多くの人が利用するふるさと納税制度は今、大きな転換点にある。利用者獲得の“切り札”だった「ポイント付与」が、2025年10月の制度改正で一斉に終了。「ポイントがなくなるなら、お得感も薄れるのでは?」といった不安の声がある一方で、「ポイント付与の終了は、むしろチャンスです」と語るのは、ふるさと納税ポータル「さとふる」を運営する株式会社さとふる(以下、さとふる) 取締役副社長兼COOの青木大介さんだ。
過熱したポイント競争が終わり、市場はどう変わるのか。新たな競争軸の中で、なぜ「さとふる」は選ばれ続けるのか。今回は、青木さんに制度の新局面と今後の展望を聞き、さとふるの戦略を紐解いていく。
ポイント付与の次は、地域の“ストーリー”で選ばれる時代に
ふるさと納税は、応援したい自治体に寄付すると、自己負担2000円を差し引いた額が税金から控除され、返礼品が届く制度で、寄付金の使い道を指定できる点も大きな特徴だ。
これまで人気を牽引してきたのは、各ポータルサイトのポイント施策である。特定のキャンペーン日には寄付が集中するほど、ポイントは強い誘因として機能していた。しかし、過熱したポイント競争が終わった今、利用者の選び方は変わりつつある。
「ポイントが販促の強みだったのは事実です。しかし、その競争がなくなったことで、利用者はより純粋に地域の魅力で寄付先を選べるようになりました。生産者の顔や背景、その土地ならではの風土や“ストーリー”を伝えられれば、地域のファンは確実に増やせます。だからこそポイント付与の終了は、むしろチャンスだと考えています」
さらに青木さんは「地域の魅力を深く伝え、快適な体験を届けられるか。ここからはサービスの本質が試されます」と強調する。
競争軸は体験価値へ。「さとふる」の独自サービスとは
ポイントがなくなったことで、競争軸は“使いやすさ”に移行した。ポイント終了後、多くのポータルサイトが返礼品の品ぞろえ拡充やウェブサイトの機能改善に注力する中、ここにこそ、「さとふる」が他社と差別化する最大の強みである独自の事業構造がある。
「私たちはサイトで寄付を集めるだけでなく、返礼品の手配から品質管理、配送、そして利用者様からのお問い合わせ対応までを一貫して自社で行っています。これは創業当初からこだわり続ける体制で、今では全国で1000人ほどのスタッフがこの仕組みを支えているんですよ」
この体制だからこそ、利用者一人ひとりの「かゆい所に手が届く」きめ細かな対応ができる。とりわけ評価が高いのが「受け取り体験の最適化」だ。返礼品が不意に届き、保管場所や受け取りの段取りに困る…。多くの利用者が一度は経験したことがあるかもしれない。
「そうした悩みをなくすため、マイページで配送状況をリアルタイムに確認できるほか、カレンダー機能で『今月はこの日に〇〇(返礼品)が届く』といった形で事前に配送予定を把握できます。いきなり届いて慌てることがなく、計画的に返礼品を楽しんでいただけます」
手間のかかる物流網を自社で整備するという、一見“泥臭い”取り組みこそが、新たな競争環境における「さとふる」の揺るぎない基盤なのだとか。
「この取り組みにより、配送に関する問い合わせ件数は導入前に比べて約4割も削減されており、顧客満足度の向上に直結しています。他社が容易にまねできない参入障壁になっていると自負しています」
地域の「共創パートナー」に。単なる仲介者からの脱却
「さとふる」が次に見据えるのは、単なるプラットフォーム事業者からの脱却だ。全国約1500の自治体と数万社の事業者という直接ネットワークを最大限に活かし、地域課題の解決に踏み込む「共創パートナー」を目指す。
たとえば、一度に同じものが大量に届くトイレットペーパーを同じ自治体のティッシュペーパーの返礼品と組み合わせて過不足のない量で企画するといった具合だ。現場の声に基づいて、需要に合った“ちょうどいい”提案を形にしていく。その役割を担うのは、2024年に発足した「お礼品開発プロジェクトチーム」だ。ここで、実際にあった企画のケースについて聞いた。
「事業者さんと話すなかで、『猛暑の影響で果物が小ぶりになり、規格外として扱うしかない』といった切実な相談を受けました。味は変わらずよいと聞き、それならばと、手に取りやすい寄付額の“訳ありセット”として出すことを提案したんです。企画から約1週間で受付を開始したところ、大きな反響をいただきました」
この新しい返礼品は、社内担当チームが周到にプロモーションを展開したが、その心配をよそに、用意していた数万セットがわずか3日間で品切れするほどの人気を博した。青木さんは、「作り手の課題を“価値”に置き換えられたら地域も潤いますし、寄付する方も気持ちよく選べる。この企画によって生産者の損失はほぼ補填され、まさに共創が機能した好例だと思います」と話す。
今後も成長間違いなし。変革の先に「さとふる」が描くもの
ふるさと納税は、今や多くの自治体にとって欠かせない財源であり、地域産業を押し上げる原動力でもある。現場からは「ふるさと納税をきっかけに無名だった商品を知ってもらえた」、「利用者の温かいレビューが従業員の大きな励みになっている」といった声が多く寄せられているそう。
「2025年9月は、ポイント付与終了前の駆け込みで申込件数が大きく伸びました。2026年は2019年の法改正時のように一時的に落ち着く可能性もありますが、2〜3年の視点で見れば、成長基調は続くと確信しています。実際に、2025年10月は例年に比べ寄付は落ち込みましたが、1か月経ち回復しています。制度の根幹にある『好きな地域を応援できる』という魅力は変わりません。」
ポイントのお得さが主役の時代は終わり、ふるさと納税は次のステージへ進む。
その変革期において、地域の物語に光を当て、共感と応援の輪を広げながら、利用者との新しい関係性を築くことができるか。各社の真価が、今まさに問われようとしている。
取材・文=西脇章太(にげば企画)
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