「規約を読まずに同意してない?」ユーザーをだましたり誤解させる“ダークパターン”の巧妙な手口と解決策

2025年12月3日

ネットで買い物をしたり、アプリをダウンロードしたり...。そのたびに表示される「利用規約に同意しますか?」の文字。正直、最後まで読んだことがある人は、あまり多くないのではないだろうか。

「どうせ難しいし、みんな同意してるから大丈夫」。そう思って、つい“同意する”を押してしまう。だが実は、その“読み飛ばし”が思わぬトラブルを招くことがあるという。そんな課題を解決しようと登場したのが、AIが規約を要約してくれるサービス「ソーシャルペンタゴンダイジェスト」だ。利用規約の“わかりにくさ”がどんな問題を生み、どう解決できるのか。

今回は、このサービスを開発した株式会社Social Pentagon(ソーシャルペンタゴン)の代表取締役・吉澤宏充さんに、取り組みの背景と狙いを聞いた。

株式会社Social Pentagon(ソーシャルペンタゴン)代表取締役の吉澤宏充さん(左)、執行役員の吉澤繭子さん(右)【画像提供=ソーシャルペンタゴン】


9割が理解せずに“同意”。それがトラブルの温床に

「年間30億回以上の『同意』がウェブ上で行われています。そのうち85〜95%のユーザーは、内容を理解しないままクリックしているんです」と話す吉澤さん。

「『とりあえず同意しよう』と済ませる人が多いほど、“ダークパターン”と呼ばれる悪質な設計が入り込む余地が生まれます。知らないうちに定期購入に登録されていたり、解約ページが見つからなかったり...。そんな仕組みが蔓延しているんです」

知らないうちに定期購入に登録されているからくり。消費者を欺く「ダークパターン」が問題になっている。【画像提供=ソーシャルペンタゴン】


「ダークパターン」とは、ユーザーをだましたり誤解させたりするウェブデザインのこと。チェック欄が最初からオンになっていたり、「あと3分で終了」といった偽のカウントダウンを表示して焦らせたり。私たちが“うっかりクリック”してしまう心理を巧みに突いてくる仕掛けだ。

ここまで聞くと、「でも、それって読まなかった自分の責任では?」と思う人もいるだろう。吉澤さんもその声を否定しない。

「たしかに“同意した以上、自己責任”という考え方もあります。ですが、問題は“読めないように設計されている”点なんです。文字が小さく、専門用語が多く、時間もかかる。そもそも“読めない前提”でつくられていることが多いんですよ」

つまり「読まない」のではなく、「読めない」のだ。だからこそ、そこにテクノロジーで介入する余地があると吉澤さんは強調する。

ソーシャルペンタゴンダイジェストの契約企業【画像提供=ソーシャルペンタゴン】


AIが“代わりに読む”。5項目で要点がわかる仕組み

こうした現実を変えるために生まれたのが「ソーシャルペンタゴンダイジェスト」。AIが利用規約を自動で要約し、重要なポイントを5項目ほどに整理してくれる。

「弁護士監修のもとでAIが内容を抽出し、ユーザーが“一目で理解できる”形にまとめています。専門用語もできる限り平易な表現にしています」と吉澤さん。

導入は簡単。企業はウェブサイトにわずか2行のコードを埋め込むだけ。ユーザーが要約をクリックして確認すると、AI要約は無料で、弁護士による要約は1クリック100円の課金が発生する仕組みだ。

「すでに20社ほどで導入されています。ある靴販売サイトでは、導入後に購入率が14%から20%に上がりました。“規約がわかる安心感”が購買意欲を後押ししたんだと思います」

AI要約サービスと聞くと、「本当に正確なの?」という疑問も浮かぶ。しかし、この仕組みは単に「読みやすくする」だけではなく、企業の透明性を可視化するという点で意味が大きい。

「私たちは“エシカルパターン”という概念を提唱しています。それは“ユーザーをだまさない”“隠さない”という倫理的なウェブデザイン。企業にとっても、誠実さを示すことでブランド価値が上がります」

【画像】AIが利用規約を要約してくれるサービス「ソーシャルペンタゴンダイジェスト」。弁護士監修のもと、専門用語を減らし、重要なポイントを5項目ほどに整理してくれる【画像提供=ソーシャルペンタゴン】


大手導入が鍵。“安心してクリックできる社会”へ

とはいえ、新しい仕組みが普及するには時間がかかる。特に大企業では、導入までに複数部署の承認が必要になるのだとか。

「大手企業での導入のお話も進んでおり、そうした大手の成功事例が出れば、他業界にも一気に広がると思います」

ソーシャルペンタゴンダイジェストの契約企業2【画像提供=ソーシャルペンタゴン】


不動産のように契約リスクが大きい業界では、規約理解の支援は“安心材料”になり、利用者が“理解して同意する”環境をつくることが社会全体の信頼につながる。また、海外でも同様の動きが進んでいるそう。

「アメリカでは2025年4月からダークパターン規制が予定されていましたが、政権交代で延期になりました。それでも、ヨーロッパやアジア各国で透明性を求める声が高まっています」

日本でも「ダークパターン対策協会」が認定ロゴ制度を導入。消費者が“安心してクリックできる”社会づくりが進み始めている。

「こうした動きは、まさに私たちのサービスにとって追い風です。5年後には国内で50億円規模の市場を目指しています。さらに、海外では日本の20倍以上の“同意”が交わされており、世界展開の可能性も大きいです」

ソーシャルペンタゴンダイジェストの契約企業3【画像提供=ソーシャルペンタゴン】

ソーシャルペンタゴンダイジェストの契約企業4


昨今は、行政機関や教育現場からも「規約をどう読み解くか」を学びたいという声が増えているという。

「デジタル社会を支える基本リテラシーの一部として、こうしたツールを取り入れる動きも出てきています。私たちは“読む負担を減らす”だけでなく、“理解する文化”そのものを育てていきたいんです」

「ソーシャルペンタゴンダイジェスト」は、単なるAIツールではない。 “面倒くさいから読まない”という行動を、“安心して読める”に変える発想そのものが新しい。

「普及までには3〜5年ほどかかると思います。ただ、読む負担を減らす仕組みが当たり前になれば、社会全体に安心と信頼が戻ってくるはずです」

「規約なんてどうせ読まない」と思っていた人ほど、このサービスに驚くだろう【画像提供=ソーシャルペンタゴン】


「同意しますか?」というひと言が、いつか本当の安心を約束する言葉になる。そんな日も、そう遠くないのかもしれない。普段何気なく押している「同意する」のクリック。そこにつけ込むダークパターン撲滅に向けて日々邁進しているソーシャペンタゴンの動向から、今後も目が離せない。

取材・文=西脇章太(にげば企画)

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