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人気格闘ゲーム「ストリートファイター6」には、プレイヤーの実力に応じて8つのランクとリーグが設定されている。最上位のランクにあたるのが「マスター」だ。戦い続けた先にある一つの到達点だが、そこはプロゲーマーや超ベテランもひしめき合うまさに修羅場。マスターになったはいいものの、マスター同士ではどうしても勝てない層が生まれてしまうのだ。
そんな“勝てないプレイヤー”にスポットを当てた大会、その名も「最下層カップ」が2024年7月7日に開催された。同イベントは人気配信者の修行僧さんが主催し、司会にはVTuberの猫海ゆず季さんが登場。eスポーツチーム・広島TEAM iXA所属のACQUAさん、じゃじいさんという2人のプロゲーマーによる解説付きで“最下層”16人がしのぎを削った。
普段は日の目を見ないプレイヤー同士の戦いながら、生配信の同時接続は3500人超、大会動画の再生数は5.5万回(2024年7月19日現在)を超え、格ゲーファンの注目を集めた同イベント。主催した修行僧さんに、大会を通しての感想や発見、今後の展望について話を聞いた。
熱い試合にレートは関係ない。真剣勝負ってどのレート帯でも面白い
――初開催の「最下層カップ」を終えて、率直な感想は?
【修行僧】いやー、スッキリしました。ほんまに何度も言いますけど、告知したときは大会について何も決まっていなかったので(苦笑)。最初は僕とアシスタントの2人だけの予定で「どうしよう、どうしよう…」ってところから、告知から二週間ぐらいの間に、日を追うごとにいろんな人が協力してくれるという話になって。そこから、ようやく形になっていきましたから。
――司会をされたVTuber・猫海ゆず季さんの落ち着いた進行も印象的でした。
【修行僧】「最下層カップ」と言っても真剣勝負ですから。ACQUAさん、じゃじいさんのようにストリートファイター界隈で認知されている実力者やったらまだしも、僕やVTuberの方が試合中に声援を飛ばしたら逆にマイナスになるかもしれへんから、そういうとこ気つけた方がいいやろなってゆず季さんと2人で打ち合わせてしてたんです。なので、ゆず季さんもバランスのよい司会をやってくれたなと思います。
――大会運営のなかで感じたことがあれば教えてください。
【修行僧】今回参加してくれた16人が全員時間通りに来て、ルールを守って、“ちゃんと勝とう”としてくれていたんですよ。
――大会中、参加者は“ウケ狙い”みたいな動きをすることもなく、真剣勝負そのものでした。
【修行僧】もう「ほんまに勝ちたい」っていうのが画面から全部に伝わってきて、僕が想像していたよりも激しく、熱い試合が多かったんです。多分、ACQUAさんもじゃじいさんもそうだと思うんですけど、そういうのを見ていると自然に応援してしまうというか。
――修行僧さんが各選手のプロフィールをすごく丁寧に説明されていて、プレイヤーのキャラが掘り下げられていて楽しかったです。それもあって、どの選手も応援したくなりました。
【修行僧】大会を見ている人にとっては、いきなり知らん人同士戦いになるよりは、「マスターリーグでのドラマ」みたいなものを掘り下げた方が面白いかなっていうのは事前に思いついたんで、ああいうプロフィール表も作ってみたりして。それも大会の4日前ぐらいの話なんで、ほんまに全部行き当たりばったりでしたけど(笑)。
――選手それぞれが持つストーリー、ドラマが観戦者を惹きつける要素の一つだなと感じました。
【修行僧】今回やってみて一番思ったのは、「熱い試合にレートは関係ない。真剣勝負ってどのレート帯でも面白い」ということで。ストリートファイターで注目される人って、プロとかストリーマーとか、ゲームの上手い人ばっかりやと思うんですけど。そういう人たちだけじゃなくて、“誰も見てないところ(=マスターリーグの最下層)”で熱い試合してる人らもおるんや、っていうのが今回わかりました。配信中は同時接続が3000人後半ぐらいまでは行って、参加者にスポットライトを当てられたと思いますし、勝った人、負けた人それぞれに「おめでとう」と言えたのはよかったですね。
「より長く深く戦っているプレイヤー」に焦点を当てた独自性
――ドラマが際立ったのは、最下層カップのユニークなコンセプトによるところも大きかったと思います。「より長く深く戦っているプレイヤー」「勝率が5割を下回っても辞めなかったプレイヤー」を集めるという“独自性”はエンタメとして極上でした!
【修行僧】みんな、やっぱりストリートファイターが好きなんやなって思いました。大会が終わったあと、参加者用に作ったディスコード内の雑談スレッドに選手と関係者で20人くらいオンラインで入ってたんですけど、そこで「よかったらこのあと対戦しませんか」って提案があって。日曜の夜ですよ?もう真夜中。みんなでボイスチャットを繋いで、カスタムルームで対戦会みたいなことをずっとしていて。だから本当に勝ち負けとかじゃなくて、純粋にゲームを楽しんでるっていうのかな。そういうメンバーが集まったから盛り上がったとも思います。
――「最下層カップ」の動画はYouTubeで5.5万回再生、好評価も多いです。
【修行僧】X(旧Twitter)でダイジェスト動画も上げたんですけど、それもだいぶリポストされてるみたいでよかったです。
――運営の部分で一番大変だった点はどこですか?
【修行僧】まず、自分が行き当たりばったりな性格なので、大会の告知をノープランな状態でしてしまったのはしんどかったですね(苦笑)。
――ということは直前までドタバタしていた感じですか?
【修行僧】大会前は解説のACQUAさんとじゃじいさんと、どうやって解説するか「難しいな」とは言っていたんですよ。真剣にやっている人を茶化すわけにもいかんし、かといって視聴者目線で面白いプレイが出たときに、無言というわけにもいかんし…。でも、本当にちょうどいい塩梅で解説してもらえて、誰も傷つくことなく、楽しい大会ができたのでお二人には感謝しかありません。
僕もゆず季さんもそうですけど、大会運営に慣れていないなかで、周囲の期待がすごく大きくなっていたから、「誰が見ても大会って思えるような感じ」「見ていて面白いようにするには」というのをずっと手探りで考えてましたね。その流れで、参加者一人ひとりを掘り下げることにして、Actごとのポイントを紹介したり、僕が調べたプロフィールを試合前に解説することにしました。
――ちなみに、終わった今だから言える裏話はありますか?
【修行僧】参加者にプレゼントしたGRAPHTの「スト6」デスクマットなんですが、「16人参加するトーナメント用に15個買うねん」って奥さんに話したら、「それやったら16個買ったりよ」って言われて。なので、最終的に決勝戦で負けてしまったここいちさんも含めた全員に送ることになりました。
「大会に出づらいプレイヤー」にも開かれた最下層カップ
――最下層カップの反響で、修行僧さんもにわかに忙しくなられているそうですね。
【修行僧】僕もちょっとびっくりしているんですが、いろんな大会やイベントから「来てください」みたいな声がかかるようになって。「日にちがあえばいきます」って感じでお答えしていて、ほんまにタイミングがあったらいきたいなと。
――今後も最下層カップの主催は続けていくのでしょうか。
【修行僧】1回目の「最下層カップ」が何事もなく成功して。今のところ、いい意見の方が多いと思うんで続けていきたいですね。たとえばActが切り替わるタイミングで、“最下層”という「誰も見てないところで戦ってる人たち」にスポットを当て続けたいなって思います。まだ見ぬ“最下層の猛者”もいてるというか、今回参加しなかった方でも「日にちがあえば俺も出たかった」って声も聞いているので。それを含めて「こんな大会あったんだ、出てみたいな」って人が絶対いるはずです。
――3カ月ごとに、“マスターリーグ最下層”の猛者たちが主役になれる大会が開催されるというのは素敵ですね。
【修行僧】そっちの方が夢があるというか。僕もそうだったんですが、1200ぐらいのレート帯だと、例えばBeast Cup(※プロゲーマー・ウメハラ(梅原大吾)さんが主催する格ゲー大会)のようなガチの大会は出づらいんですよね。今回の参加者にも「初めて大会に出ました」っていう人もめっちゃおったみたいですし。「大会で緊張する」「頭が真っ白になる」体験って、格ゲーの魅力の一つだと思うので、そういう経験ができる場になったらすごくよいと思います。
――マスターリーグで負け込んでいても「最下層カップに出られる」っていうのは「スト6」をやり続けるモチベーションになると思います。
【修行僧】レートが上の人がいてるってことは、下の人も当然いて、マスターリーグは一つの塊だと思ってます。そうじゃないとマスターレートって成り立たないと思うんで。やっぱりストリーマーとかプロとか、ゲームが上手な人ばかりが注目されてますけど、「最下層カップ」を通じて、そうではない人たちにも楽しんでもらえたら本当にうれしいですね。
【動画】「最下層カップ」切り抜き
取材協力:修行僧(@omoiyari_)