アリナミン製薬が2025年8月1日に発売した胃腸薬「タケプロンs」。これは、医師から処方される医療用医薬品と同成分を含んだ「PPI(プロトンポンプインヒビター/プロトンポンプ阻害薬)」と呼ばれる薬で、これまで市販薬としては販売されてこなかったものだ。
ドラッグストアで手に入る胃腸薬に新たな選択肢が増えたことで、胃痛に悩む人の生活や、医療を取り巻く社会の流れはどう変わっていくのか?アリナミン製薬株式会社の担当者(川上さん、長田さん、宮尾さん、登本さん)に、薬の特徴や市販化のメリット・デメリットについて話を聞いた。
医療用医薬品から市販化された胃腸薬「PPI」とは?
――はじめに、PPIとはどんな胃腸薬なのかを教えてください。
【川上さん】PPIは「プロトンポンプインヒビター」の略で、簡単に言うと胃酸の分泌を止めるお薬です。胃の粘膜に壁細胞という胃酸を出す細胞があり、その細胞の中にある胃酸を分泌する最終段階である「プロトンポンプ」という仕組みにより胃酸は分泌されているんですね。
【川上さん】PPI以外の胃腸薬には、出てきた胃酸を中和する「制酸剤」と呼ばれる成分が入っているものや、プロトンポンプに作用する3つの化学伝達物質のうちの1つであるヒスタミンの作用をブロックする「H2ブロッカー」というものがあるのですが、PPIはプロトンポンプの働き自体を止めるので、胃酸の分泌を強力に抑えます。市販薬としては、このたび新たに登場した成分です。
――医療用医薬品としては、PPIはメジャーな薬として使われているものなのですか?
【川上さん】PPI自体は国内の医療用医薬品として30年以上になる薬で、医療現場では長年の使用実績があるものです。日本だけではなく、世界中の多くの国で使用されています。
――PPIは「スイッチOTC医薬品」として発売されました。あらためて、スイッチOTCとはどういったものか教えてください。
【長田さん】医療用医薬品の中には、病院で診察を受けて薬局でもらう処方薬があります。その処方薬の中で、一定の使用実績があり有効性・安全性が確認された成分を、ドラッグストアや薬局で購買できるようになったものが「スイッチOTC」です。今回、スイッチOTCとして発売した「タケプロンs」ですが、もともと医療用として「タケプロン」という薬がありました。
――「タケプロン」をはじめ、PPIが今年スイッチOTC化した経緯は?
【長田さん】ご存知の通り、高齢化などによって病院で受診される患者の方々が非常に多くなっていますし、健康ニーズも多様化しています。そこで、かかる医療費が多くなっていることに対し、自分自身がその健康に責任を持って、軽い体の不調は自分で手当てするという“セルフメディケーション”の取り組みが国によって推進されています。それが、スイッチOTC拡大の背景にあるんです。
【川上さん】PPIについては、実は10年ほど前から「スイッチOTC化されるんじゃないか」と言われていました。ただ、強力に胃酸を抑えるということで、適切に使わないと重大な病気を見逃してしまう恐れがあると議論されていたんです。そんななか、ほかのスイッチOTC医薬品が薬局やドラッグストアで適切な指導のもと販売されている実態があることから、このたびPPIがスイッチOTC化されました。
これまでの市販胃腸薬と「タケプロンs」の違い
――「タケプロンs」の特長を教えてください。
【長田さん】「タケプロンs」は、胃酸逆流などによる胸やけ、胃もたれ、胃の痛みに効果がある薬です。特長として、1つ目は、医療用と同じ成分であるランソプラゾールを市販薬として初めて配合しているところです。2つ目は、1日1回1錠で効き目が24時間続く点。3つ目は、口腔内崩壊錠(OD錠)という剤型で舌の上で崩壊するため、水なしでサッと飲むことができます。イチゴ風味なのも飲みやすさのポイントです。4つ目は、食事の影響を受けづらいため、タイミング問わず(※)飲めるところですね。
※1日1回同じ時間帯に服用すること
【長田さん】お客様に既存の胃腸薬に満足していない点を聞いていくと、「飲みづらさ」「効き目の弱さ」「効き目の持続性」の3つが多いことが分かりました。「タケプロンs」の特徴は、満足されていない方々のニーズに対して市販薬として十分お応えできるものと考えています。
――制酸剤やH2ブロッカーと比べて、使える症状に違いはありますか?
【川上さん】H2ブロッカーは胸やけ、胃もたれ、胃の痛みに加えてむかつきにも効果があります。そのほかの制酸剤は、吐き気やげっぷ、消化不良といった胃の症状も含まれます。特に「総合胃腸薬」と言われているものには幅広い成分が入っているので、効用が多くなります。
――ほかの胃腸薬に比べて「タケプロンs」が使える範囲が少し狭いのは、成分が単一だからということでしょうか?
【川上さん】はい。「タケプロンs」はあくまで胃酸を強力に止めるという薬ですので、胃酸に起因する症状が適用になります。
【長田さん】その点がわかりやすくなるよう、パッケージでも単に3つの症状を記載するだけではなく、「胃酸逆流などによる」という文言を付記して訴求をさせていただいています。
――医療用と同成分ということですが、医療用医薬品である「タケプロンOD錠」との違いは?
【川上さん】錠剤としては医療用で使われている「タケプロンOD錠15」と同じものです。ただし、医療用とOTCでは効能が異なります。
――あくまで「医療用から市販薬にスイッチ」という形なんですね。市販化にあたって注力したポイントはありますか?
【長田さん】ブランドの顔になる部分として、パッケージは何度も試行錯誤しました。効果が非常に高い製品なので、そのことがお客様に伝わって、手に取っていただけるようなパッケージを開発したいという想いがありました。
【長田さん】具体的には、今現在PPI以外の市販薬を使っている方々に対して、“優れた効き目がある”ということが伝わるように効能をわかりやすく記載。フォントやカラーにもこだわっています。
【長田さん】「タケプロン」をはじめPPIの処方薬を使っている方に対しては、医療用の「タケプロン」のロゴやカラーを「タケプロンs」に活用することで、市販化されたことに気づいていただけるよう工夫しています。
【宮尾さん】プロモーション担当としては、「タケプロンs」という商品が新しく発売されたということはもちろん、「処方薬のタケプロンが市販化された」ということを多くの方に知ってもらえるよう、コミュニケーションを取っています。メインとしては、テレビCMで「効き目、もちろん。タケプロン」というサウンドロゴを用いて、ユーザーの方に「タケプロン」を耳で覚えてもらい、市販化されたことを感じてもらうようなコミュニケーションですね。今後は、胃腸薬の需要期になる11月から12月にかけてコミュニケーションを強化し、胃の不調に悩む多く人にアプローチしてまいります。
スイッチOTC化のメリットとデメリット
――スイッチOTC薬として発売されたばかりということで、購入する側が注意するポイントはありますか?
【川上さん】「タケプロンs」は要指導医薬品なので、薬局やドラッグストアで薬剤師が症状や併用薬の有無などをチェックリストで確認して、服用できることが確認できてからでないと購入できません。薬剤師からの説明や確認が必要になりますので、“いつでもすぐに買えるわけではない”という点は注意が必要です。
――要指導医薬品は一般用医薬品の1類、2類、3類とは異なる分類なのですか?たとえば、第1類医薬品よりもさらに効き目や副作用が強いということなのでしょうか?
【川上さん】スイッチOTCには「市販後調査」というものがあり、副作用など安全性を調べる義務が製造販売元に課せられています。医療用医薬品から市販薬にスイッチされる際には、その効果や安全性について十分に検討・確認されたうえで承認されています。医師の指導がなくても適正に使用され、効果や安全性が担保できることを確認する期間が要指導医薬品として設けられている、というものです。その調査が終了して、一般用医薬品にしても問題がないことが確認されると、要指導医薬品から変更される…ということになります。
――「タケプロンs」が市販化されたことで、処方箋がなくともドラッグストアなどで購入できるという点以外に、ユーザーのメリットはどんなことが挙げられますか?
【長田さん】処方箋がなくても買える、つまり病院に行かなくても済むというのが一番のメリットです。弊社調査の中では、「病院に行くのが面倒」「待ち時間が長い」「病院に行く暇がない」という理由で処方薬を使わない方が一定数いることがわかっています。ドラッグストアなどでも薬剤師の駐在時間に制限があると思いますが、たとえば病院だったら事前の予約や、病院へ行くまで時間などがかかってきますので、よりライフスタイルに合わせて薬を選びやすくなるのは大きなポイントになると思います。
【長田さん】また、病院や調剤薬局などの医療機関自体が少ない地域において、薬が入手しやすくなるというのもメリットだと考えています。
――反対に、市販化されたことで考えられるデメリットはありますか?
【長田さん】個々人の医療費の負担割合や検査の有無、そのほかの諸経費などの状況によって異なりますが、病院での処方に比べると、コストの面で市販薬の単価は高い傾向にあるかと思います。また、先ほども申し上げたとおり、薬剤師による対面販売が必須になりますので、現状は販売店にいる薬剤師の出勤時間内での購入となる制限はあります。
【長田さん】もう1つ、「タケプロンs」をはじめとした要指導医薬品は薬剤師からの説明を踏まえて、自己責任での購入になります。処方薬も同様ですが、使用上の注意や副作用の面も、自分自身でご理解いただく必要があります。ただ、薬剤師に聞いていただければ、薬の成分や飲み方などについて教えてもらえると思いますので、お気軽にご相談ください。
スイッチOTC医薬品が担う社会的役割
――今回のPPIのスイッチOTC化をはじめ、OTC医薬品は拡大を続けています。こうした流れに対しどう考えているかを教えてください。
【長田さん】まず、医師の負担軽減や、病院への過度な来院集中の緩和につながるのではないかというのが1つ。そして、スイッチOTC購入にあたっては医療機関での診察費用や処方費用がなくなりますので、医療費全体の削減にもつながるのではないかと考えます。
【長田さん】消費者の方々の観点では、選択肢が増えることで処方薬か市販薬か、自分のライフスタイルに合った買い方を選べるようになるかと思います。これまで悩んでいた胃の症状に対して対処しやすくなることによって、QOLの向上にも繋がるのではないかと考えています。
【川上さん】冒頭で「この薬の効果により、重大な病気を見逃してしまう恐れがある」という話をさせていただきましたが、逆に言えば、この薬を飲んでも症状が治まらなかったり繰り返したりするようであれば、病院に行くべき状態の可能性があるとも言えます。適切な受診を促し、病気の重篤化を防ぐという役割を果たせられれば、社会的意義があると感じます。
――市販薬と病院受診との架け橋をスイッチOTC医薬品が担いうるということですね。最後に、アリナミン製薬から読者にメッセージをお願いします。
【登本さん】先ほど、病院の待ち時間や距離といった機会コストの話がありましたが、胃もたれや胸やけを抱えていらっしゃるユーザーの方々のお声を聞いていくと、「病院にかかることの心理的ハードル」も多く存在していることがわかりました。
【登本さん】症状を聞くかぎり、すぐにでも病院で検査をしたほうがいいのでは?と思える方でも、皆さんすごく我慢されているんです。「なぜ病院に行かないんですか?」と聞くと、検査をして重篤な病気が見つかり、定期的な通院や入院をしなければいけなくなるなど、自分の生活が一変することへの不安を覚えている方が非常に多い。
【登本さん】今は薬剤師を介して「タケプロンs」を販売できる環境になったので、一度薬を服用していただいて、もしそこで症状が治まれば、そういった不安を解消できるという点でQOLを改善できます。
【長田さん】つらい胃症状がある方々にお話を聞くと、動くことや話すことが億劫になる、仕事や家事の集中力が低下する、睡眠や食事のような日常的な行動一つひとつに対してもつらいといったことをおっしゃっている方もいます。今まで医療用で使われていた薬を市販化することは、選択肢が広がり、症状により対処しやすくなるという側面があると思います。スイッチOTCが症状で悩んでいる方のQOL向上に貢献して、たくさんの方がよりよく生きられるような社会づくりを、製薬という観点から寄与できるというところに、社会的な意義があるのではと考えています。
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