年に一度、アメリカ・ラスベガスで開催される世界最大級の格闘ゲーム大会『The Evolution Championship Series』(以下、『EVO』)。『ストリートファイター』や『鉄拳』シリーズをはじめ、有名なタイトルを競技種目として採用している。
そんな『EVO』の精神を受け継ぎ、2018年より開催されているのが『EVO Japan』だ。本家に引けを取らない魅力に加え、日本特有の文化を反映した特色もあるため、海外からのエントリーも多い。『EVO Japan 2020』を最後に、コロナ禍で休止を余儀なくされていたが、2023年3月31日〜4月2日に、3年ぶりとなる『EVO Japan 2023』が開催された。
今回は、『EVO Japan』の特色やコロナ禍の様子、そして今後の展望などについて、『EVO Japan 2024』実行委員会の五十嵐知行さんに話を聞いた。
10代後半〜60代まで参加!『EVO Japan』の特色は「ゲーセン文化」
2010年代後半、日本におけるeスポーツの人気が本格的に高まりつつあった。そんななかで「そろそろ日本版『EVO』を開催できるのではないか」との声が上がり、米国のSRKX Productions, LLC.との協力のもと、関連団体が運営法人を設立。2018年に初となる『EVO Japan 2018』の開催に至った。
「まず本家『EVO』との違いとして、日本は『格ゲー大国』と称されるほど格闘ゲームが人気ですので、エントリーするのは主に日本の選手です。またゲーム文化の聖地なので、海外からのエントリーも多くありますね。日本ではゲーセン文化が根付いていることもあり、参加者の年齢層が10代後半〜60代までと幅広いのも大きな特色です」
3日間の「メイントーナメント」のほかに「サイドトーナメント」という催しもあり、有志によって構成されたコミュニティーが呼びかけて、小規模な大会を実施しているという。
「例年約50団体が参加しており、1団体につき30人から100人以上が集まります。この大会は本戦と同じ会場で、DAY1(1日目)とDAY2(2日目)に行われることが多いです。会場のスペースや機材に関しては、コミュニティーのほうで用意してくれたり、私たち運営側がレンタルしたりとさまざまですね」
コロナ禍でゲーセンが大打撃!そして2023年、3年ぶりの復活
『EVO Japan 2020』までは順調に開催されていたが、コロナ禍により3年間の休止を余儀なくされた。なかでも大打撃を受けたのは、ゲームセンターの運営者たちだ。テレビの報道などが影響して、日本のゲームセンターやeスポーツ施設の客足が大きく減少した。
当時100人規模のイベントですらNGが出てしまう情勢だったなか、1日あたり約1万人を集める『EVO Japan』の開催は、まさに絶望的な状況だった。「この時は、精神的に相当苦しかったですね...」と五十嵐さん。
「このたび、3年の時を経て、待望の『EVO Japan 2023』が開催となりました。確実にできるかわからないなか、踏み切ったこともあり、参加者や観客からは『ありがとうございます!』と、ただひたすら感謝の言葉をいただきました。また、スケジュールの関係でDAY1は平日だったのですが、午前中にはすでに1万人の来場者が押し寄せました。『8000人、9000人突破しました!』と、インカムから聴こえてくるスタッフのアナウンスを今でもよく覚えています。これまでにない勢いに驚きましたが、みんな楽しみにしてくれていたんだなと感じ、とても嬉しかったですね」
また海外の選手は、初開催の2018年には約1000人だったが、『EVO Japan 2023』では、約1500人と1.5倍に増加。さらに80か国以上からエントリーがあった。これを受け五十嵐さんは「本家の『EVO』を通じて知ってくれた方もいると思いますが、今回は円安の影響もあるかもしれませんね」と推測する。実際に海外の選手から「日本は物価が安い」という声もあがっていたそうだ。
大会前後には、海外の選手が各地へ聖地巡礼!
例年、大会の3日間は大盛況となるが、その前後は、eスポーツ施設やゲームセンターに国内外の選手たちが集まり、前夜祭・後夜祭のような盛り上がりを見せるのだとか。強豪プレイヤーとの対戦を楽しんだりして、交流しているそうだ。
「日本で発売されたゲームの情報や攻略方法が、海外には時差で伝わっていたのに対し、今はリアルタイムで共有されます。そのため、日本発の格闘ゲームであっても、とんでもなく強い海外のプレイヤーがいたりします。彼らが来日する目的として『EVO』の出場はもちろんのこと、聖地である日本で、自身の技量を試す機会と捉えている人たちも少なくありません。eスポーツ施設やゲームセンターは、そんな彼らの期待に応えられる場所だと思うんです」
海外の選手のなかには、日本アニメの舞台となった聖地を巡礼する人も多く、1週間や10日パックを利用して来日する選手も。「ついでに観光していく方もたくさんいました。逆に開催される3日間だけ過ごして帰っていった選手は、ほとんどいませんでした」と五十嵐さん。ほかにも海外の選手が、日本人選手の自宅を訪問した様子をSNSに投稿するなど、日本旅行を満喫しているという。
2024年は、誰もが楽しめるテーマパークのようなイベントに!
「『EVO Japan』は、多くのタイトルとそのファンを1つの場でつなげることにあると感じています」と語る五十嵐さん。コロナが明け、3年ぶりの開催となった『EVO Japan 2023』が成功に終わった今、これからの展望についてどのように考えているのだろうか。
「格闘ゲームは日本発のジャンルとして人気ですが、FPSやTPSといったジャンルに比べ、まだまだ規模が小さいです。そこで認知を広げるため『EVO Japan 2023』では、著名なストリーマーたちを起用した、ウォッチパーティーやミラー配信を実施しました。普段の格闘ゲームの配信では考えられない視聴者数にとても驚きましたね。さらにこれまで格闘ゲームを触れてこなかった人たちに、興味・関心を持っていただける大きなきっかけとなりました」
配信者のファンをはじめ、多くの人が格闘ゲームに興味を持つようになった。「今後も『EVO Japan』を通じて、格闘ゲームの魅力を多くの人に知っていただきたいです!」と五十嵐さんは意気込む。
「次の『EVO Japan 2024』では、参加者だけでなく観戦者も楽しめるようなイベントを目指しています。具体的には、家族連れや友人同士で来場する方々も楽しめる、『格闘ゲームのテーマパーク』を作りたいと考えております」
格闘ゲームの祭典として認知される一方で、大会前後には海外の選手が日本を観光したり、日本の選手と交流を深めたりと、海外の人たちに日本の魅力を知ってもらえる貴重な機会となっている『EVO Japan』。イベントの内容もさることながら、観光や国際交流を促す場としても、今後さらなるスケールアップを期待したい。
取材・文=西脇章太(にげば企画)