今、群馬県がおもしろい理由。山本一太知事が仕掛ける“群馬というコンテンツ”とその未来

2026年2月17日

温泉大国としても知られている群馬県が、今、その注目度をより高めている。移住希望地ランキング全国1位、動画再生回数全国トップクラス、そして次々と生まれる新しい取り組み。その中心にいるのが、山本一太知事だ。今回の対談では、「知事という仕事」から始まり、観光、メディア戦略、エンタメ、IP、そして人材育成まで、山本知事の言葉を通して、群馬県がどのように「選ばれる場所」へと変化してきたのかを紐解いていく。聞き手はウォーカープラスの浅野編集長。行政とメディア、それぞれの立場からのやり取りを通して、今の群馬がどんな方向へ向かっているのか、その新しい魅力が少しずつ見えてくる。
※本取材は2026年1月5日に実施

群馬県知事の山本一太さん(左)とウォーカープラス編集長の浅野祐介(右)【撮影=阿部昌也】


「知事」という仕事が、今“一番おもしろい”理由

ーーまずは一太さんが考える「知事」という仕事の醍醐味について伺いたいと思います。以前ご自身のブログで、「群馬県民の先頭に」や「多面的発光体として」といった言葉で表現されたこともありましたが、国政を長く経験された一太さんだからこそ見えている、知事という立場ならではのおもしろさがあるのではと感じています。

【山本一太知事】私は自民党で国会議員を24年間務めて、今は知事として7年目になります。国会議員と知事の仕事を比べたときに、一番違うのは、国会議員の本来の役割が法律を制定することにある、という点です。法律に基づいて世の中が動いていく。その意味では、そこには確かにおもしろさや醍醐味がある仕事だと思っています。

一方で、知事というのは、「現場のプレーヤー」なんです。群馬県民の先頭に立って、現場と直接向き合いながら、さまざまな事業を動かしていく。その実感という点では、国会議員時代のおもしろさとは全く違う、仕事の醍醐味や重圧、やりがいがあります。これは、正直、比べものになりません。

ーー国の制度設計とは違って、判断の結果がすぐ現場に返ってくる。そのスピード感こそ、知事という仕事のリアルなのだと感じます。
【山本一太知事】私が6年半前に知事になったタイミングが幸運だった理由のひとつは、当時、知事という存在が、今ほど注目されていなかったことです。全国知事会も、一時期は「改革派知事」が地方から政治改革を発信する存在として注目されたことがありました。決して規模の大きくない自治体の知事が脚光を浴びた時代です。ただ、その後は、知事会全体としての存在感は薄れていきました。

ーー注目のピークを一度迎えて、そこからあらためて役割が問い直された、という流れですね。
【山本一太知事】そうですね。ところが、コロナ禍をきっかけに状況が一変しました。未曾有の危機の中で、国と地方の役割分担が明確でない場面も多く、各知事の判断が、極めて重要な意味を持つようになった。その結果、知事会にも一気に注目が集まり、存在感が大きく高まったわけです。

ーー知事という存在の見え方そのものが変わった印象があります。
【山本一太知事】だから今、知事という仕事は本当におもしろい時代に入っています。私は昭和33年(1958年)生まれで、いわばネットで言えば“石器時代”の人間ですが、この10年、特にこの6年ほどで、デジタルやインターネットの環境は大きく変わりました。地方にいながら、グローバルな動きや情報に直接触れられる時代になったんです。

【写真】33階建ての群馬県庁舎は、153.8メートルで道府県庁舎として日本一の高さを誇る【提供画像】


ーー地方にいながら、世界と同時に情報を受け取れる感覚ですよね。ご自身の知事としての強みはどんなところにあると思いますか?
【山本一太知事】まず、24年間国会議員を務めてきた中で築いた政府との人脈があります。さらに東京に近いという地理的な好条件もある。知事である私の交渉相手は、ほぼ大臣クラスになります。

ーーご自身の強みと、群馬ならではの距離感をフル活用しているわけですね。
【山本一太知事】はい。加えて、デジタルを活用し、地方からでも多様な発信ができる。これまでアクセスできなかった情報や人にもつながれる。知事という仕事のダイナミズムや可能性は、明らかに広がっています。そう考えると、このタイミングで故郷の群馬に戻り、現場のプレーヤーとして知事をやっていることは、本当によかったと思っています。

ーーその実感が伝わってきました。ありがとうございます。

届け方を変えたら、群馬は動き出した

ーーSNSの活用など、ご自身でも強力なメディアで発信を続けられていて、県として動画・放送スタジオ「tsulunos(ツルノス)」も非常にうまく活用されていますよね。行政が自らここまで発信に力を入れている例は、あまり多くない印象があります。一太さんは、今の時代における観光の魅力や地域の価値を、どのように届けるべきだと考えていらっしゃいますか?

【山本一太知事】観光や地域に限らず、今は情報発信全般に言えることですが、いわゆるオールドメディアよりも、ネットメディアの影響力が日々大きくなっていると感じています。若い人はテレビをあまり見ませんし、実は私自身もほとんど見ていない。ニュースもYouTubeでチェックしますし、BBCやCNN、NBC、Foxニュースまで全部見られる。そういう時代ですよね。

tsulunosのスタジオで対談が実現した【撮影=阿部昌也】


ーー情報にたどり着くまでの導線そのものが、世代ごとに全く違ってきていますよね。
【山本一太知事】つまり、テレビをほとんど見ない環境の中で、ネットの発信力が急激に広がっている。だからこそ、デジタルを使った情報発信が、今の時代の主流になってきていると思っています。

ーー行政側が、その変化をしっかり前提に置いているかどうかは、大きな差を生みそうです。
【山本一太知事】今は47都道府県それぞれがネット動画チャンネルを持ち、登録者数や再生数を競い合っています。特にコロナ禍を通じて、動画の重要性はあらためて強く認識されました。そうした中で、群馬県の動画の再生回数は全国トップクラスです。2023年度は約4000万回、2024年度は約8000万回となりました。行政の公式チャンネルとして考えると、かなり異例の伸び方です。

ーーかなり異例の伸び方ですね。
【山本一太知事】そのうち約2500万回はぐんまちゃんが稼いでいますが、残りの約5500万回は、YouTuberやインフルエンサーとの連携もありつつ、基本的には職員が中心となり回している。これは本当に新しいビジネスモデルだと思います。

群馬県公式動画チャンネル「tsulunos -ツルノス-」【提供画像】


ーー県独自できちんと運用できるチームが育っているのは大きいですね。
【山本一太知事】はい、大きいと思います。こうしたネット発信力の強化は、群馬県の勢いにもつながっています。2024年の「移住希望地ランキング」で全国1位を獲得できたのも、その象徴です。王者だった静岡を抑えての1位でした。

ーーメディア側から見ても、「群馬が1位」という結果そのものがニュースになっていました。
【山本一太知事】実は、これもネット動画の発信力にかなり支えられていると思っています。観光の魅力をどう伝えるかは、口コミもありますし、ウォーカープラスのようなメディアの力も大きい。

たとえば、水上の宝川温泉がヨーロッパの人たちに知られるようになった背景には「ロンリープラネット」という旅行ガイドの存在がありました。紙媒体の力も、もちろん大事です。ただ、基本的にはデジタルを活用した情報発信が、最大のポイントだと考えています。

見せ方よりも中身。群馬県の観光戦略

ーーここまで情報発信、メディア戦略について伺ってきましたが、次は観光についてお伺いさせてください。群馬県の観光について、一太さんが何を一番大事にしているのか、そしてこれからそれをどう磨いていこうとしているのかを教えてください。

【山本一太知事】観光の専門家デービッド・アトキンソンさんは、日本経済や観光戦略について、いろいろ提言していますが、「コンテンツそのものが大事だ」ということを言っています。仮に観光協会がパンフレットをたくさんつくって宣伝しても、実際に来てみてガッカリされたら意味がないですよね。

だから、ハードの整備が重要だと考えています。「よさそうだな」と思っていたものが、いざ観光地を訪れて「なんだこれ」となるのは一番よくない。ソフトだけでなく、ハードの整備も含めて、まずは「いいコンテンツをつくる」ことが大事なんです。

「観光協会が立派なパンフレットを作って宣伝しても、来てみたらガッカリじゃしょうがない」と語る山本知事【撮影=阿部昌也】


ーー見せ方を工夫する前に、まず現地での体験価値をどう高めるか、という順番ですね。
【山本一太知事】まさにそうです。だから私は、見せ方の前に、現場そのものをちゃんと磨くべきだと思っています。

ーー群馬の場合、その象徴的な存在が、やはり草津温泉なのかなと感じます。
【山本一太知事】今、草津温泉って、若者のメッカみたいになっているんですよ。

ーー本当に、若い方が多いですよね。歩いている層が、明らかに変わった印象があります。
【山本一太知事】そうなんです。今の草津温泉は、若いカップルが本当に多い。写真映えするという魅力もありますが、湯畑を歩く姿を見ていると「この時間を大事に使いたい」という気合というか、どこか勝負に来ている感じがある。歩き方や表情にも熱量があって、それも草津温泉の魅力のひとつだと思っています。もっと多くの方に、ぜひ来てほしい。私も大好きですから。

草津温泉の湯畑。鉄も溶かすpH2.1の強酸性泉として知られる名湯【提供画像】


ーーアクセスはもちろん、滞在時の「時間の使い方」まで含めて選ばれている感じがします。
【山本一太知事】まさにそこがポイントです。私の故郷でもある草津温泉は、バブル期にかなり厳しい時代がありました。道路整備が進んで便利になり、結果として素通りされるようになってしまい、「秘湯」なんて言われたこともあった。でも、やはり歴代の町長や行政が賢かったのは、「泉質主義」を貫いたことです。

草津温泉は圧倒的にpHが低く、細菌がほとんど生きられない、世界でも稀有な温泉です。源泉の自然湧出量も日本一。その根本の価値を変えなかった。結果として、「温泉がいい」というコンテンツが磨かれ、人は遠くても訪れるようになったんです。

ーーただ流行に寄せるのではなく、強みを信じて磨き続けた結果ですね。
【山本一太知事】コンテンツ戦略には2つあると思っています。ひとつは、新しいコンテンツを時代に合わせてつくること。もうひとつは、すでにあるコンテンツを磨き上げること。その好例が「温泉文化」です。

温泉は、日本独自の文化なのに、長い間「文化」として認識されてこなかった。それを群馬県が中心になって働きかけ、「温泉文化」をユネスコ無形文化遺産の国内候補に押し上げることができました。これは、「当たり前だった価値を再発見し、戦略的に発信する」という意味で、非常にわかりやすい例だと思っています。

外に任せない。群馬県がスタジオを自ら運営する理由

ーー先ほど触れていただいた「tsulunos」について、もう少し伺いたいのですが、あえてインハウスで情報発信拠点を構えていますよね。一般的には外部に委託するケースも多い中で、なぜ自分たちでやろうと考えたのでしょうか?

【山本一太知事】外部に委託するケースが多い中で、群馬県は自前でやっています。もちろん、職員が担当している分の人件費はありますが、ここは1300万円程度で回っているんです。

tsulunosのスタジオは、県庁舎の32階展望ホールに併設されている【提供画像】


ーーその規模感で回しているのは、率直に驚きです。
【山本一太知事】群馬県知事としてのPRになりますけど、これはかなり画期的なモデルだと思っています。ランニングコストとして職員の負担はありますが、それを差し引いても圧倒的に効率がいい。なぜ職員で回そうとしたかというと、群馬県の中に「クリエイティブ集団」をつくりたかったからです。

ひと言で群馬県といっても、職場は県庁だけでなく、地域の事務所や、試験研究機関、農業や公共事業の現場、児童相談所など、さまざまな部署があり、自治体は職員が数年ごとに異動することが多いため、ジェネラリストを育てる文化があります。そうした課題はありつつも、デジタル戦略、特に動画の発信力が世の中を動かす時代に、県の中にクリエイティブ集団を持つことには大きな意味がある。当たり前のように自分たちで番組をつくっていますが、それは決して当たり前ではないんです。ここでもしコンサルティングファームのような機能までつくれたら、最強ですよ。

ーー「県の中にクリエイティブ集団をつくる」という発想が、すごく大きいですね。
【山本一太知事】どこの県にもないでしょう。そうなれば、たとえば「どこかの村が困っている」となったら「じゃあ、うちのチームを派遣しますよ」と言える。しかも実績がある。正直、最初は、完成度の高くない動画もありました。「大丈夫か?」という恐ろしい動画も(笑)。でも最近は、10万回再生を超える動画を職員がつくれるようになったり、だんだん育ってきている。繰り返しになりますが、群馬県の中にクリエイティブ集団をつくることが重要なんです。

tsulunosのTikTokアカウントは「TikTok上半期トレンド大賞2025」で特別賞を受賞した【撮影=阿部昌也】


「クリエイティブ」というのは本当に大きなキーワードなんです。県として、デジタル・クリエイティブ産業を新しくつくろうとしていて、そこにもつながっていく。だから、なぜインハウスでやるのかと聞かれたら、答えはひとつです。「最強だから」。群馬県以外に、こういう形はないと思っています。

ーー発信を続けていく中で、県内外の群馬ファンについて、何か変化を感じることはありますか?
【山本一太知事】ファンは確実に増えていると感じています。まず、移住希望地ランキングで1位になったこと。実際の移住者数も、急増ではないですが、過去最高を更新し続けています。

ーーここまでの話を伺うと、発信がしっかりと実感値、結果に結びついている感じがします。
【山本一太知事】イメージというのは、自己実現するところがあるんですよね。かつては「どこにでもある県」だったかもしれない。でも、この6年半で起爆した。移住希望地ランキング1位は、常連の静岡、長野、山梨、福岡を抑えての結果です。「名前は知っている」から「選択肢として本気で考えられる」段階に入った、と言っていいと思います。さらに、2022年度の名目経済成長率は6.7%。平均が約3%というなかで圧倒的でした。県民ひとりあたりの所得も過去最高の5位。名目GDPの成長率も、3年前のデータですが全国1位でした。要するに「仕事も暮らしも、手応えが出始めている」ということです。

山本知事が就任した6年半の間で、群馬県のブランド力は大きく向上した【撮影=阿部昌也】


それに、テレビやWebメディア、今回のウォーカープラスを含め、群馬県の露出は明らかに増えている。これは県民のプライドにつながると思っています。「名目GDP成長率1位」「移住希望地ランキング1位」「ネット発信力トップクラス」。こういう言葉が並んできているのは、いい流れです。勢いは確実にある。

それに、これは私の手柄ではないですが、群馬県の高校が野球とサッカーという日本で極めて人気の高いスポーツで、2024年にそれぞれ全国優勝した(※健大高崎/2024年春のセンバツ高校野球優勝、前橋育英/第103回全国高等学校サッカー選手権大会優勝)。そういう流れも含めて、今の群馬には、いい空気があると思っています。

全国No.1になった、群馬県の移住戦略

ーー移住という観点で伺いたいです。観光地としての魅力とは別に、実際に「住む」場所としての魅力、住み続けたいと思ってもらうための工夫やアプローチについて、どのように考えていらっしゃいますか?
【山本一太知事】ようやく群馬県が移住希望地ランキング1位になりましたけど、次に10位なんてことになったら大変ですよね(笑)。連覇というわけじゃないけれど、勝ったあとに「守る」ほうが、やっぱり難しい。だから、そこはしっかり取り組まなきゃいけないと思っています。実際に移住してきた方々の話を聞いてみると、キーワードは「相談体制」なんですよ。群馬県の人は、基本的に気さくで親切なんだけど、移住した直後って、どうしても知り合いがいない。

ーー条件面のよさだけでは、埋まらない部分ですよね。
【山本一太知事】そうなんです。この間、東京交通会館で行った移住フェアで、群馬県に移住したお二人と議論したんです。二人ともすごく明るい方で、今は友達も増えたと言っていました。でも、移住してきたばかりの頃は、やっぱり知り合いがいなかった。

一応、いろいろなセミナーはやっているんだけど、なかなか情報が届かないという声もあったんですよね。自然もあるし、東京にも近い。満員電車もない。それから物価も、いいことか悪いことかわからないけど、全国で一番低い。野菜も豚肉もおいしいし、温泉もある。アピールし続けると時間が足りなくなるので、これ以上はやめますけど(笑)。

群馬への移住を考える人のためのライフスタイルWebマガジン「ぐんまな日々」。移住のための相談窓口や、移住のために知っておきたい情報が満載【提供画像】


ーーいわゆる「スペック」は、もう十分に高い。
【山本一太知事】だからこそ、そういう「いいところ」がある前提で、もう一歩、地域にうまく溶け込める仕組みがあれば「もっといいな」という話だったんです。群馬県としても、移住してきた方々と地域の人をつなぐ仕組みの部分はもっと力を入れていきたいと思っています。「群馬県を選んでよかった」「周りの人が親切だな」と、そう感じてもらえるようにと考えています。

実際、最初はなかなかコミュニティに溶け込みにくかったけれど、そうした仕組みがあったことで、たとえば駐在所の方や郵便局員さんなど、いろいろな人と知り合えた、という話も聞くんです。

ーー暮らしの中で、人と人が自然につながる導線があるかどうか、ということですね。
【山本一太知事】そう。そういう出会いの場を、もっと充実させていければ、群馬県への移住者は、さらに増えていくと思います。

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