2023年6月2日、カプコンの人気格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズの最新作『ストリートファイター6(スト6)』が発売。駆け引きをより楽しめる新バトルシステム「ドライブシステム」に加え、難易度の高い“コマンド入力の壁”を取り払った新操作方法「モダンタイプ」が実装され、多くの初心者を取り込むことに成功。そしていま、“格闘ゲーム人気”が再燃している。
そんな、沸騰するeスポーツ業界の要因のひとつとして、格闘ゲーム系プロゲーマーたちとVTuberやストリーマーとのコラボレーションがあげられる。そこで今回、プロeスポーツチームREJECT所属、格闘ゲームタイトル総合プロデューサー兼ストリーマー・こく兄さんにインタビューを行い、格ゲー界の盛り上がりについてや、“勝負の年”となる2024年の抱負について話を聞いた。
ブーム継続のためには「コアなファン層向けに展開してはダメ」
――『ストリートファイター6』の大ヒットにより、2023年の格闘ゲーム界は盛り上がりましたが、これまでと比べて反響の違いは?
【こく兄】贔屓目に見ても、10倍はアップしたと思います。とはいえ、ゼロから盛り上がった…というわけではなく、もともとのノウハウがあったのが大きいですね。ウメハラ(梅原大吾)もトップとして皆を導いてくれて。それらがうまくかみ合った結果だと思います。
――「ノウハウ」とおっしゃいましたが、業界を盛り上げるうえで意識して取り組まれたことは?
【こく兄】新しく始めたことは特になくて、今まで我々がやっていてウケていたものをストリーマーにも実践してもらったところ、より幅広い層に楽しんでもらえた…という次第です。今まで各ゲーマーとしてコツコツとやってきたことは間違っていなかったんだと、改めて確信できました。
――こく兄さんは日頃より「“格ゲー村”をさらに大きくしていきたい」とおっしゃっています。一過性のブームで終わらせず、人気を継続させるにはどんな方法が?
【こく兄】あくまでもいちユーザーとしての意見ですが、これまでの対戦格闘ゲームはヒットした後、コアなファン層向けに展開していってしまったんですよ。それがダメだったんじゃないかな…と思うんですね。なので『スト6』は奇をてらうのではなく、当たり前のことを継続するといいますか。いま現在、多くのユーザーに支持されている点をブラッシュアップしつつ、愚直に続けていくことが人気継続のいちばんの方法だと思います。
モダンの革新!伝えにくかった格闘ゲームの魅力を手軽に体験できる
――『スト6』は初心者でも遊びやすくするため、操作タイプに“モダン”を導入した点が画期的だったと思います。こちらの仕様についてもお聞きしたいです。
【こく兄】まさにモダンのおかげで、初めて格闘ゲームをプレイする人や、今まで触れてこなかった人でも気軽に遊べるようになりました。ちなみに『ストリートファイターIV』の全盛期には、「セビ滅できんの?」という名言(!?)がありまして…(苦笑)。これはリュウを使って、昇龍拳、EXセービングアタック、ダッシュキャンセル、滅・波動拳とつなげるコンボなんですけど、それを出せるかどうかが初心者と中級者をわけるラインになっていたんです。
これがなかなか難しかったんですけど、モダンならアシストボタンひとつで、手軽にそれを再現できてしまう。「操作は難しいけど、技を出せたら気持ちいい」という、今まで伝えにくかった格闘ゲームの魅力が、これによって初心者の方でも手軽に体験できるようになったので、この功績は大きいですね。
――ですが、誰でも簡単に強力な技を出せると、ベテラン勢としてはちょっと複雑な気分になりそうですね。
【こく兄】そういう層を考慮して、クラシック操作も選べるようになっているのが『スト6』のいいところですね。モダンと比べて操作は複雑ですが、そのぶん攻撃の威力は増して、モダンでは使えない必殺技も使用可能になっている。ちゃんと差別化されているので、ベテラン勢も「俺たちがやってきたことは無駄じゃなかった」と受け入れることができたように思います。本当にそのあたりのバランスが絶妙だと思います。
ファンを増やす活動を行い“ブームの火”を消さないように
――こく兄さんはプロスポーツチームREJECTの格闘ゲーム部門プロデューサーですが、2024年は“ストリートファイターリーグ”が2リーグ制になり、“Yogibo REJECT”の参戦も話題になっています。現時点で公表可能な情報がありましたら教えてください。
【こく兄】詳しいことはまだ何も聞かされていませんが、今回は2リーグ制なので、リーグ内で戦うのは6チームだけというのが昨年から大きく変わったところです。これまでは10チームの総当たり戦だったので、選手たちは10チーム分の対策を考えて練習を重ねてきたわけですが、半年間ずっと、1日12時間以上の練習を毎日繰り返していたので、これはそうとうきつかったと思います。それが6チームに減るので、選手たちの負担はある程度軽減されるんじゃないかと。
――選手たちにも休息は必要です。
【こく兄】そうした負担が減る分、選手たちには配信であったり、ファンミーティングなどのイベントにも積極的に取り組んでもらいたいです。試合も大事ですが、応援してくれるファンの方たちを増やす活動も同時進行で行い、ブームの火を消さないようにすることも、我々が取り組まなければならない重要な仕事だと考えています。
――こく兄さんはウメハラさんに対しても「こいつを王様にしちゃダメだ」などと冗談を言ったりと、ズバっとモノを言えるような関係に見えます。
【こく兄】その発言は揶揄しているだけですが(笑)、むしろ、彼がそういう冗談を受け入れてくれるポジションにいてくれて、本当によかったと思っています。
――レジェンドとも言い合える関係性がいいですね。
【こく兄】昔はそういう間柄のストリーマーがもっといたんですけど、ここ数年でほとんど辞めてしまって…。今でもウメハラに対して好き勝手言っているのは、僕とオオヌキくらいですね。いろいろ言ってはいますが、彼が業界の未来について真剣に考えて、それを背負う立場を引き受けてくれていることには本当に感謝しています。今のこの格闘ゲーム界の盛り上がりも、ウメハラのおかげだなと思っています。
――ウメハラさんといえばどんどん新しい企画を立ち上げていく、アイデアマンのような一面もあるように思います。
【こく兄】確かに、そういった側面もありますね。常日頃からいろんなことを考えていて、実際に話すと、出てくるエピソードや企画のアイデアなどは全部おもしろいんですよ。ただ、本人はものすごく飽き性で、一度やってウケたら満足してしまい、「もういいや」となってしまうところがあって。しっかり管理して続けさせたり、あるいは後任に引き継がせたりして、継続させないといけないな…と感じています。
誰でも気軽に楽しめる大会の開催を目指す
――2024年の抱負を聞かせてください。
【こく兄】人気ストリーマーにも大勢参加してもらって、ようやく格ゲー村に新幹線が停まるようになりました。この勢いを止めず、より多くの方に村の存在を知ってもらえるように、ますます広報を頑張りたいと思います。
――『スト6』のようなランクマッチの場合、“マスター”まで上がると満足して卒業する人が多いのではないかと思います。そこで終わりにせず、プレイし続けてもらうにはどのようなことをすればいいのでしょうか。
【こく兄】まさにその答えが“大会の開催”だと考えています。僕たちもさまざまな大会があったからこそ、こうして何十年も格闘ゲームを続けてこられたので。当時は近所のゲームセンターで、毎週のようにランキングバトルを開催していました。半年くらいかけてポイントを競い、1位を決める…ということをしていたので、自然と「強くなりたい」、「勝つためには練習しなければ」という感覚が身についていったんですけど、そういった取り組みを定期的にやっていきたいですね。
――SFリーグのようなプロの大会だけでなく、誰でも気軽に参加できるアマチュアの大会も増やしていくべきだと。
【こく兄】はい。そうした大会以外にも、強さを競うだけでなくストリーマーとリスナーがいっしょに楽しめるような大会、イベントなども開催したいです。ふれあいを重視するなら、絶対にオフラインで実施した方がいいので、負担は大きくなりますが何とか年内には実現したいです。他にも、皆で試合を見て楽しむパブリックビューイングなどを実施したり。その際はYogibo REJECTの応援団長として、会場をとことん盛り上げたいと思います!
【プロフィール】
こく兄/ゲーミングチーム REJECT格闘ゲーム部門プロデューサー兼ストリーマー、「格ゲーマー人狼」「おじリーグ」を主催。
撮影・文/ソムタム田井
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