コロナ禍を経て急速に普及した宿泊スタイルのひとつがグランピング。現在も新たなグランピング施設がオープンし続ける中、全国の施設それぞれの魅力を深掘りして掲載する宿泊予約サイト「リゾートグランピングドットコム」を運営するのがブッキングリゾートだ。ペットと泊まれる宿に特化した予約サイト「いぬやど」運営のほか、グランピング施設の運営・集客支援を主要事業として展開する同社。同業他社とは一線を画す特化型の戦略や宿泊施設が抱える問題解決への取り組み、今後の展望について、株式会社ブッキングリゾート営業部の西山秀明さんに話を聞いた。
グランピングやペットと泊まれる宿の運営を一気通貫でサポート
――はじめに、ブッキングリゾートの事業内容を教えてください。
【西山さん】当社は2019年にグランピングやリゾートヴィラを対象とした施設の開発・集客支援事業を開始して、これまで300を超える施設の開業や集客に携わってきました。施設の開発、運営、集客までを一貫して支援させていただいていて、各施設様の課題解決に取り組んでいます。同時に、グランピング施設の掲載・予約サイト「リゾートグランピングドットコム」、ペットと泊まれる宿の予約サイト「いぬやど」を運営しています。また、2023年からはグランピング施設やドッグヴィラの直営事業も開始しました。直営事業を通して、当社が支援する施設様と同じ目線に立てるようにもなりました。
――宿泊施設の開発・集客支援事業として、御社ならではの特色はどんなところが挙げられますか?
【西山さん】まず、グランピングやペットツーリズムにフォーカスしている支援会社があまりないと思います。宿泊業界の集客支援会社自体は多く存在していますが、グランピングやペットツーリズムは歴史がまだ浅いジャンルです。当社のもともとの親会社がグランピング施設を運営しており、当社の立ち上げメンバーにも同施設で経験を培った者がおります。さらに現在は直営施設の運営を通して「成功した事例」「失敗した事例」の蓄積も行っていますし、実際に運営しているからこその説得力も生まれていると思います。そうした独自の集客や運営ノウハウを、施設様への支援に活かして事業展開をしているのがひとつの特色と言えます。
営業スタッフや施設様とやり取りをするスタッフも、直営施設の現場を経験しているスタッフが多いので、経営などオーナー目線の部分はもちろん、オペレーションの困りごとのような現場担当者目線のお手伝いも可能です。集客支援はいわゆるコンサルタントの立ち位置にはなると思うのですが、当社はきちんと現場に足を運んで、1から10まですべて一緒にやっていく寄り添い型の姿勢で取り組めているかと思います。
ブッキングサイトとしては、宿泊形態がグランピングやヴィラに限られますので、ホテルや旅館にはないアウトドア体験、あるいはペットとの旅行という前提で、さらに宿泊希望の方の目的や用途に合わせて旅行先の選定がしやすいのが強みかと思います。また、宿泊施設自体を旅の目的地として、周辺の観光に留まらず施設そのものの魅力をより多く発信しているのも特色かなと考えています。
――「集客」と一言で言っても実現はなかなか難しいと思います。具体的にはどんな施策に取り組まれていますか?
【西山さん】はい、おっしゃる通り本当に多岐にわたりますので、どれをどれだけお話ししたらいいか……(笑)。たとえば、インフルエンサーの起用は毎月継続してほとんどの施設様で実施させていただいています。また、「リゾートグランピングドットコム」や「いぬやど」はSNSの公式アカウントを持っておりますので、各施設の魅力をSNSで発信していくというところにも注力しています。
各施設の公式サイトの作成・運営に携わることも多く、文章の選定やSEO対策も行います。また、利用者にとって滞在イメージがわかりやすいことがすごく大事になってきますので、サイトに掲出する写真の撮影はプロのカメラマンに依頼し、担当のスタッフが同行することでより施設の魅力がしっかり伝わる写真を手配するようにしています。さらに、予約サイトの管理運営でも、宿泊形態やスペース自体の宿泊料金をある程度相談したうえで決めて、そこに見合った宿泊プランの考案や選定、キャンペーンの打ち出し方法の提案も行っております。
――OTA(オンライン・トラベル・エージェント)サイトとして、ジャンルに特化している以外にもポイントはありますか?
【西山さん】サイトに掲載している施設の公式サイトも運営しているのが一番特徴的なところかなと思います。掲載して終わりではなく、施設自体にフォーカスして魅力を発信し、気になった施設は「リゾートグランピングドットコム」や「いぬやど」から公式サイトに飛べるような動線を組んでいます。より魅力に触れやすく、旅先を選んでいただきやすいような仕組みがあるのが特徴です。
直営施設の運営を活かしノウハウをスピーディーに共有
――メインのジャンルであるグランピング施設は、コロナ禍の中で注目を集めました。コロナ終息後の業態としての現状はいかがでしょうか?
【西山さん】おっしゃる通り、グランピングはコロナ禍で一気に需要が急増し、大きなブームとなりました。施設数がどんどん増え、開業すれば一挙に予約が入るぐらいの勢いでしたが、現在は一旦需要は落ち着いたように感じています。ただ、新しい施設様は増えてきておりまして、ホテル・旅館に次ぐ宿泊の第3の選択肢としてグランピングやリゾートヴィラが定着しつつあるのかなと今は捉えています。
――グランピング利用者の世代や、新規・リピーター比率はどのぐらいなのでしょうか?
【西山さん】施設様にもよりますが、世代では20代後半から30代前半ぐらいの層が平均して一番多いように思います。ブームの後も、新規の方がご利用のメイン層で、直営の「秩父別邸 木叢-komura-」を例に挙げると、リピーターの方は全体の2割に満たないぐらいの割合です。現状では新規のお客様で成り立っている業態ですので、これからはリピーターをどう確保していくかにも取り組んでいきたいと思思っています。
――ブームから定番に、というフェーズに差し掛かっているんですね。そうした中で、施設からはどんな相談が寄せられるのでしょうか?
【西山さん】相談としては本当にいろんなケースがあります。開発の段階から携わる際は、施設内で楽しめる、ユーザーに向けて訴求するコンテンツの部分や、施設で提供する食事の案、細かいところでは家具の選定や物の配置といったことまで寄せられます。開業後は、売上拡大のための具体策であったり、現場でのお客様の応対方法、あるいはクレームが発生した場合どうしたらいいかというご相談もいただくことがあります。
――さまざまな課題がある中で、御社の問題解決のベースとなる考え方はありますか?
【西山さん】相談を受ける側の課題として、我々が普段から現場にいるわけではないので、施設それぞれから寄せられる相談の細かな内情までは読みきれないところがあります。それに対して、当社は取引施設が多数あるところを強みとして、成功事例・失敗事例、たとえばお客様対応で言えば「ある施設はこのケースはこのように対応しました」「こういう対応をして二次クレームを起こしてしまった」という事例を多く蓄積しています。それらをしっかり活用することでスピーディーに課題解決へと導くという手法をとっております。また先ほど申し上げた通り、直営施設の運営をしているのも大きなポイントで、当社内で直営施設の現場と本部との連携をしっかり取り、より具体的な解決ノウハウを今は持っていますので、その両軸で施設様にしっかりとした提案を行っています。
――PRにおいては、施設側の要望と利用者の要望とが一致しないこともあると思います。そうしたバランスはどのように取られていますか?
【西山さん】あくまで集客をメインとした事業を行っていることから、どちらかというと利用者重視の訴求やPRになっていると思います。事業者側の要望と利用者目線をすり合わせる際、少し感覚的なお話にはなりますが「どこを落としどころにするか」はある程度決めたうえで施設側に提案するところは意識しています。集客に効果が見込める案を提案しても施設側にも人員不足であったりさまざまな事情があり、オペレーション上実現が難しいという話になることはとても多いです。そういったところもしっかり考慮したうえで「この案ができない場合はこちらの案は」といったように、A案~C案ぐらいまでは前提にご提案を行っています。
――互いのコンセンサスを得たうえで課題解決に取り組んでいるんですね。施設側からの反響はいかがですか?
【西山さん】成功した場合はやはり喜ばれますし、その成功から新しい手法みたいなものも生まれて非常にいいサイクルになります。もちろんその逆のパターンもありますから「もし結果に繋がらなかったら」というケースも想定し、効果が出ない場合は代案に切り替えるといった手法も採っています。それができるのは宿泊業界自体の強いところなのかなと思っているので「これでいい」みたいな考えは持たずに、どんどん次の策を考えて取り組んでおります。
「海外客のグランピング」「中小宿泊施設の再生」未開拓の事業への挑戦
――ブッキングリゾート社の取り組みの中で、今後特に強化していく分野はありますか?
【西山さん】ここまでにお話しした内容以外のところで言うと、現在は海外の方の集客に力を注いでいます。グランピングに代表されるように日本の各地方に魅力的な自然体験が数多く存在してますので、そうした独自性の高いコンテンツっていうのを知っていただき、海外の方にもぜひ体験していただきたいと考えております。
――いわゆるインバウンド需要の中で、グランピングはまだ大きな集客に繋がっていないのでしょうか?
【西山さん】全体で見ると海外の方からの需要はまだ高くなく、体験される場合も特定のエリアに限られてしまうのが現状です。
――ほかにも、新たな事業展開に向けた構想はありますか?
【西山さん】これまで日本の宿泊業界を担ってきた小~中規模の旅館・ホテルの再生事業に取り組むというところも構想があります。地方の小規模の施設では施設の老朽化や物価高、旅館では後継者不足とさまざまな問題に直面しておりますので、当社の集客・運営ノウハウを活かして、施設の再生、あるいは売却といった出口戦略の部分まで支援していきたいと考えています。
――一般の宿泊業態についても、あまり取り組む事業者が少なそうなところに目線を向けているんですね。そうした姿勢にはどんな背景があるのでしょうか?
【西山さん】当社の事業を通じてあらゆる宿泊施設が健全な経営を行えるようになり、宿泊されるお客様にこれまで以上に喜んでいただける施設をどんどん全国各地に増やし、日本の宿泊業界全体をアップデートしていきたいというのが会社全体の考え方の根本としてあります。それが回答になるかと思います。
取材・文=国分洋平