女性の健康課題の経済損失は3.4兆円!!「生理」は“隠すもの”“我慢するもの”じゃない!女性が抱えている問題とは?

2024年9月27日

2024年2月に、経済産業省が「女性の健康課題の経済損失は年間約3.4兆円」という試算結果を発表した。「こんなにも!?」とその額に驚いた人も多いだろう。また、経産省のその発表のなかでは「規模が大きく、経済損失が短期で発生するため、職域での対応が期待される4項目」として、月経随伴症、更年期症状、婦人科がん、不妊治療が挙げられている。

女性の健康を取り巻く環境が変わっている!?女性の身体に起こっている変化とは?


今回は10月19日の「国際生理の日」を前に、女性の健康と長らく向き合ってきた、オムロン ヘルスケア株式会社 国内事業戦略本部 事業企画部 コミュニケーション課の石﨑恵さんに話を聞いた。

オムロン ヘルスケア株式会社 国内事業戦略本部 事業企画部 コミュニケーション課の石﨑恵さん


――貴社では1984年から婦人用電子体温計を発売されていますが、当時と比べて、現代女性の健康課題についてどういった印象をお持ちですか?

【写真】現在発売されている「婦人用電子体温計(MC-652LC)」。約10秒のスピード検温で、スマートフォンアプリによる基礎体温管理も簡単。「ルナルナ 体温ノート」や「ラルーン」との連携も可能【画像提供=オムロン ヘルスケア株式会社】


【石﨑】当社が1984年に婦人用電子体温計の初号機MC-7Lを発売した当時は、妊娠目的で「基礎体温を測る」というニーズが大きい時代でした。ですが、現代は女性が仕事を持ちながら、育児・介護で家族も支えるなど役割が多岐にわたっています。また、習いごとや趣味に費やすなど自分の時間を大切にする人も増えてきました。そんな、公私とも忙しいなかで自分の健康管理を後回しにしてしまう方も多く、現代の女性の健康課題は変わってきていると感じています。

――貴社は2011年から生理に着目した調査を行われていますが、女性の健康課題のなかでも、生理について特に問題意識を持たれていたということでしょうか?

【石﨑】昔、女性は生理は“隠すもの”“我慢するもの”として育てられてきましたが、現在も、ひとりで悩んでいる方は多いと思います。さらに現代では社会的役割が増えるなかで、たとえばいつ生理が来るかわからないほど忙しくて、急に生理が来て下着を汚してしまった、ナプキンの在庫が無くて困った…というトラブルを抱えていたり、PMS(※1)の症状が酷くて辛い思いをしている人も多くいます。

何より、生理で切り離せない問題が「生理痛」です。生理痛といっても、実は「機能性月経困難症」と「器質性月経困難症」の2つがあることをご存知でしょうか。「器質性」の場合、子宮筋腫や子宮内膜症など何らかの病気が隠れていることもあるので、自己判断で放っておかないでほしいと思います。痛みは鎮痛剤を飲めば落ち着くことが多いと思いますが、それを繰り返すようであれば異変に気づいて婦人科を受診してほしいです。

※1)PMS(月経前症候群):生理開始3~10日くらい前から起こる不快な症状で、身体的なものから精神的症状までさまざまな症状が現れる。生理が始まると症状が消えるのも特徴のひとつ。身体的症状としては、胸が張る、眠くなる、だるい、食欲が増す、便秘、肩こり、頭痛、にきび・吹き出物・肌荒れなど。精神的症状としてはイライラする、感情の起伏が激しくなる、気分が落ち込む、集中力低下、無気力感などが現れる。

――確かに、私も含め、婦人科へ行くのはハードルが高いと思っている方は多いかもしれません。

【石﨑】ちょっとした不調は、つい我慢してやり過ごしてしまう人が多いですよね。限界まで我慢して、結果「出血量が増えた」「大きな筋腫が見つかった」など悪化したという話をよく聞きます。でもそうなる前に、婦人科へ行ってほしいと思います。「婦人科に生理のことで行っていいのか」と悩まれる方もいると思いますが、産婦人科の先生方に聞くと、かかりつけとして皆ウエルカムなので、身構えなくていいとおっしゃっていました。

ちなみにヨーロッパでは、初経を迎えたらレディースクリニックに行って、そのクリニックが生涯のかかりつけになるんだとか。そして、何かあればその先生にすぐ相談するそうです。このカルチャーが、すごくいいなと思っていまして。何らかの不調があったとき、日本だと病院探しから始まりますが、かかりつけ医が生涯の健康を見守ってくれることは心強く、安心材料になるのかなとも思います。

話は戻りますが、当社は、女性特有の健康課題があるにもかかわらず後回しにされていることに対して、問題意識を持っていました。一人ひとりの大切な人生をイキイキと豊かに過ごしてほしい、もっと自分の健康を大切にしてほしい。「基礎体温測定=妊娠」ではなく、「基礎体温測定=女性の健康管理のあたりまえ」に、もっと手軽に生活習慣の一部にしたい。そういった想いのもと、2012年に今までの婦人用電子体温計にはないデザインかつ約10秒で測定できるモデルを発売し、2014年にはBluetooth通信機能を搭載し、スマートフォンアプリでデータ管理をすることで基礎体温測定を無理なく続けられる商品を開発・発売しました。

――2011年の10年後の2021年にも同様に生理についての調査を行われていますが、「10年前に比べて生理に関する情報を入手しやすくなった」と答えた人の割合が87パーセントと高かったそうですね。その理由にはどういった背景があるとお考えですか?

【石﨑】大きく、3つの理由があると思います。ひとつ目は、インターネットやSNSなど情報入手経路と量が増えたことだと思います。ちなみに当社の女性向け情報サイト「オムロン式美人」でも月経・妊娠出産・更年期・ライフスタイルに関する情報を発信しているのですが、特に月経についての情報は、アクセス数が多い傾向があります。

女性の美と健康をサポートする情報サイト「オムロン式美人」では、生理や更年期などさまざまな情報を得ることができる


2つ目は、メディアの影響です。地上波で生理の話題を取り上げるテレビ番組が登場したり、著名人からの発信が増えたことなどが大きいかなと感じています。

3つ目は、「健康経営」(※2)の推進も影響しているのではと考えています。この取り組みが始まってから、女性特有の健康課題に着目し、従業員の働きやすさや活躍推進のための研修を実施する企業が増加しています。これにより、企業を中心とした社会全体で女性の健康に関する知識を得ようという流れになっていると思います。

※2)経済産業省のウェブサイトによると、「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。 2014年度から上場企業を対象に「健康経営銘柄」を選定。また、2016年度からは「健康経営優良法人認定制度」を推進している。

――一方、同じ2021年の調査では「同性の友人や職場の同僚に理解をしてもらいたい」73.3パーセント、「異性に理解をしてもらいたい」87.7パーセントという結果もあり、生理の情報は得られやすくなったものの、周囲の理解はまだまだ…という印象を受けました。このギャップについてはどう捉えられていますか?

【石﨑】現在の社会人は、小中学校で女子だけ生理に関する教育を受けていた方が多く、そういった状況から男性の生理への理解が進んでいない面もあると思います。さらに、昔と現代では、女性の健康は大きく異なっています。たとえば、現在は出産回数の減少により月経の回数がかつての女性の9~10倍にも増え、婦人科疾患が増加傾向にあると言われています。また、冒頭でお話した「PMSの症状が酷い」というのも、月経回数増加の影響があると言われています。

現代女性は月経回数が増えていることで弊害も【引用元:オムロン式美人「働く女性のセルフケアメソッド」より抜粋】


女性の健康を取り巻く環境が変わっていることについて、弊社では、中高生向けに公益財団法人 日本学校保健会様にご協力いただき、副教材を作成しています。また思春期の健康教育推進プロジェクト「かがやきスクール(株式会社プラスエム主催)」にも参画(副教材を提供)して、男女問わず若い世代からのヘルスリテラシー向上に向けた取り組みも行っています。

公益財団法人 日本学校保健会の協力のもとオムロン ヘルスケアが中高生向けに制作している副教材「未来はカラダからだ!」【画像提供=オムロン ヘルスケア株式会社】


また、先ほどお話ししたように、健康経営が推進されていることにより、企業として女性従業員の働きやすさにつながるよう、女性特有の健康課題を理解する機会は増えていると感じています。実際、私どもがサポートしている講習会などでも、女性だけでなく、男性やマネジメント層へ話をする機会が増加しています。今後も、大人と子どもの両輪で日本のヘルスリテラシーを底上げしたいと考えています。

――2021年の調査でもうひとつ興味深いのが、「普段の体調管理」を目的に基礎体温を測定している人は2011年に40パーセントだったのが、2021年には62パーセントにアップしている点です。基礎体温を測るメリットを教えてください。

2011年と比較して、2021年の調査では「普段の体調管理のため」婦人体温計を使用している人は22パーセントも増加【画像提供=オムロン ヘルスケア株式会社】


【石﨑】健康管理として基礎体温を測ることで、たとえば生理日を予測できれば事前準備もできるし、体調が悪いときやよいときをわかっておくことで「より生きやすくなる」と思います。基礎体温を測るメリットは主に次のようなものです。

●ホルモンバランスの状態がわかる
●自分の身体と向き合える(自分を俯瞰してみることができる、健康に関心を持つ)
●生理のタイミングがわかる(事前準備ができる)
●スケジュールを立てやすい(旅行やイベントなどの時期が、体調が良いときなのか悪いときなのかが事前に把握できる)
●美容やダイエットに向いている時期がわかる
●将来の妊娠にむけて排卵の有無がわかる
●更年期の身体の変化(生理が短くなったり、乱れなど)をいち早くキャッチできる

――基礎体温は毎日測ることで自分の体調がわかってくると思いますが、「続ける」ことはけっこう難しくて断念してしまう人もいると思います。続けるコツはありますか?

【石﨑】まずは頑張って1カ月測ってみると傾向に気づき、自分の健康管理がしやすくなることを実感できると思います。習慣化については、短時間で測れてアプリと連携できる基礎体温計を使ったり、基礎体温のアラーム機能を活用したり、体調をメモする…などが有効だと考えています。特に、体調についてメモすることは、どういうときに体調が悪くなるのか、辛いときに痛み止めをどのくらい飲んだのかなどを把握できます。また、温活したら痛みが変わってきた…など、どんなことをしたらどうなったのかということも書き込むことで、自分に合ったよい対処法が見つかると思います。

「オムロン式美人」の監修をしていただいている対馬ルリ子先生(産婦人科医師、医学博士)がいつもおっしゃっているのですが、ときどき測ってない日があってもOKで、傾向がつかめれば大丈夫なのだそうです。1日測り忘れたらもう諦めてしまう完璧主義な女性が多いそうですが、気軽な気持ちでやるのもコツかもしれませんね。

――2023年にオムロン株式会社、株式会社LIFEM、株式会社ワコール3社で実施した調査結果も興味深く拝見しました。女性155名に、提供した商品・サービスを通じたセルフケア(基礎体温の計測等)を実践してもらった結果、プレゼンティーズム(※3)が3パーセント改善したそうですね。
※3)プレゼンティーズム:出社しているものの、何らかの健康問題によって業務効率が落ちている状況

2023年に調査した「プレゼンティーズムの変化」【画像提供=オムロン株式会社】


【石﨑】この調査では、女性の健康セミナーやセルフケア方法の情報提供により、全体の80パーセントが「日々の健康管理に対する気持ちが高まった」という結果も出ました。調査を通して、情報提供により自分の身体の状態を気づくきっかけとなり、基礎体温を測ることで健康のために何をしたらいいかという意識が変わってきたという傾向が見られて。それは、このプレゼンティーズムの改善にもつながっていると思います。

――企業だけが取り組みを推進するだけでなく、個人でもパフォーマンスを上げるためにできることがある、ということなんですね。

【石﨑】そうですね、企業は情報やきっかけ(制度や適切な声かけなど)を与えることが大事だと思うんです。それを受けて、あとは個人がどうするかですよね。

今回の取材では、日々基礎体温を測ることで「より生きやすくなる」という石﨑さんの言葉が印象的だった。ヘルスリテラシーを向上させ、自分の身体にもっと興味を向けていくことがQOLを上げるだけでなく、日々のパフォーマンスを上げることにもつながってくるはずだ。女性の健康について、「日本のヘルスリテラシーの底上げ」が“年間約3.4兆円の経済損失”を埋める原動力になりそうだ。

※2021年の「生理と健康」に関する調査詳細については、オムロン ヘルスケア株式会社公式サイトのニュースリリース(2021年10月12日)『5人に3人が「生理について話しやすい環境(時代)になった」と実感~10年前と現在で変化した「生理と健康」に関する実態調査~』を参照ください。

※2023年にオムロン株式会社・株式会社LIFEM・株式会社ワコールで実施した調査詳細については、オムロン株式会社公式サイトのニュースリリース(2024年5月22日)「基礎体温測定とセルフチェックで働く女性の健康意識が向上~基礎体温データと法人向けフェムテックサービスによる実証実験結果~」を参照ください。

※本記事はオムロン ヘルスケア株式会社にご協力いただき「オムロン式美人」内掲載情報を参考に執筆しています。「オムロン式美人」は産婦人科医など専門家の監修を受け制作されています。

取材・文=矢野 凪紗

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