2023年4月11日、JR東海が大阪の激安スーパー「スーパー玉出」とのコラボトートバッグの発売を発表。情報が解禁された当日、思いがけないコラボに「どうしたJR東海!」「これは欲しい!」など、SNSでは多くの驚きの声が駆け抜けた。トートバッグはすでに販売を終了しているが、ほぼ完売だったという。なぜ大阪の名所として人気のスーパー玉出と、大阪から少し距離のあるJR東海がコラボするに至ったのだろうか?
今回のコラボを振り返り、きっかけや手応えについて、JR東海営業本部 地域創生グループの宮澤理香さんと、スーパー玉出を運営する株式会社フライフィッシュ 取締役の國枝尚隆さんに話を聞いた。
コラボのきっかけは「推し旅」!オファーを受けたスーパー玉出の反応は?
なぜ2つの企業が異色のコラボをすることになったのか。それは、JR東海が提供している「推し旅」(おしたび)プランがきっかけだという。「推し旅」とは、「旅を通して一人ひとりが好きなもの、興味のあることを体験したり楽しんだりすることで、旅をもっと楽しくしてほしい」という思いから生まれた、JR東海のオプショナルプランだ。
JR東海は、これまでもたくさんの「推し旅」プランを成功させてきた。「例えば、アニメやドラマの聖地巡礼のほか、奈良で気球を上げるプラン、自分で花火を作って琵琶湖の近くで打ち上げるプラン、奈良公園のシカのフンを食べるとても美しい『糞虫』を探すプラン、時間外に『目黒寄生虫館』に訪問して館長の特別解説を聞くプランなど、かなりマニアックなものまで提供してきました」と宮澤さん。
「JR東海は新幹線の利用客を増やすことがミッションで、東海道新幹線の沿線に注目してもらえるようなプランをいくつも作っています。そのなかで、大阪に店舗を構えるスーパー玉出さんには以前から注目をしておりました。特にエコバッグが“ダサかわいい”と話題になっていて、これを目的に大阪へ行くお客様も多いと聞き、一緒になにか企画ができないかと、こちらからお声掛けをしました」と話す。
このオファーを受けたときのことについて國枝さんは、「驚きました。『え?うちでいいんですか?』と。たしかに、大阪旅行の1つの楽しみとして遠方からご来店くださるお客様もたくさんいらっしゃるので、そういう意味ではおもしろいなと思いましたね」と振り返る。
“らしさ”を追求して眠れない日々に…。渾身のデザインの誕生秘話
今回のコラボ企画は、大阪在住のスタッフを含む計5名で「チーム玉出」を立ち上げ、約3カ月かけて進行していったという。JR東海の点検用新幹線車両「ドクターイエロー」と、スーパー玉出のにぎやかさを詰め込んだデザインについて、「最終的に約20種類のデザインを作りました」と宮澤さん。
両社、入れ込みたい要素をピックアップし、デザインを依頼。國枝さんは「玉出カラーにも通じる、黄色いボディの『ドクターイエロー』に、赤い花柄の玉出のロゴを張り付けてほしいと希望しました。本当は、実物のドクターイエローに張り付けて走らせたかったんですけど(笑)。でもデザインを見て、『よくここまでやってくださった!』と思いましたね」と話す。
「デザインを考えるにあたり、まずは大阪出身の社員にスーパー玉出さんのイメージをヒアリングしました。大阪といえば、ヒョウ柄など強いイメージがついつい先行してしまうのですが、玉出さんに愛着を持っていらっしゃる方も多いので、イメージ先行でひとりよがりにならないように努めました。また、『ドクターイエローのイラストをただ貼り付けるようなデザインは絶対にやめよう』とチームで話し合いましたね。目標は、“唯一無二のコラボバッグ”を作ること。ドクターイエローにも躍動感がほしいなと思い、それなら、玉出さんのロゴにある花の中から車体を飛び出させてしまおうと考えました」と宮澤さん。
「最初は新幹線とクリオネ(スーパー玉出で冬季のみ販売されることがある)が並んでいるデザインなども案として出たのですが、『これでは唯一無二のコラボバッグにはならない…』と。ずっと『“玉出さんらしさ”と“JR東海らしさ”って何だろう』『どうしたら2つの“らしさ”をデザインに表現できるんだろう』と考える日々が続きましたね」
さらに、「玉出さんのイメージは、赤いロゴとお店のにぎやかなネオンサインです。それをドクターイエローのデザインにどう盛り込むか考え抜きました。『GEKIYASU』(激安)の文字やシール柄の配置など、納得いくまで検討を重ねたりもしましたね。そして最終的に、玉出さんのロゴから車体が飛び出すものと、ネオンサインを表現したデザインの2種が残ったんです。でも、使えるのは1種だけ。決断を迫られましたが、やはりどちらも諦めきれなかったので、思い切ってバッグの両面にデザインを使うことに決めたんです」と振り返った。
「長く使ってほしいから」としっかりした生地を選び、ストラップは肩から掛けやすい長さに。こうして完成したトートバッグは、「スーパー玉出らしいデザイン」「すごくかわいい!」とSNSで大評判になった。
このトートバッグの中には、大阪らしいお土産が入っているのもポイント。内容は開けたときのお楽しみとされているが、すでにSNSで購入者が写真をアップしている。「実は、玉出さんで人気の『たれご飯シリーズ』に使われているタレそのものを入れることはできないか、と國枝さんに相談したこともありました(笑)。しかし、梅雨時や夏場の衛生上の問題もありボツになってしまって。残念です…」と宮澤さん。
中身の商品は、JR東海の意向を受けたうえでスーパー玉出のバイヤーが厳選。「せっかく大阪に来ていただくのだから、大阪でしか売っていないものにしたいなと思いました。このバッグのお渡しは、私たちの指定店舗まで取りに来ていただかなくてはなりませんでした。だから、店舗での在庫切れは絶対に起こしてはいけない。わかりやすいよう売場にポップを設置し、社内でのオペレーションも全スタッフに徹底しましたね」
そんな國枝さんから、「実はこのトートバッグを最初に購入したのは、私なんです(笑)」とまさかの裏話も。自身で購入し、引換券を受け取りに新大阪へ。その後、自分で指定の店舗へと足を運んで入手したそうだ。
JR東海の社内での反響も大きく、特に大阪出身者や大阪にゆかりのある社員からも「これは買わねばなりませんね」と熱いメッセージが届く日々に、チーム玉出は手応えを感じたそう。
ちなみに、スーパー玉出のコーポレートカラーは黄色と赤。これは大変おめでたい色として、インバウンドの観光客にも大人気。また、ドクターイエローは見ると幸せになると言われている。このトートバッグには、そんなラッキーパワーもデザインに凝縮されていたのだ。
「ディープな大阪を楽しんで」コラボトートが旅の目的に
宮澤さんは、「今回の企画のきっかけもそうですが、やはり私たちは、皆さんに旅を楽しんでもらいたいんです」と語る。
続けて、「だからこそ、『こんなおもしろいものがあるなら新幹線に乗ってでもそこに行ってみようかな』と思わせる、旅の目的になるようなグッズやコンテンツをいくつも作っているんです。今回のトートバッグで初めて『スーパー玉出』の存在を知ったという方も多いと思います。これをきっかけに、ディープな大阪を楽しんでもらうことにつながるのではないでしょうか」。
JR東海では、今後も全国にあるたくさんの企業やおもしろスポットとのコラボを予定している。大阪エリアでも、スーパー玉出に続き10月から人気ブランドとの新コラボが控えているのでぜひ注目を!
取材・文=田村のりこ
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