマークに変更し、それがバスの車体に描かれたのを機に『はとバス』という愛称で呼ばれて親しまれるようになったため、創業15年目の1963年に『株式会社はとバス』という社名に改めました」

「はとバス」の初代シンボルマーク

2代目シンボルマーク


ちなみに、シンボルマークは現在のもので3代目。初期のバスはあのおなじみの黄色いカラーリングではなく、クリーム色やベージュに近い色をしていたという。

「車両のイメージの統一のため、途中からレモンイエローになりました。その理由としては、レモンイエローだとバスが大きく見える、遠くから見たときに曇りや日陰であっても判別をしやすい、東京のビル群の中を走っているときでも色が映えて目立つ、といった点からです。1979年以降に導入したバスからは、ほぼすべての車体がレモンイエローに統一されています」

たしかに、利用する側からしてみても、あのレモンイエローのカラーリングは遠くからでも見つけやすく目印にもなる。鮮やかな色合いの車体にはとても合理的な理由があったと言える。

現在(3代目)のシンボルマーク

1948年創業当初の「はとバス」(ガソリン車)。当時はボンネットバスだった


好きなコースを探す楽しみも。バラエティーに富んだツアーたち

「はとバス」のツアーには、関東を中心に季節限定や期間限定、通年参加可能なものなど年間300以上のプランが用意されている。所要時間も半日や1日、郊外へ宿泊するものまで多彩にあるが、その中でも人気のプランや特色のあるツアーを教えてもらった。

「おすすめは、屋根の開いた2階建てのオープンバスで東京の名所を周遊する『TOKYOパノラマドライブ』という1時間のツアーです。1日に13便出ているため、午前中しか予定が空いていなかったり、帰りの新幹線まであと数時間しかないという方でも合わせやすいダイヤとなっています。こちらのツアーだけで全体の2割のお客様にご利用いただいており、1番人気です」

このツアーは東京駅丸の内南口を出発し、国会議事堂や東京タワーなどを見たあとにレインボーブリッジを渡り、豊洲や築地、銀座などを通ってまた丸の内南口に帰ってくるという内容。バスガイドの説明付きで東京の名所の車窓観光をサクッと楽しむことができ、料金も2000円程度とお手軽だ。「どれに乗るか迷ったら、まずはこちらを利用してみてください」とのこと。

「はとバス」の2階建てオープントップバス(エクリプス ジェミニ3)

「TOKYOパノラマドライブ」。2階建てオープントップバスでレインボーブリッジを疾走!


特徴的なものだと、2023年に20周年を迎えた「リラックマ」との期間限定のコラボツアーがあるという。

「『リラックマ』のキャラクターがラッピングされた特別仕様のバスにご乗車いただきながら、観光ができるツアーです。途中で『リラックマ』のキャラクターをモチーフにしたスイーツも楽しむことができ、ご乗車特典としてぬいぐるみキーホルダーのお土産も付いてきます。近年、拡大傾向にある“推し活”にフォーカスした弊社初のツアーになっており、ご自身の推しの『リラックマ』人形を持参して、一緒に景色の写真を撮られるお客様もいらっしゃいます。参加者は女性のお客様が中心ですが、男性お一人でのご参加も意外と多いんですよ」

「リラックマ」のラッピングバスc2023 San-X Co., Ltd. All Rights Reserved.

「リラックマ」コラボツアーのお土産のぬいぐるみキーホルダーc2023 San-X Co., Ltd. All Rights Reserved.


ほかにも、夜景ナビゲーターの説明とともに川崎市の工場夜景を楽しむツアーなど、趣向を凝らしたさまざまなツアーが魅力。また、「TOKYOパノラマドライブ」ではオープンバスで高速道路を走行するため、風を浴びながらの軽いジェットコースター気分を味わうこともできる。

旅客機が目と鼻の先に!制限区域内ツアーが実現するまで

無人島や工場見学など、普段はなかなか立ち入ることができない場所に入れるツアーも人気があるという。特に注目したいのが、「コロナ禍で低迷する運輸業界全体を盛り上げたい」という思いから、2022年6月に始まった「羽田空港ベストビュードライブ」だ。

通常では飛行機に乗る際、保安検査を通過した人のみ立ち入ることのできる羽田空港の制限区域内を巡っていくツアーで、2階建てオープンバスで滑走路ギリギリまで寄っていき、旅客機の離着陸を間近で見ることができる。満席になることも多い大人気のツアーだが、実現までには苦労も非常に多かったそうだ。

「安全面をいかに確保するかという点に大変苦慮しました。1番の懸念点は飛散物です。制限区域内での落とし物は絶対NGで、万が一落とし物があってそれが飛んで行ってしまうと、最悪の場合は旅客機のエンジンに吸い込まれて大事故につながる可能性もあります。このようなリスクに対してどう安全対策を施していくかといった点を、国土交通省と何度もやり取りして詰めていきました」

この懸念点に対し、制限区域外と制限区域内でバスを乗り換え、制限区域内を走る際は持ち物検査を実施。貴重品やカメラなど、最小限の荷物以外は制限区域外を走るバスに置いていく対応を取った。さらに、持ち込みが許可された荷物も専用の透明なビニールバッグに入れて中身がわかるようにしたり、ストラップを取り付けて手に持たずに首や肩に掛けることを徹底するなどの対策を施す徹底ぶり。

羽田空港ベストビュードライブの様子


それ以外にも、空港内専用ナンバープレートの取得や、運転士の制限区域内での運転許可の取得、習熟運転といったさまざまなハードルをクリアし、バスガイドも航空知識を新たに勉強するなど、実現までに約6カ月を要したという。短いものでは1~2週間、平均して2カ月間ほどで企画されるツアーが多い中で、異例の長さの準備期間だったそうだ。

「最初は航空ファンを中心とした参加者の方が多かったのですが、現在は小学生連れのファミリーの参加も多いです。女性の方も一眼レフを持って参加されていたりなど、お客様の層は幅広くなっています。コテコテの東京観光ではなく、ちょっととがったツアーに参加してみたいという方にもおすすめのツアーです」

ちなみにこのツアー、これまではバスの中からのみ見学できる形だったが、2023年7月22日に内容がリニューアルされ、制限区域内でバスから降りる時間も10分ほど設けられることになった。ツアー内容は常にブラッシュアップされているようだ。

「無人島『猿島』とYOKOSUKA軍港めぐりクルーズ」で上陸する猿島。乗船場まで「はとバス」で向かう


「はとバス」で東京の魅力を再発見!キーワードは「温故知新」

「『はとバス』のツアーの根底にあるのは“温故知新”の精神」と話す担当者。ツアーのプランには、東京の定番スポットを巡る歴史の長いものもあれば、「羽田空港ベストビュードライブ」のような現代的なツアーもある。また、2017年には、開通直前のまだ車が走っていない首都高横浜北線に乗り入れて見学するツアーを開催するなど、まさにそのときにしか見ることができない東京近郊の姿も案内している。

「あるリピーターのお客様から、『はとバスは観光業の会社というだけではなく、文化の啓発機構だとも思っています。ツアーの内容やガイドさんの案内を通して、日本の新しい魅力をたくさん教えてもらえて本当に感謝しています』という、うれしいお声をいただきました。東京には古き良き下町の町並みや伝統的な名所があるなかで、新たな名所も生まれ続けています。建設途中の様子もそのときだけの景色です。常に進化していて完成形が見えないところが、東京という街のよさではないでしょうか。そんな変化し続ける東京の魅力を、これからも発信し続けてまいります」

2017年2月27日、28日、3月1日、3日の計4日間だけ開催された「まもなく開通!首都高横浜北線建設現場見学ツアー」の様子


担当者によると、ツアー参加者の半数は首都圏一都三県(東京・神奈川・千葉・埼玉)からだという。地方から東京観光に訪れる人だけではなく、東京を中心とした首都圏在住の人も魅了しているのだ。

普段何気なく通っている東京の街並みも、「はとバス」ガイドの説明を聞くことで、新たな発見に巡り合えるかもしれない。そして、そんなちょっとしたきっかけから、いつも見ていた街の景色の見え方が変わることだってあるかもしれない。これからも多くの人の好奇心を刺激するツアーを生み出し、日本中の人へ、そして訪日客へ、東京という街の魅力を伝え続けてほしい。

「はとバス」に乗って東京の魅力を再発見しよう!


取材・文=小賀野哲己(にげば企画)

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