“京都”という地に新たな価値を。チームラボ 猪子代表が語る、新ミュージアムの見どころとアイデアの根源

2025年10月7日

最新のデジタルテクノロジーを使ってアートを制作するアート集団「チームラボ」は、現代の情報社会の中でサイエンス、テクノロジー、デザイン、アートの境界を曖昧にしながら、“実験と革新”をテーマに、作品制作を行っている。チームにはアーティストのほか、プログラマーや建築家、数学者といった多分野の専門家が在籍。国内外のさまざまな場所で展覧会を開催している。

そんなチームラボが、京都駅から徒歩圏内の場所に国内最大級の常設ミュージアム「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」を設立し、2025年10月7日にオープンした。今回は、チームラボが京都に常設ミュージアムを設立するにいたった背景や、作品のアイデアがどのように生まれるのかなどを、チームラボ 代表の猪子寿之さんに聞いた。

新時代のアート集団「チームラボ」の猪子代表に聞いた、アイデアの根源とは?


新ミュージアムは“京都の新たな価値”を生み出す発信地に

――チームラボは国内外で作品展や常設展を開いていますが、今回、京都という土地に常設ミュージアムを設立した背景を教えてください。

【猪子寿之】「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」がある地域は、「京都駅東南部エリアプロジェクト」というまちづくりプロジェクトが進行していて、文化・芸術により新たな人の流れを生み出そうとしています。我々もそのプロジェクトに賛同し、“新たな価値を生み出す創造・発信拠点”となるミュージアムを作りたいと思い、設立にいたりました。

――京都駅から近く、ファミリーや若者、観光客もアクセスしやすい地域ですね。

【猪子寿之】そうですね。京都駅周辺地域が活性化することで京都全体を盛り上げることができる、そういった“意味のある場所”だと捉えています。

チームラボ 代表の猪子寿之さん。文化や芸術の発信地となるべく「京都駅東南部エリアプロジェクト」に参画している


――そんな「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」の注目ポイントについて教えてください。

【猪子寿之】このミュージアムは、作品数の多さと規模の大きさはもちろんですが、ここ数年取り組んでいる“特別な環境下で生み出される存在”という新しいコンセプトで作品づくりをしています。これまではアートに限らず物質や物体といった、人の手による作品を生み出してきました。しかし、今回はそうした人の手によらない、原理の異なる作品を展示予定です。そのため、誰にとっても初めての経験になると考えています。

日本初公開作品も!見て・触れて・考える作品展

――今回展示予定の作品群では、どのようにテーマを表現されているのでしょうか?

【猪子寿之】たとえば、今回日本で初めてお披露目する「Massless Amorphous Sculpture」は、人の手ではなく、空間の中にある石鹸と水と空気だけで大小さまざまな泡を生み出す彫刻作品です。泡はちぎれて小さくなったり、くっついて大きくなったりして、曖昧な輪郭を作りながら浮遊します。また、泡は人の手で無理矢理動かそうとすると壊れてしまう。そんな“曖昧な境界”を持った作品になっています。

【写真】日本初公開となる「Massless Amorphous Sculpture」は大小さまざまな泡が漂う幻想的な空間


――「境界線がない」、これはほかの作品にも共通するポイントでもありそうですね。

【猪子寿之】そうですね。人間やほかの生命体は流れの中で生きていて、箱の中では本来の姿を維持できず、存在できません。あらゆる物体を作り出してきた人間は勘違いしがちですが、存在の境界は本来曖昧なものです。

【猪子寿之】渦をイメージしてもらいたいのですが、水の中で波を起こすと渦ができますよね。たしかにそこに渦はあるけれど、明確な境界線はなく、“水である”という物質的な違いはありません。ただ、エネルギーの秩序が違うというだけなんです。

――作品を通して、来場者にはどのようなことを考えてもらいたいですか?

【猪子寿之】物質とは異なる世界に触れて、考え方を変えてみたり、物事に対する解像度を上げてもらうことができればうれしいですね。人間は、これまで多くの物体・物質を作ってきました。このミュージアムでは、質量のないものや境界のないもの、再生するもの、生まれては死んでいくものを目で見て、触って、感じてもらいたいです。これまでの世界にないイメージを受け取ってもらえたらと思っています。

――概念的なものが作品の形で鑑賞できるミュージアムというわけですね。ほかに、猪子さんが注目してほしい作品はありますか?

【猪子寿之】「Morphing Continuum」です。この作品では、物体ではなく、特別な環境を創ることで、その環境が生んだエネルギーの秩序によって存在を創っています。大きな存在を担う小さな球体は入れ替わり、全体は変化を繰り返していますが、存在は維持されている。まるで宇宙の中にいるような体験をしてもらえると思います。と、小難しいことを言いましたが、とにかく楽しんでもらえたらうれしいです。

「Morphing Continuum」では、特別な環境が生んだエネルギーの秩序で存在が創り出されている。全身で楽しめる作品だ


――作品の楽しみ方として、触れたりしても大丈夫なんですね。

【猪子寿之】そうですね。一部の作品を除いて、ぜひ手だけでなく全身で触れてみてほしいです。自分の手で影響を与えて泡や渦を壊したとしても、それらは再生して、連続性を失うことはありません。そんな、これまでにない彫刻作品を体験していただけるでしょう。

「まずは楽しんでもらって、そこから何か考えるきっかけになれば」と語る猪子さん


作品のアイデアは“生活の中の疑問”から生まれる

――今回の「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」に限らず、これまでチームラボで作られてきた作品はとてもユニークなものが多いと感じています。そのアイデアの出どころについても教えてください。

【猪子寿之】私は徳島出身で18歳から上京して東京で生きてきました。多くの人がそうであるように、仕事をして家に帰ってきてご飯を食べる、そんな生活を続けるなかで、“生命は生命しか食べない”ということにずっと疑問を持っていたんですね。人は生きるために植物や動物といった生命を食べます。「その生命って一体何なのだろう」と、ずっと考えているのです。

――猪子さんの中の大きなテーマとして“生命”というものがあるわけですね。

【猪子寿之】昨今は、技術や医療の進化で、命があるもののように振る舞う機械やアンドロイドが作られるようになりました。しかし、私はそうしたものよりも、「渦」のほうに生命を感じるのです。幼いころから「この違いは何なのだろう」と考えていたので、作品にはそうした疑問を反映しています。

植物や動物などの“生命”について問いかけるような彫刻作品を創出している


――最後に、「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」はどのような人に来てもらいたいですか?

【猪子寿之】ターゲット層のようなものは特に考えていません。全人類に作品を見てもらいたいし、より多くの人に体験してほしいです。街の中にいるとどうしても視野が狭くなりがちですが、これまでの常識とは異なる、見たことのない体験により視野を広げてもらいたいと思っています。

取材=浅野祐介、文=織田繭(にげば企画)、撮影=福羅広幸

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