「リリアン」をご存知だろうか。漫画「ちびまる子ちゃん」(さくらももこ著/集英社)のお父さんとお母さんの離婚危機の際に、「お姉ちゃんにまだリリアン教えてもらってないよ…」という、まる子の悲痛な叫びと共に作中に登場したと記憶している。
リリアン自体は手に取ったことがないながらも、平成生まれの筆者は、小学生のときにブームになった道具不要で己の指のみで毛糸を編む「指編みリリアン」にハマッていた子供の1人だった。今ではそれも懐かしい思い出の一部である。
そんなことを思い出したのは、昨今、ニュースサイトで取り上げられることが増えたレトログッズの記事を見ているときだった。「そういえば、リリアンって今どうなってる!?」と思い立った筆者は、クロバー株式会社から発売されている「ワンダーリリアン」を発見。今でもリリアンが生き続けていることをうれしく思いながら、現物を取り寄せた。
今回は、そんな「ワンダーリリアン」に挑戦する様子をレポート。また、クロバー株式会社にインタビューも行った。10年以上手芸をしていない筆者が悪戦苦闘しながらも、リリアンに魅了されていく様子に注目!
用意するものは毛糸だけ!初めて見る最新のリリアンにワクワク
開封してみると、あまりに軽い本体に驚いてしまった。片手で持てるのはもちろんだが、非常に軽く握りやすい形状になっていて、子供でも使いやすい設計になっているようだ。編み針は先端が少し曲がっていて、毛糸を引っかけやすいように工夫がされている。本体も編み針もピンクを基調としたカラーリングで、かわいらしさとともに、どこか懐かしさのある配色になっている。
さっそく説明書を読みながら、毛糸をセッティングしていくことに。3本ピンと6本ピンの2種類の編み方ができるようで、ディスクを変えることで太いリリアンと細いリリアンが編めるようになっている。まずは簡単そうな3本ピンからやっていくことに。
セッティングは3ステップほどで、ピンに毛糸を引っかけていくというもの。意外にもシンプルな作業でひと安心だ。ちなみに、筆者は毛糸を触るのも小学生の頃の指編みリリアン以来となる。
くるくるとディスクを回転させながら、編み針を使って毛糸をピンの下から上へ外していくような動作を繰り返す。単純な作業だが、一度始めると無心になって編み続けてしまった。無心になれることに加え、徐々に長くなっていく毛糸を見て達成感を感じ、どんどん楽しくなってくる。
しかし、時折編み針で毛糸をうまく引っかけることができず、毛糸が割れてしまうという場面も。割れたまま編むと毛糸がきれいに整列せず、いびつになってしまうため要注意だ。
何度かそんなことをしていると、ピンに溝があることに気がついた。「もしや」と思い、その溝に沿って、下から上にそのまま引っ張るのではなく、編み針を下向きにして毛糸を引っかけてから引っ張り上げる。すると毛糸を割ることなく、スムーズに編むことができた。思わぬポイントを発見したうれしさからさらに編み進めていき、気がつくととんでもない長さに…!
リリアンをさらにもうひと工夫!お花アレンジに挑戦するが…
黙々と編み続けた結果、とんでもない長さになった毛糸。ストレス解消になったのはいいが、このままではただ長いだけの編み物になってしまう。そこで、編んだ毛糸を何かアレンジできないかと調べてみることに。「ワンダーリリアン」のパッケージにも、白い毛糸で編まれたヒツジのぬいぐるみの写真が載っており、編みぐるみなど、アレンジが可能であることがわかる。
長く編んだ毛糸を花の形にする方法を見つけ、さっそくやってみることに。蛇腹において、左右どちらか一方に糸を通して最後に絞ればできるとという。
ひまわりのような、花びらがたくさんある花をイメージしながら糸を通していくが、できあがったのはイソギンチャクのような…とても花とは言えない何か。どうやら毛糸が長すぎたことが原因のようだ。
この反省を生かし、再び挑戦。今度は毛糸を変えて華やかな色味のものを使うことに。また、毛糸の太さも変えて、どのように編まれるのかを見てみることにした。毛糸が細くなったことで編みやすく、スイスイと編み進めることができ、色味も変えたことでよりかわいらしいものにできた。長さも意識し、編み上げた毛糸を花の形にすると、なかなかの出来栄えに!
さらにほかのアレンジにも挑戦すべく、再び毛糸を変えてみることに。今度は花の形ではなく、編んだ毛糸の中に針金を通すことでさまざまな形に変えられる「ウールレター」にアレンジ。好きな形や言葉にできるので、1つ作っておくと幅広く工夫できる。誕生日などのイベントの際にはオーナメントとしても活躍してくれそうだ。
今回は2パターンの太さの毛糸を編んだが、大きな輪編みツールを使うと靴下を作ることも可能なようで、実用性にも富んでいるようだ。まだまだ可能性を秘めたリリアンに、筆者はすっかり魅了されてしまった。
今は“大人の手芸用品”に!根強い人気のリリアンの魅力とは?
リリアンのとりこになった筆者は、長年愛され続ける理由について、「ワンダーリリアン」の販売元であるクロバー株式会社 マーケティングディビジョンプロモーショングループの辻井さんに話を聞いた。
辻井さんよると、「ワンダーリリアン」が発売されたのは2004年。諸説あるが、リリアン自体が海外から日本に持ち込まれたのは大正時代と言われているようで、想像以上に歴史が長い。昭和時代には駄菓子屋でリリアンが売られ、当時の子供にとっては定番の遊びの1つで、まさに「ちびまる子ちゃん」の時代にブームになっていたそうだ。
それに対し、おもちゃとして親しまれていたものを、作品を作るための手芸用品として開発したのが「ワンダーリリアン」だった。回転するディスクや握りやすい形状の追求など、多くの工夫を凝らした結果、令和時代になった今でも人気を博している。
「それまでは専用のリリアン糸で編んでいたものを、毛糸やテグスといったさまざまな糸で編めるようにしたことで、いろんな作品が作れるようになりました。『ちびまる子ちゃん』でリリアンが登場したことで、『懐かしい』という声とともに、『なにそれ?初めて知った』という声もあり、興味深かったです。リリアンを知らない人にとっては新鮮なものとして映るのかなと思います」
子供のおもちゃとしてだけでなく、大人のための手芸用品としての側面を持つ「ワンダーリリアン」は、発売から間もなく20年を迎える。そんな「ワンダーリリアン」について、「多くの方が手芸を始めるきっかけになってくれればと思います」と辻井さん。
もうすぐやって来る、芸術の秋。この記事で初めて見たという人も、懐かしいと感じた人も、幅広いアレンジができるようになったリリアンに挑戦してみては?
取材・文・撮影=織田繭(にげば企画)