「1匹いたら1万匹いる?」ゴキブリ駆除業者が、種類から侵入経路、予防・駆除のコツまで徹底解説

2025年11月7日

「ゴキブリ」と聞くと、背筋がゾッとする人も多いだろう。ドラッグストアやスーパーには、スプレー、ベイト剤(毒餌)、燻煙剤など、ゴキブリを駆除するためのグッズが数多く並んでいるが、正しく効果的に使う方法を知っている人は意外と少ないかもしれない。

そこで今回は、大阪府に拠点を置き、飲食店やホテルを中心にゴキブリの駆除・防除に取り組む株式会社クリーンライフ(以下、クリーンライフ)代表取締役・大野宗さんに、ゴキブリの種類、家の侵入ルート、そして予防と駆除のコツについて話を聞いた。

今回取材に応じてくれた、クリーンライフ代表取締役の大野宗さん。同社が運営するYouTubeチャンネル『ゴキブリ博士のクリーンライフチャンネル』では、ゴキブリ博士として活躍中だ【画像提供=クリーンライフ】


日本に生息するゴキブリは主に4種類

日本には数十種類のゴキブリが生息しているが、屋内で衛生害虫となるのは主に4種類だ。そのなかでも、家庭でよく見かけるのは「クロゴキブリ」である。体長は30〜40ミリで黒褐色、寒さに強く、北海道を除く全国に分布し、冬でも生き延びるたくましさを持つ。

「クロゴキブリは日本に古くから生息する在来種で、もともとは自然界で暮らしていました。しかし、人々が家を建てたことで、室内にも入り込むようになったのです。私たちはこれを『家庭用ゴキブリ』と呼んでいます。一方、飲食店の厨房でよく見かけるのは「チャバネゴキブリ」です。体長は12〜15ミリで薄茶色、熱帯性の外来種で暖かい場所を好みます。

これらのゴキブリは、繁華街の下水道や飲食店の厨房で繁殖しやすい。特にチャバネゴキブリは繁殖力が非常に高く、1個の卵鞘(※らんしょう)から30〜40匹が産まれることもあるそう。「私たちはチャバネゴキブリを『業務用ゴキブリ』と呼んでいます」と大野さんは語る。
※カマキリやゴキブリなどの昆虫が卵を包むカプセル状の構造

また、大野さんは「クロゴキブリは成虫になるまで一年かかります。そのため、家で幼虫を見ずに突然成虫を見つけた場合、その個体は外から侵入した可能性が高いです。家の中で繁殖しているなら、1〜2ミリの小さな幼虫が先に目につくはずです」と話す。

「さらに、衛生害虫の中で最も大きいワモンゴキブリ(体長40~50ミリ)は、沖縄に生息していましたが、近年は生息地域が北上しています。これまでは、熱帯性のため本州の気候には適さず、本州では下水管内に生息が限られると考えられていたのですが、近年では地上での生息も確認されているんです」

【写真】飲食店のカウンター裏や冷蔵庫の隙間には、ゴキブリのコロニーが潜んでいることがよくあるとか【画像提供=写真AC】


ゴキブリが家に入る理由。隠れた侵入経路とは

そんなゴキブリの一般的な侵入経路は排水管だ。排水管の水がなくなると、下水道からゴキブリが這い上がってくるのだそう。

「ワモンゴキブリは下水道に多く、繁華街ではマンホールから這い出ることもあります。特に古い建物は『隙間』が多いので、床下通気口やエアコンのホースの隙間、玄関のドアの下なども侵入のルートになります。また、古い建物は床下通気口にメッシュがついていないので、そこから床下に入り込み、畳の隙間などから室内に入ってきます。加えて、秋は外が冷えるので、暖かい家のなかを目指してゴキブリが動き出します」

「繁華街の下水管は、飲食店の熱い排水が流れ込んで湿気が多く、ゴキブリにとってまさに理想の住処なんです」と大野さんは続ける。賃貸住宅や古い一戸建てでは、床下の通気口や畳の隙間も要注意だ。

「また、本来屋外には生息しない業務用ゴキブリ、つまりチャバネゴキブリが家庭で出現することもあります。ただ、それは飲食店のスタッフのカバンや段ボールに付着して家に持ち込まれるケースがほとんどです」

思わぬところに潜んでいる可能性も...。有効な対策とはいかに【画像提供=写真AC】


「予防」と「駆除」を組み合わせて快適な環境を

ゴキブリ対策には“退治すること”よりも、“住みにくくすること”が重要だ。大野さんは「予防と駆除の両立が大切」と強調する。

予防のポイント

・隙間を塞ぐ
排水管、エアコンのホース周り、ドアの隙間をテープやシーリング材でふさぐ。古い家では、床下の通気口にメッシュを取り付けるのも有効だ。

・清潔を維持
食べ物の残りやゴミを放置せず、シンク周りの水分をこまめに拭き取る。冷蔵庫の下や家具の裏にたまった埃やゴミはゴキブリの住処になりやすい。片付けと清掃が最も効果的な予防策だ。

・湿気対策
ゴキブリは湿った環境を好むため、こまめな換気でジメジメを防ぐ。

駆除のコツ

市販の駆除グッズは種類が豊富だが、効果には差がある。主な方法を以下に紹介する。

・トラップ
粘着シートを使ったトラップは、ゴキブリの種類や数を把握するのに便利だが、完全な駆除には不向き。「調査には役立ちますが、根絶には限界があります」と大野さん。

・殺虫剤(スプレー・燻煙剤)
部屋全体にガスを充満させる燻煙剤は一時的な効果はあるが、換気後にゴキブリがふたたび侵入する可能性が高い。奥まった隙間に潜むゴキブリには効果が薄い。実際、病院の厨房で燻煙剤を使ったところ、隣の部屋や病室にゴキブリが逃げて問題になったケースもあるという。

・ベイト剤
ゴキブリが好む成分で誘い、食べさせて駆除する仕組み。効果は数カ月持続し、死骸を他のゴキブリが食べることで連鎖的に退治できる。大野さんは「プロ目線ではベイト剤が最も有効。キッチンなら5〜10個、隙間やシンク裏に設置するのがおすすめです」と話す。

「ベイト剤がゴキブリを呼び寄せる」という誤解もあるが、「料理を作ってもゴキブリが遠くから集まらないのと同じで、広範囲から引き寄せることはありません」と大野さんは否定する。

正しい知識で、効果的にゴキブリの駆除と予防を実践しよう【画像提供=写真AC】


「1匹いたら1万匹いる?」ゴキブリと上手に共存しよう

「家でゴキブリを1匹見たら、30匹いると思え」という言葉を耳にしたことはないだろうか。だが、実はそれ以上の驚きが…。

「飲食店やゴミ屋敷で急速に増えるチャバネゴキブリの場合、1匹見たら1万匹いると思っていい。あっという間に増えますよ。先ほどお伝えしたとおり、チャバネゴキブリは1匹が1カ月で30〜40個の卵を産むことがあるわけですから」

それでも大野さんはこう続ける。「カブトムシやクワガタが同じ速さで動いたら、たぶん同じくらい嫌だと感じるはず。ゴキブリの見た目や動きが不気味に思えるのは、単なる人間の心理的な反応なんです。むやみに退治するのではなく、正しい知識で予防して、ゴキブリとうまく共存しましょう」

YouTubeチャンネルでは、実際の駆除現場の動画やノウハウが公開されているのでチェックしてみては?【画像提供=クリーンライフ】


自宅や飲食店でゴキブリに出くわすかもしれないが、彼らは人間が作り出した環境に適応しているだけで、決して悪意はない。だからこそ、過剰に怖がらず、冷静な対策を心がけてみてはどうだろうか。

取材・文=西脇章太(にげば企画)

※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

ウォーカープラス編集部 Twitter