辛子明太子創業メーカー「ふくや」が運営する博物館があるって知ってる?誕生のきっかけは“福岡の名所がない問題”

2023年10月2日

もつ鍋にとんこつラーメン、水炊きなど、福岡県にはたくさんの名物グルメであふれているが、1番の名物といえばやはり辛子明太子ではないだろうか。日本で初めて辛子明太子を販売したのは福岡市に本社を置く「ふくや」で、そんな辛子明太子メーカーの元祖と言えるふくやが、博多の食や文化にまつわる博物館を運営しているのをご存知だろうか。

「博多の食と文化の博物館 ハクハク」(以下、ハクハク)は、2023年でオープン10周年を迎えた体験型ミュージアム。明太子製造の工場見学だけでなく、博多の食文化を学べる展示コーナーやオリジナルの明太子作り、明太子を堪能できるカフェなど、複数の要素を盛り込んだ施設だ。2023年3月には文化庁公認の「食文化ミュージアム」にも認定され、博多の観光名所として知名度を広めつつある。

今回は、ミュージアム開館の経緯や文化庁の認定を受けた裏側について、運営元である株式会社ふくや(以下、ふくや) 営業第一部、ハクハクの副館長を務める本田祥久さんに話を聞いた。

「博多の食と文化の博物館 ハクハク」の外観。もともとは明太子製造工場だった


学べて、体験できて、食べられる!ハクハク設立のきっかけ

ハクハクのオープンは2013年4月24日。ふくやの創業者である川原俊夫氏の生誕100周年プロジェクトの一環として生まれた。川原氏は明太子産業を博多に根付かせた功績者。韓国・釜山で生まれ、戦後の引き揚げで日本に渡ったのち、福岡市博多区の中州市場にふくやを開業。当初は食料の卸売りをしていたが、韓国料理からアイデアを得て博多式の辛子明太子を開発した。

「ハクハクの建物自体は『ふくやフーズファクトリー』として29年前に建てられました。当時、福岡市内で分散していたふくやの明太子工場を1カ所に集約して生産効率を上げることになり、福岡市東区の土地に工場を開きました。そのときは普通の明太子製造工場として稼働していたんです。また、新工場はクリーンルームの清浄度も上がり、当時これほどクリーンな工場を持つのは西日本地区の食品業界では初となりました」

創業当時のふくやを再現したコーナー


明太子製造工場を博物館としてリニューアルした背景には、福岡市内の観光事情が大きく関わっている。

「当時から社会科見学や工場視察の受け入れを行っていましたが、明太子手作り体験をスタートさせると一気にキャパシティを超えました。さらにそのころ、福岡県や市が観光に力を入れ始めたのですが、『福岡市には観光施設がない』という声も多かったようです。そこで、民間レベルでできることはないかと考え、“博多の食と文化を学べる明太子の工場”として一部を改装して新たな観光施設『博多の食と文化の博物館』、略して『ハクハク』をオープン。地元の食と文化を体験できて学べる施設があれば、博多の観光地の1つとなり、地域がより発展するのではないかと考えた結果です」

施設内の見学通路


「特別なことはしていない」。文化庁公認の「食文化ミュージアム」に認定!

今まで福岡県になかった新しい施設として、開館後は修学旅行の学生やツアー客が訪れるようになったハクハク。コロナ禍以前は毎年平均5万人の来場者があったという。令和4年には、文化庁公認の「食文化ミュージアム」に認定。これは、食文化への学びや体験の提供に取り組む博物館、道の駅、食の体験や情報発信をしている施設などが該当する。

「認定を受けることになったきっかけは、私たちハクハク側からの申請でした。ある日、文化庁が行っている取り組みを見て、『食文化ミュージアム』という部分がまさにハクハクのコンセプトにぴったりだなと思いました。ハクハクでは工場見学はもちろん、博多発祥の食べ物についても展示で学べるので、『これはいけるんじゃないか?』と。申請にあたっては特別な工夫や改革などはせず、ありのままの施設コンセプトや運営実態をつづりました」

ミュージアムの一角には、博多の伝統工芸品を展示するコーナーもある。明太子だけでなく、博多中の文化を学べるのもポイント


審査が通り、晴れて文化庁公認の食文化ミュージアムとなったハクハク。「認められるために何か特別なことをしたというよりも、今までやってきたことが評価されたと思っています」と本田さんは語る。

自分だけの「オリジナル明太子作り」が大人気!

九州全体で見ても、アミューズメント要素を盛り込んだ明太子関連の施設は少ない。本田さんによると、「学ぶ・体験する・食べる・買うをフルコンプリートしているのがハクハクの魅力の1つ」なのだとか。

エントランスホール


そんなハクハクの1番の目玉コーナーは、明太子の手作り体験。実際に工場で使っているタラコや唐辛子、調味液を使用して、自分だけのオリジナル明太子を作ることができる。

「規格外の素材をお渡しするのではなく、工場と同じグレードのものをお客様にお渡ししています。いつ商品になってもおかしくないものを、工場から人数分取ってきているんです。本格的な明太子作りが体験できることが、当施設の大きなこだわりです」

また、創業者である川原氏の理念であった「明太子は作り手それぞれいろんな味があっていい」という思いから、手作り体験では辛さやトッピングを工夫して“その人独自の味”が作れるようになっている。

「明太子の手作り体験に並ぶもう1つのこだわりが、博多の食文化を紹介する展示コーナーです。博多発祥の食べ物って意外に多くて、うどんやそば、まんじゅうに羊羹も博多発祥だと言われています。このような知識や習慣を、ハクハクの展示を見て初めて知ったというお客さまも多く、好評をいただいております」

施設内にはカフェとショップも併設しており、名物の明太子食べ放題のオプションを付けられる「ふくやの明太茶漬け」や、ハクハクでしか手に入らないレアな「できたて生明太子」を販売している。また、2023年夏までは自社の明太子製品が食べ放題のブッフェも開催しており、人気を博していたそうだ。

見学通路から見える工場

ミュージアム食コーナー。博多の食文化を紹介する展示している

「博多の食と文化の博物館 ハクハク」内にあるカフェで提供している「ふくやの明太茶漬け」。ご飯はおかわり自由なのがたまらない!


辛子明太子創業メーカーならではのコンテンツで福岡県を盛り上げる

オープン当時の10年前と違い、福岡県に訪れる観光客が増えてきていることから、「ハクハクにしかないコンテンツにより力を入れて発信していきたい」と本田さんは意気込む。

「コロナ禍の影響で来場者数が減ってしまったので、コロナ禍以前の来館者数に戻れば、という思いはあります。とはいえ、団体でどこかに行くという価値観も少し変化してきていますし、今後はターゲットを変えて個人や家族連れの方々に来ていただけるような施設になったらいいなと考えております。『ハクハクに行かないとこれができないよ、だから行こうね』と思ってもらえるようにならないといけないですね」

伝統ある祭り「博多祇園山笠」についての展示コーナー

博多祇園山笠のアーカイブ映像を鑑賞できるシアタースペースも!


「ふくやは知っているがハクハクは知らない」という地元民もまだ多く、観光客だけでなく地元民にもしっかりプロモーションしていくことが今後の課題だそう。最後に、ハクハクを存分に楽しめるおすすめの回り方を教えてもらった。

「まずは工場見学で明太子作りの手順を学び、次に手作り体験で、ガラス越しの見学では味わえないタラコの触感や唐辛子の匂いなどを知っていただきたいです。その後、ミュージアムの展示品を見て回り、カフェコーナーでできたての明太子をしっかり味わっていただくのがおすすめです。お口に合えば、ぜひショップでお買い物も楽しんでくださいね!」

おでかけが解禁され、旅行を計画している人も多いはず。“食欲の秋”にこそ行きたい福岡県で、名物・辛子明太子をとことん学んで、味わってみては?

取材・文=倉本菜生(にげば企画)

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