介護も多様性の時代へ。「推し活」「健康型有料老人ホーム」変わりゆくシニア向けビジネス

2025年4月1日

介護サービスの利用者は、戦前生まれから、徐々に戦後生まれへと移り変わりつつある。「娯楽が身近にあり、いろいろな選択肢から自分に合ったものを選んできた『イマドキシニア』に対して、画一的なサービスはあてはまりません」。そう話すのは、株式会社 SOYOKAZE 未来ビジネス推進本部 本部長の白木優史さん。「そよ風」ブランドでデイサービスやショートステイ、有料老人ホームなどの介護サービスを提供する同社は、主に1950年以降に生まれたシニア層を「イマドキシニア」と定義し、これまでの介護保険サービスに加えて、多様性のあるサービスの開発に取り組んでいる。

また未来ビジネス推進本部では、深刻な少子高齢化に直面するなか、健康寿命の延伸を目的とした高齢者施設や、介護保険と保険外のサービスを同一施設内で組み合わせて提供するリハビリスタジオなども展開する。変わりゆくシニアビジネスについて、白木さん、『マゼラン 湘南佐島』総支配人の稲葉淳さん、未来ビジネス開発部の中野駿平さんに話を聞いた。

株式会社 SOYOKAZE「マゼラン 湘南佐島」総支配人の稲葉淳さん、未来ビジネス推進本部 本部長の白木優史さん、未来ビジネス開発部の中野駿平さん(写真左から)【撮影=三佐和隆士】

介護施設を「行きたい場所」に

高齢者介護施設でのレクリエーション。その日は工作だったが、ある利用者は「やりたくない」と言ったという。

「戦前・戦時中生まれの方たちは、戦後もしばらくは食糧難のなかで生活をされてきた方たちです。多様な選択肢がない環境で我慢をすることや、わがままを言わないという価値観が自然に身に着いた世代です。そのため、画一的な介護サービスでも受け入れてくださる方が多かった」と白木さん。「例えば1950年生まれの方は、物心ついたときには高度経済成長期に入っていて、中学生の時には東京オリンピック(1964年)が開催され、それを機に一般にもテレビが普及しました。スポーツや芸能などの娯楽が身近にあり、海外からも文化や音楽、ファッションが入ってくるようになった。介護保険制度下の事業なので、いろいろな定めはありますが、そのなかでも個別性や専門性のあるサービスを提供しなければ、イマドキシニアの方たちに選んでもらえなくなるという危機感があります」

同社では2015年ごろから新規事業に取り組み、2021年に未来ビジネス推進本部が立ち上がった【撮影=三佐和隆士】

そこでスタートしたのが「イマドキシニア」プロジェクトだ。2021年にプロジェクトの第一弾として「スポーツ×介護」という、新しい介護サービスの提供を始めた。デイサービスやショートステイ利用者に対して、スポーツ選手との交流イベントや、スポーツ要素を取り入れた機能訓練プログラムの開発、試合観戦やライブビューイングなど、さまざまな形でスポーツを楽しむ機会を提供。現在はプロバスケットボールチームの「福島ファイヤーボンズ」、プロ野球独立球団「北九州下関フェニックス」などのスポーツチームや、元幕内力士である大岩戸義之さんなど個人との協業でプロジェクトを進める。

「たとえばバスケットボール選手だと体も大きくて迫力もあります。高いところにあるものをジャンプして触ってもらうと、みなさん驚いて感情が動かされます。訪問してくれた選手が頑張っているから、試合を見に行こうとなり、そこからファンになって応援用のうちわを一緒に作ったり。スポーツや推し活を通じて、『デイサービスに行くのが億劫だ』と感じていた方を、『自分から行きたいと』というマインドに変えていけたらいいなと考えています」(中野)

スポーツのなかでも特に人気なのが相撲。「四股を一緒に踏んだり、相撲の裏話をしてくださったり。キャンセル待ちが出るほどです」と中野さん【撮影=三佐和隆士】

スポーツチームや選手にとっては、施設の利用客やその家族など、ファン層の拡大というメリットがあるほか、セカンドキャリアの支援なども受けられる。また、介護人材不足が深刻さを増すなか、「地元のスポーツ選手が日常的に来る施設」という差別化により、安定した人材確保もめざす。現在は施設数も限られているが、今後はこの取り組みを全国に広げ、バレーボールやサッカーなどより多くのスポーツ、さらには音楽やお笑いなどほかのジャンルでも広げていくという。

進む高齢化と人口減少

老人ホームには「介護付有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」「健康型有料老人ホーム」がある。2022年に本格入居を開始した「マゼラン 湘南佐島」(神奈川県横須賀市)は、全国で20施設以下(2024年12月現在)しかない健康型有料老人ホームのひとつだ。要介護・要支援の認定を受けていない60歳以上の人だけが入居でき、入居中に介護サービスが必要となった場合は、希望があれば介護を受けられる施設の紹介も可能だ。

高齢者人口の割合の増加が止められないのであれば、健康なシニアを増やすことで、社会課題の解決をめざす【撮影=三佐和隆士】

「2040年には高齢者人口がピークを迎え、介護職員は今よりもさらに多く必要になりますが、その就労世代は減少傾向です。そのため、今の制度のままでは社会保障費は増え続け、そのあおりを受けるのは就労世代です」(白木)

着目したのは平均寿命と健康寿命の差。2019年に行われた調査では、平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳だったのに対して、健康寿命はそれぞれ約9年、約12年の差があった。「マゼラン 湘南佐島」では、このギャップを埋めるための取り組みを行い、超高齢社会が進むなか、健康なシニアを増やすというアプローチで社会課題の解決を目指している。

コロナ禍の最中であった1年目の入居者はふたりだけ。当初は一般的な老人ホームと同じような「安心・安全」をウリにしてPRを行っていた。しかし、イマドキシニアに向けて、アクティブな楽しみや、生きがいを感じられる活動を通じて、夢をかなえられる場所として訴求するポイントを変えたところ、問い合わせの数が増えたという。現在は63歳から94歳まで14人が入居している。介護保険に依存しないビジネスモデルのため、海外展開も可能だという。

【写真】「マゼラン 湘南佐島」の外観【画像提供=株式会社SOYOKAZE】

相模湾に隣接し、居室は全室オーシャンビュー。展望デッキやラウンジ、多目的ルームなどを備え、パーソナルトレーニングのほかに、SUP(スタンドアップパドルボード)やビーチウォーキング、クルージングなどのアクティビティも充実している。

データを活用してより健康に


「マゼラン 湘南佐島」のコンセプトは「健康な人をより健康に」。食事、運動、社会参加活動の3要素について、医師が1カ月に1回、健康改善できるよう一人ひとりにアドバイスする。その際に活用するデータのひとつが、入居者が装着する「Apple Watch」で取得したデータだ。同社では専用で開発したアプリを使って、日々の心電図や心拍、運動量などのヘルスケアデータやライフログデータを時系列で集積。1年に1、2回の健康診断で得られる「点」のデータではなく、日々記録を取ることで日常生活に潜む改善点を探る。

「施設内で生活環境の変動要素を減らしているので、体調に変化があったとき、食事や運動などから原因を突き止めやすい」と稲葉さん【撮影=三佐和隆士】

「今までの介護や見守りの在り方は、『あなたは今こういうコンディションだから、このトレーニングをしましょうね』という、介護士の方の経験や勘など定性的なものに頼っていました。そうではなく、データを用いて定量的に評価し、定性・定量の両方を合わせた医師のアドバイスをもとに、健康改善に向けて取り組めるようサポートするというのが、私たちのプログラムです。また、健康なシニアの生活や健康データの変化を明らかにし、自治体・企業とも協力しながら介護予防や健康寿命延伸を目指しています」(稲葉)

一例として、入居前は丘の上にある夫の墓参りをあきらめていた人が、「マゼラン 湘南佐島」で生活するうちに、数年ぶりに歩いて丘の上まで行けるようになり、泣いて喜んだという。併設のカフェやレストランでは就労体験ができ、施設を出て社会復帰した人もいた。今後「マゼラン 湘南佐島」で足元を固めたあとは、同系施設の全国展開も視野に入れている。

「シニアの方にやりたいことをヒアリングすると、多くの方が旅行と回答します。『マゼラン 湘南佐島』のような施設を全国へ展開できれば、その方がどういう生活をしていたのか、何を食べたのかといったライフログデータを共有することで、どこでも好きな施設に、旅をするように転居できると考えます。また、全国展開することで、1施設だけでは難しい取り組みや成果を実現できる点も大きく、さらに多くの活動を展開していきたいと考えています」(稲葉)

朝のビーチウォークの様子(イメージ)【画像提供=株式会社SOYOKAZE】

日本の将来を変えるきっかけを

都内に7店舗を展開する「ウェルビスタ ケアスタジオ」では、シニア層に限らず幅広い年代を対象に、脳血管疾患やパーキンソン病、整形外科的疾患などによりリハビリが必要となった人を、時には就労復帰までサポートしてきた。

介護保険サービス(機能訓練型デイサービス)の一例【画像提供=株式会社SOYOKAZE】

「現在の制度では医療保険から介護保険に早期に移行する流れが進み、回復できないまま退院する人は少なくありません。介護保険は仕組み上、1対複数のサービスになるため、基礎体力の向上は期待できますが、拾いきれないニーズもあります。そこで『ウェルビスタ ケアスタジオ』では、同一施設内で介護保険と保険外の個別リハビリサービスを組み合わせて提供することで、社会復帰をサポートしています。また、これから広く全国的にサービスを広げるために、フランチャイズも予定しています」(白木)

保険外のサービスでは、必要に応じて施設外での通勤訓練や、復職先の人事担当者との連携などのサポートも行う。介護保険と保険外のサービスを同時に受けることで、より早い回復に向けた相乗効果が期待できるという。

白木さんは「私たちが日本の将来を変えるきっかけを作っていきたい」と話す。「少子高齢化が進む日本では、このままでは次の世代に過重な負担がのしかかる恐れがあります。その課題を解決し、次の世代が明るい未来を感じることができるためにも、他社との積極的な協業もさらに推進し、精一杯取り組んでいきます」

※Apple Watch はApple Inc.の商標です。

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