皆さんは、「健康日本21」をご存知だろうか。厚生労働省が呼びかけている、21世紀において国民一人ひとりの健康を実現するための、新しい考え方による健康づくり運動だ。今年2024年4月から始まった「健康日本21(第三次)」では、健康寿命を延ばすことをスローガンに掲げ、さまざまな食べ物の目標値などが設定されている。そのなかでも今回編集部が注目したのは、「果物の1日の摂取目標が200グラム」という点だ。
ただでさえ果物の消費量は年々減少していると言われているなかで、1日200グラムって…!毎日200グラムも食べきれるの?毎日食べていたら飽きそう…。今回はそんな疑問や不安を「認定栄養ケア・ステーション食サポ」の代表で管理栄養士の西山愛さんにぶつけてみた。
いろいろな果物をバランスよく摂ろう
――まず素朴な疑問として、果物には栄養があるのはわかるのですが…200グラムってちょっと多いような気がしますが、どうなのでしょうか?
【西山】果物に含まれている主な栄養素であるビタミンや食物繊維などをしっかり摂取しようと思ったら、200グラムくらいは必要だと思います。ビタミンにもいろいろな種類がありますが、果物に入っているものには抗酸化作用が期待できるものも多いです。また、食物繊維には水溶性と不溶性がありますが、果物にはどちらも含まれているものが多いというのも特徴です。食物繊維は、血糖値の上昇を緩やかにしたり、腸内環境を整えてくれる役割も果たすと言われています。
――なるほど、やはり200グラムは摂取したほうがいいのですね!となると、旬なものが比較的安く手に入りやすいと思うのですが、これからの時季(秋)の旬の果物には、どういったものがありますか?
【西山】主なところを挙げますと、梨や柿、ぶどう、りんご、いちじく、みかんなどが秋の旬の果物です。外国産のキウイは年中見かけると思いますが、実は日本産のキウイは秋後半からが旬なんです。意外かもしれませんが、秋が旬の栗も、木になるなどの条件から「果物」に分類されています。
――推奨されている「果物1日200グラム摂取」について、面倒くさがりな私は毎回200グラムを量るのは大変だなと思ってしまいます…。「このくらいが目安」というのがあれば教えてください。
【西山】よく、「果物何個分」などと表したりしますが、そういうのを考えるのが面倒な方は、片手の手のひらに載るくらいの量を目安にするとよいでしょう。小さめの梨や冬柿なら1個くらいでしょうか。通年手に入るものとしては、キウイなら2個、バナナなら1本半~2本くらいが目安になると思います。
――確かに、柿1個やキウイ2個と考えるとわかりやすいし、そんなに量もないように感じます!果物は、1日のうちでいつ食べるのがおすすめですか?
【西山】200グラムを一度に全部食べるなら、1日の始まりである朝がおすすめです。消化吸収の面でもエネルギー効率の面でも、朝がベストだと思います。あまり活動しない時間帯や寝る前に摂ってしまうと、糖分が脂肪になりやすいので、できるだけ避けたほうがいいでしょう。血糖値が気になったり、一度に食べきれないという方は、もちろん分けて食べていただいても大丈夫です。
――小分けに食べる場合は、いつ食べるのがよいのでしょうか?
【西山】小分けにするなら、朝と昼に食べるのがベストです。秋ならぶどうやみかん、ほかにもバナナなどは、カットする手間もかからずそのまま食べられるので、お弁当と一緒に持って行って昼食時に食べる…というのも手軽でおすすめです。
――200グラムを摂るのは、1種類の果物じゃないほうがいいでしょうか?
【西山】そうですね、できれば何種類かを組み合わせるほうがいいと思います。それぞれ含まれている栄養素が違いますし、1種類に偏ってしまうと、例えばバナナなどは糖質が高めなので、バナナだけで200グラムは糖質がちょっと多すぎるかなと思います。通常の食事と同じように、バランスよくいろいろ食べるのがおすすめです。
――バナナは糖質が高めということですが、甘味が強い果物は全般的に「糖質が高い」のでしょうか?
【西山】果物には、ショ糖・ブドウ糖・果糖の3種類の糖質が含まれており、果物によって糖質の組成は異なります。果物はショ糖・ブドウ糖・果糖のどれが多いかで甘味が変わってきますし、甘く感じるからといって一概に「糖質が高い」とも言えないんです。
――なるほど!参考までに糖質が少なめな果物も教えてください。
【西山】みかんやキウイ、これから出てくるいちごなどは少なめです。
――栄養価が高まる食べ方って、ありますか?
【西山】やはり、皮まで食べていただくほうがより栄養を摂取できると思います。りんごは皮ごと食べる方も多いと思いますが、キウイも皮ごと食べるのがおすすめです!キウイの皮にはトゲトゲした毛のようなものがありますが、アルミホイルでこするとそれが取れるので、ぜひ皮ごと食べていただきたいです!キウイの皮には食物繊維が多く含まれているので。もし皮を剥く場合は、なるべく薄く剝くようにすると、皮に近い部分の栄養をより残せると思います。
――果物自体の栄養価が高いもの…というのはあるのでしょうか?
栄養素の種類が多く含まれているのは、キウイやいちご、バナナや柿などです。なので、「栄養が不足しているかも」というときは、これらの果物を積極的に摂るといいかもしれませんね。
――よりおいしくなる、おすすめの食べ方はありますか?
果物によっては、冷やすと甘味が増すものがあります。例えば、ぶどうなどは凍らせて半解凍で食べてもおいしいですし、りんご、梨、キウイなども冷蔵庫で冷やすとよりおいしく食べられます。
そのまま食べるのに飽きたら!料理に取り入れるのも手
ここまで話を聞いてきたが、「毎日食べていたら飽きてしまうのでは…?」という懸念も拭いきれない。「秋の果物だと、りんごや柿、梨などは料理にも取り入れやすいのでおすすめです」と西山さん。「柿なら、生のまま大根と酢の物にしたり、塩もみしたカブやハムと一緒にサラダにしてもおいしいです。柿は、和でも洋でも比較的どんなドレッシングとも合いやすいので、人参みたいな感覚で使ってもらえれば」とのこと。
そこで今回は西山さんに、果物を使って手軽にできる副菜として「柿とほうれん草の白和え」のレシピを教えてもらった。「柿にはビタミンCが豊富に含まれていて、ビタミンCは鉄の吸収を高めてくれます。今回は鉄分の多いほうれん草、木綿豆腐、ごまを使った白和えと柿を組み合わせました。単品でもおいしい柿にいろいろな食材を組み合わせることで、栄養価の高い一品になっています」(西山さん)。
柿とほうれん草の白和え
【材料】
(4人前)
柿 1個、ほうれん草 1束、木綿豆腐 1丁(300グラム)、きび砂糖 大さじ1、すりごま 大さじ3、うすくち醤油 大さじ1
【作り方】
1.木綿豆腐をキッチンペーパーでくるみ、重しを載せてしっかりと水を切る。
2.ほうれん草を茹で、水にとって冷まし、水気を絞って3センチ程度の長さに切る。
3.柿の皮を剥き、1/4にカットにしてから、それぞれ厚めにスライスする。
4.水気を切った木綿豆腐をすり鉢ですり、なめらかにする(すり鉢が無ければ、泡だて器ですり潰す)。
5.豆腐がなめらかになったら、調味料を加えて味を調える。
6.5にほうれん草と柿を加えて和える。
【栄養素】(1人前)
エネルギー 152キロカロリー、タンパク質 8.3グラム、脂質 8.1グラム、炭水化物 14.5グラム、食塩相当量 0.7グラム、ビタミンC 53ミリグラム、鉄 3.0ミリグラム
「りんごや梨、柿などを生で食べる場合は、お子様やご年配の方には小さく切るよりも、薄くスライスするほうがおすすめです。小さくてもダイスカットだと、そのまま飲みこんで喉に詰まってしまうことも。スライスしたものだと(大きいので)、必ず噛まないと飲み込めませんから」というアドバイスもくれた西山さん。確かに、カットの仕方など「食べやすさ」を工夫するのも、毎日続けていくうえで大事なことかもしれない。
今回教えてもらった知識やアレンジレシピを取り入れながら、果物1日200グラム摂取を今日から始めてみよう!
※食事管理をされている方は、1日200グラム摂取を目安にせず、医師の指示に従ってください。
取材・文=矢野凪紗