シリーズ累計5800万本のセールスを記録する、大ヒット3D対戦格闘ゲーム『鉄拳』。その生誕30周年を記念したイベント「超・鉄拳祭」が、2024年12月7日(土)・8日(日)の2日間、ベルサール渋谷ファースト(東京都渋谷区東1-2-20)にて開催される。同会場では、シリーズ最新作『鉄拳8』の公式世界大会「TEKKEN World Tour 2024 Global Finals」(以下、鉄拳ワールドツアー2024)も実施され、どちらも盛り上がること必至。
そんな「鉄拳ワールドツアー2024」と「超・鉄拳祭」の見どころを、鉄拳プロジェクト エグゼグティブプロデューサー/ディレクターの原田勝弘さんに直撃。『鉄拳8』が世界中で大ヒットしている理由なども聞いた。
「鉄拳ワールドツアー2024」「超・鉄拳祭」の注目ポイントは?
――「鉄拳ワールドツアー2024」と「超・鉄拳祭」という二つのイベントについて、その関係性を教えていただけますか?
【原田勝弘】そこ、わかりにくいですよね(汗)。プレイヤーの皆さんからもよく聞かれるのですが、立て付けとしては、『鉄拳』30周年の記念イベントとして「超・鉄拳祭」を12月7日・8日に開催。そのなかで「鉄拳ワールドツアー」グローバルファイナルの最終予選~決勝トーナメントを行う形になっています。ですので、“両イベントを併催”という形でプロモーションをしています。
――「鉄拳ワールドツアー2024」は過去最大規模の大会と言われていますが、特に注目してほしいポイントや、視聴者に楽しんでほしい部分はどこでしょう?
【原田勝弘】まずは「鉄拳ワールドツアー」として、シリーズ史上初の日本開催であること。熱い対戦を生で見られるところが一つの注目ポイントかなと思っています。『鉄拳8』としても、初の世界王者がこの大会で決まるので、そちらも見逃せないポイントですね。(『鉄拳8』は2024年1月26日発売)
ちなみに今、『鉄拳』の競技シーンではパキスタンと韓国がかなり強くて、2強と言われているんですけど、そこに日本やヨーロッパ、アメリカの選手がどう食らいついていくか……というのも見どころですね。今回はリージョン(国・地域)ごとに大会を行い、代表を選出しているので、選手の顔ぶれもかなり国際色豊かでおもしろいですよ。
――選手の選考基準が変わったということですか?
【原田勝弘】これまでは純粋に、実力のみを見て代表を選出し、そのメンバーで決勝トーナメントを行う流れでしたが、今回はちょっと趣向を変えて、ワールドワイドにいろんな大会から優勝者が集まれるようにしているんです。マダガスカルやコートジボワールなど、他のeスポーツのタイトルでは聞きなじみのない国の選手たちも出場が決まっていて。彼らのプレイスタイルが見られるのも、今回の大会の見どころかなと思っています。
――続けて「超・鉄拳祭」の注目ポイントや、参加者に楽しんでほしい部分を教えてください。
【原田勝弘】こちらは『鉄拳』30周年の記念のお祭りなので、『鉄拳』をガチでプレイされている方以外にも楽しんでもらいたいなと思って設計しています。ゲームはうまくないけどキャラクターは好き……という方でも、グッズの購入やフォトスポットでの撮影など、楽しんでいただけるコンテンツを多数用意していますので、ぜひ遊びに来てください。
そのほかにも、歴代のナンバリングタイトルがプレイできる試遊コーナーや、来場者同士の勝ち抜き戦、さらにはゲストをお招きしてのトークイベントなど、サブステージも充実しています。さらにカフェ「パンとエスプレッソとまちあわせ」(渋谷区神宮前6-20-10)では、大会とコラボした「TEKKEN WORLD TOUR 2024 POP UP PIZZA STAND」という企画も展開中ですので、国内で実施する『鉄拳』のイベントとしては、過去最大の規模になっています。
――グローバルファイナル開催に向けて、プロデューサーとして一番苦労された点は何ですか?また、成功させるために工夫された点なども併せてお聞きしたいです。
【原田勝弘】こちらに関しては、国内外のプロダクションメンバー、いわゆる営業部署のスタッフやマーケター、eスポーツ担当のスタッフたちが奔走してくれました。なので僕個人としては、そこまで今回は苦労していなくて。しいて言うなら、これまでいろんな大会やイベントを実施してきて。そこで築いた関係値やコミュニティとのつながりが形になったのが、今回の「鉄拳ワールドツアー2024」だなと思っています。
――具体的に言いますと?
【原田勝弘】僕がプロデューサーとして一番力を入れて取り組んできたのは、各国のコミュニティをしっかりグリップする(関係性を築く)こと。つまり、大会やイベントを開きたいという相談を受けたら、しっかりサポートしてあげることなんです。それこそ、「大会を開きたいのでアーケード筐体を貸してもらえないか?」と頼まれたら、無償で50台ほど用意して、手配したりもしました。
そうした活動を通して、国内外のさまざまなコミュニティと強いつながりを構築していたので、いざ「ワールドツアーを開催する」となっても、一から準備することは特になくて。各国のコミュニティに協力してもらい、スムーズに展開することができました。
“ファイトラウンジ”をはじめ、多数の新要素はいずれも大好評
――『鉄拳8』はシリーズ最新作として世界的にも人気ですが、これまでのシリーズ作と比べて特に進化した点や挑戦した点を教えてください。
【原田勝弘】長くシリーズが続くと、当たり前なんですけど、「ずっと遊んでくれている人のほうが上手いし、強い」というふうになりますよね。『鉄拳8』では、そこを壊すことに挑戦していて。
対戦格闘ゲームって実は、最初に防御のテクニックを覚えたほうが強くなれるんですよ。ただそれだと、新規プレイヤーからしたらつまらないだろうなと思って。やっぱり、攻撃ボタンをガチャガチャ押しまくって、攻めて攻めて勝利する……という遊び方ができたほうが、ゲームそのものを好きになってもらえるんですよ。なので本作は、攻撃的なプレイスタイルを推奨する形にゲーム性に大きく変更したんです。
これはかなりの挑戦でしたね。なぜかというと、今までずっと遊んできてくれた方や、トッププレイヤーのスタイルと真逆の遊び方を推奨するわけですから。当然、さまざまなご意見をいただきましたが、逆に言うとそれは、ベテラン勢にとっては新しいキャラクターを使ったり、新しい戦い方を覚えたりと、新鮮なプレイ感覚を楽しんでもらえるチャンスでもあるわけです。
新規プレイヤーにとっては遊びやすく、ベテラン勢にとっては新たな遊び方を模索できる機会になる……。ゲームバランスの大幅な調整はチャレンジングでしたが、結果的に多くの方から受け入れていただけたので、やってよかったと思っています。
ほかにも、シリーズで初めて、アーケード先行ではなく“家庭用のタイトル”としてリリースした点も、『鉄拳8』ならではの特徴の一つですね。家庭用のみということで、従来のアーケードの対戦部分以上にユーザーを引き付ける要素を導入する必要があって。ストーリーモードや練習モード、そのほかのおまけ要素も充実させて、満足度を高めることに腐心しました。
――そのなかでも特に、新規プレイヤーを取り込むうえで効果的だった要素はありますか?
【原田勝弘】どれか一つをピックアップして紹介するなら、やはり“ファイトラウンジ”の導入が大きいですね。ゲーム内にバーチャルなゲームセンターを作り出して、プレイヤーが集まれる場所として提供させていただきました。
ユーザーの皆さんにはアバターを作成して、ラウンジに入ってもらって。そこでは友だちとの交流はもちろん、世界中のプレイヤーとのオンライン対戦ができるし、上級者に戦い方を教えてもらう練習の場としても活用できる。さらには“対戦格闘”以外の遊びができる空間もあったりして、こちらも好評を博しています。
独創的なキャラクターの創作&ファンコミュニティの形成に注力
――長年にわたり、『鉄拳』シリーズが愛され続ける理由は何だと思われますか?また、それを維持するために意識していることはありますか?
【原田勝弘】多くの方に支持していただいている理由は二点あると思っていて。まず一つは、ゲームにおいてはキャラクターが“プレイヤーの興味”を引くうえで必須の要素になるので、“愛されるキャラクターを作る”というのはとても重要な取り組みだと思っています。
この“愛される”というのは、かわいらしいとか、カッコいいとかだけじゃなくて。めちゃくちゃ邪悪で悪いやつとかでもいいんですけど、たくさんのキャラクターが出てくるゲームの場合、不思議なことに人気は一点に集中せず、好きなキャラって必ずわかれるんですよ。
対戦格闘ゲームの場合、その性質上、強いキャラに人気が集中しそうですけど、『鉄拳』シリーズでは国や地域によって、キャラの使用率がけっこう変わるんです。
パッと見たとき、日本では「こんなやつ、誰が使うの?」といわれそうなキャラでも、国や地域が違えば、それがめちゃくちゃ刺さることがある。どういった要素を掛け合わせて、どんな風に仕上げれば、その国、その地域で愛されるキャラになるか?そこを見極めてキャラクターをデザインする……ということには、毎回こだわっています。
――たしかに、『鉄拳』シリーズのキャラクターは非常に国際色豊かですよね。自国や自地域出身のキャラを使いたいというファンの心理もよくわかります。
【原田勝弘】そして、もうひとつのポイントは、“ファンコミュニティを大切にすること”になります。作り手側が何と言おうと、『鉄拳』というフランチャイズを支えてくれるのは、本作を愛して遊んでくださるファンの皆さんですから。こちらから一方的に情報を発信するだけでなく、ファンの方々と直接お会いして、ご意見をうかがったり。そうした交流が気軽にできるコミュニティを形成し、育てていくことこそ、コンテンツの人気を継続させるうえで最も重要な取り組みだと考えています。
――貴重なお話、ありがとうございます!最後に締めの質問としてお聞きしたいのですが、ずばり、原田さんが考える『鉄拳』らしさとは何ですか?
【原田勝弘】そうですねぇ。型に縛られず、おもしろいと思える要素をどんどん取り入れていく柔軟性といいますか。“固定観念にとらわれず、変化を恐れない姿勢”こそが『鉄拳』らしさだと思っています。
「ほかの要素は混ぜず、自分たちのスタイルを貫く」というのも、それはそれで一つのポリシーですが、僕らのチームは「考えをコロコロ変えるのは、決して悪いことではない」というスタンスでやっていまして。
『鉄拳8』をアーケード先行ではなく、家庭用ゲームとしてリリースしたのも、昨今の情勢と照らし合わせたうえでの“生き残るための手段”であって。今はこちらの方向に舵を切り、新たなビジネスの展開を真剣に模索しているところです。
――実際にゲームのなかで体験できる要素にも、そうした“型に縛られない精神”が感じられる部分が多々ありますね。
【原田勝弘】初期のころからクマやパンダを登場させたり、全く関係のない漫画のキャラクターを参戦させたり。前作の『鉄拳7』では、『ストリートファイター』シリーズの豪鬼や、『餓狼伝説』シリーズのギース・ハワードにもゲスト参戦してもらうなど、いろいろ型破りなことをしてきました。これらも“『鉄拳』とはこうあるべき”という考え方をしていたら、実現できなかった要素ですね。
僕は頑固一徹に見られがちなんですけど、じつはそうじゃなくて。「これとこれを組み合わせれば、もっとおもしろくなるんじゃない?」みたいな感じで、けっこう柔軟にものごとを考えられるんですよ(笑)。30年かけて築いてきたブランドのイメージですが、明日にはガラッと変わる可能性がある。それが『鉄拳』のいいところかなと思ってます。
取材・文=ソムタム田井