2023年6月2日、カプコンの人気格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズの最新作『ストリートファイター6(スト6)』が発売。駆け引きをより楽しめる新バトルシステム「ドライブシステム」に加え、難易度の高い“コマンド入力の壁”を取り払った新操作方法「モダンタイプ」が実装され、多くの初心者を取り込むことに成功。そしていま、“格闘ゲーム人気”が再燃している。
そんな、沸騰するeスポーツ業界の要因のひとつとして、格闘ゲーム系プロゲーマーたちとVTuberやストリーマーとのコラボレーションがあげられる。今回、ワールドワイドなジャズベーシストとして国内外で活躍し、ゲーム音楽やアニメ劇伴の作曲・編曲・演奏・プロデュースなども手掛けるミートたけし(川村竜)さんにインタビューを実施。昨今、格ゲーストリーマーとしても人気を博すミートたけしさんに格ゲープロゲーマーがブレイクするための秘訣や、格ゲー村からの脱却についてなど、“世界を知る男”が見たeスポーツの最前線について話を聞いた。
「格ゲーマー人狼」がきっかけで格ゲー界に参戦
――音楽分野のミートたけしさんが格ゲー界に関わられるようになったきっかけを教えてください。
【ミートたけし】数年前の話になりますが、私の会社のアシスタントが「ストリートファイターV」を買ってきて、仲間内で遊ぶようになりました。オフライン対戦会にも足を運ぶようになりましたが、そこで仲良くなったのがプロゲーマーのマゴさんでした。その後はマゴさん経由で他のプロゲーマーの方たちとも交流を持つようになりました。
――ゲーム関係の配信やイベントに出演されるようになった経緯もお聞きしたいです。
【ミートたけし】格ゲーストリーマーのこく兄さんが主催する「格ゲーマー人狼」という配信に呼んでもらったのがきっかけです。ただ、その頃はまだ(今もですが)、“自分は格ゲー畑の人間”だという自覚がなかったので、お断りしまして……。
――といいますと?
【ミートたけし】私はもともと他業種の人間なので、「格ゲーイベントに出演してもいいのか?」と、気が引けてしまいまして。ずっと断っていたんですけど、それでもこく兄さんが誘い続けてくれたので、「それならば」と思い参加させてもらった……というわけです。
――格ゲー界と関わるようになって、周囲の印象はどう変化しましたか?
【ミートたけし】最初は「誰だこいつ」という目線だったと思いますが、それがちょっとずつ変わってきたのはウメハラ(梅原大吾)さんと関わるようになってからですね。ウメハラさんと共演することでだいぶ風当たりが緩やかになりました。“ただキレてるだけのおじさんじゃない”とわかってもらえてよかったです(笑)。
ウメハラさんは何が起きても左右されないブランディングに成功している
――ウメハラさんと意気投合したきっかけやタイミングを教えていただけますか?
【ミートたけし】もともとはゲームと音楽という別の業界ですが、お互いにモノの考え方などで似ているところが多くて。話しているうちに自然と距離が近くなっていった気がします。
――距離が近くなった理由について具体的にお聞きしたいです。
【ミートたけし】たとえばウメハラさんの場合、「EVO(Evolution Championship Series)」などの国際的な大会に出場したとして、そこで勝っても負けても、ウメハラさんの存在価値は変わらないところまで来ていると思います。殿堂入りとでもいいますか、何が起きても左右されないくらいブランディングに成功していて。それはすごいことですが、逆にいうと、その状態でモチベーションを保つのはたいへんだと思います。
――何をやっても評価が変動しないというのは、モチベーションの維持が難しそうです。
【ミートたけし】たいへんありがたいことですが、僕も音楽の分野ではやりたい仕事だけをやらせてもらっていて。なんとなく一生、このままのスタイルでやっていけそうだな……という感覚があるので、そういった“幸せであるがゆえの孤独”みたいなところは、通じる部分があるのではないかと思っています。
VTuberやストリーマーにも負けない“人間としての魅力”が必要
――2023年、格ゲー界が盛り上がった要因は何だと思われますか?
【ミートたけし】やはり「ストリートファイター6」がリリースされ、格ゲーをプレイする層が大きく変わったことですね。VTuberや有名ストリーマーが続々と参入してくれたことにつきると思います。
――「スト6」といえば、“モダン操作”が画期的で、初心者のVTuberやストリーマーが気軽に参入しているように見えます。
【ミートたけし】そうですね。モダン操作がもたらした功績は大きいと思います。それともう1点、システム面に加えて、演出面が大幅に強化されたことも注目するべきポイントだと思います。エフェクトがポップになったことで、細かいルールはわからなくても、見ているだけで楽しめるようになったのは大きいですね。ドライブインパクト発動時のグラフィティアート風のエフェクトなど、流行を取り入れた演出はどれもかっこよくて、それらも現状の人気につながっていると思います。
――今後は “格ゲー村”からの脱却が課題になると思います。格ゲー界を大きくしていくために必要なこととは?
【ミートたけし】格ゲー界の尽力だけでは今の「スト6」の盛り上がりはなかったと思います。今まで格ゲーをやったことがないVTuberやストリーマーが参入してくれて、そのフォロワーの方たちが盛り上げてくれたから……ということを忘れてはいけないし、今後はそういった人たちがプロゲーマーのファンにもなってくれるように誘導していくことが、“格ゲー村を大きくする”うえで重要な鍵になると思います。プロゲーマーはゲームが上手いことが当たり前。そのうえで、今後はVTuberやストリーマーにも負けないくらいの“人間としての魅力”も身に付けないと、この世界で活動していくのは難しいと思います。
――プロゲーマーはどのような活動をすればいいのか、具体例はありますか?
【ミートたけし】パーソナルな情報を発信するなど、ゲームの強さだけじゃない部分にフォーカスしていくことが大事だと思います。実際にそうした活動をしている中身もおもしろい格ゲーマーは配信をしても数字が好調で、VTuberやストリーマーのファンからも応援されています。技術はあるのになかなかファン層が広がらない……と燻っている人には、そういった格ゲーマーの配信を見て研究してほしいですね。もちろんプロゲーマーなので、ゲームの技術を磨くことは疎かにできませんが、そうしたトレーニングと自身の魅力をアピールしていく活動は両立できるので、あきらめずに頑張り続けてほしいです。
「プロゲーマーが格ゲーに全力を注げる環境」を整えたい
――格ゲー界を盛り上げるために、ご自身にはどんな役割が課せられているとお考えですか?
【ミートたけし】「ストV」の頃は、自分の活動で業界を盛り上げていくんだと息巻いていましたが、「スト6」は現時点で前作を圧倒的に上回る広がりを見せています。いまさら自分が最前線に立たなくても……というのが正直な気持ちです。せっかくプロゲーマーの方たちとも仲良くなれたので、今後は格ゲー以外のところで彼らを支えるといいますか。息抜きができる場所を提供するなどして、「プロゲーマーが格ゲーに全力を注げる環境」を整えることが、自分に与えられた役割だと考えています。
――2024年の「スト6」に期待することは?
【ミートたけし】今は最盛期といっていい状況ですが、この盛り上がりは2024年でいったん落ち着くと思うので、そこからどう展開していくかを冷静に見極めたいですね。こういうムーブメントは落ち着いてからが本番といいますか、そこからどうやって長期スパンで人気を継続させるかが重要なので、カプコンさんの動きはもちろん、格ゲー界がどのような展開を見せるのか……という点にも注目しています。
――最後に、ご自身の“2024年の抱負”を教えてください。
【ミートたけし】アンチを減らすこと(笑)。それと、「プロゲーマーや格ゲーの魅力」を世の中に伝える活動に取り組みたいと思います。
文=ソムタム田井