愛知、岐阜、三重の東海3県を中心に都市ガスを供給する事業を中心に、さまざまな事業を行う東邦ガス株式会社。昨今は、新たな事業として一次産業に取り組む。その一つである養殖サーモン「知多クールサーモン」について、事業開発部事業開発第二グループ次長の木村徳博さんと、係長の澤邉卓也さんに話を聞いた。
同社が知多クールサーモンの養殖に取り組み始めたのは2019年のこと。「中期経営計画の中で、ガス事業以外の事業もしっかりと育てていきたいという構想があり、その一環として始まりました」と話す澤邉さん。サーモンの養殖は前任者のアイデアだったという。「当社の強みを活かした新規事業を考え、さまざまな部署と連携しながら探した結果、LNG冷熱を活用して養殖ができるのではないか、ということになったそうです。養殖事業を手がける取引先にもおもしろいアイデアといわれ、実証実験が始まりました」。現在は知多市にある知多緑浜工場で養殖を行っている。
もともとサーモンは冷水性の魚で、成育に適した水温は20度以下。同社では海外からマイナス162度の液化天然ガス(LNG)を輸入し、海水でLNGを温めて気化している。このときの熱交換でできた冷たい海水を利用してサーモンを育てるしくみだ。海水のかけ流し式で、常に新しい水を供給しながら飼育を行っている。
一般的なサーモン陸上養殖では、飼育に使用する水を冷却して循環させる閉鎖循環式という方法が採用されている。LNG冷熱を使った養殖について、木村さんは「閉鎖循環式にすると電気代などのランニングコストがかかり、CO2排出量も多くなってしまいます。当社はもともとあったガス製造設備を利用するのでイニシャルコストの導入費用もかなり削減できました。また従来は海に戻すだけだった冷たい海水を利活用することで、冷却するための電気代が発生しにくいところが非常にサステナブルです」と話す。
知多クールサーモンの養殖は、海水の温度が下がり始める11月ごろから、上がり始める翌年の5月、6月にかけて行われ、出荷される。木村さんは「冷却後の海水が20度を下回る11月以降から養殖を開始しています」と話す。
養殖稚魚は別の場所で淡水により一定期間育てられた後、工場内の海水の水槽に移される。「塩水濃度も少しずつ上げながら、環境に慣れさせていきます」と澤邉さんはいう。
また自然界では想定できない高い密度で育てるため、水温、酸素濃度などを常に安定させる必要があり、設備トラブルには素早く対応することが要求される。特に酸素濃度の測定や管理は重要だ。「生き物相手なので何かあればすぐに現地に駆けつけることを大切にしています。また遠隔監視で、水槽の温度や酸素濃度を確認するシステムを導入し、常に改善を図っています」。
2019年に実証実験をスタートした時はチラーと呼ばれる冷却装置を使い、1トンの水槽4つで飼育。2021年に国内で初めて(※)LNG冷熱を使用して養殖を実証実験し、約3000尾のサーモンを育てた。「我々の想定範囲内で育てることができたので、なんとか地元や名古屋のスーパーなどに出荷することができました」と木村さん。脂がのりながらもさっぱりとした味わいで、ほどよい食感があり、豊富な海水で育てるため臭みもないのが特徴だ。「生鮮での出荷に関しては5、6月に集中してしまいますが、多くの方に年間を通して味わってもらえるようスモークサーモンなどの加工品も作っており、知多市のふるさと納税にも採用されています」。
※LNG(液化天然ガス)冷熱を活用した養殖サーモンについて、国内のLNG基地を所有する、または運営する主要企業35社を対象に調査。(2025年3月26日時点 ステラアソシエ株式会社調べ)
2024年からは事業として本格的に推進。現在は約3万尾の知多クールサーモンを育てている。今後は40〜60トンの出荷をめざして、水槽を増設した。「事業性を確立するために出荷量を増やして売り上げを立たせながらコストを抑制することが先決。それができれば、次の展開も考えます」と笑顔で話す二人。環境への配慮も考慮しつつ、知多クールサーモンの養殖は続けられていく。
※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。