山形県山形市から、北へ約13キロの場所にある天童市。温泉が湧き出るのどかな街で、近年では山形市に対するベッドタウン的な役割も果たしているというが、駅を降りてまず驚くのが、駅に掲げられた天童市のキャッチコピーに「湯のまち天童 あなたの旅に、王手」とあることだ。
筆者もこの日は旅の途中だったが、「王手」ということは「もうお前は逃れられないぞ!」「お前は負けなのだ!」ということになる。旅に勝ち負けがあるかどうかはさておき、このコピーに天童市の将棋に対する矜持を感じたことは確かである。
駅に降り立った瞬間から将棋一色の天童市。この将棋推しはどこまで続くのか、なぜここまで将棋を推しているのか。街を巡りながらその謎に迫った。
「将棋スリッパ」まで!?街のあらゆるところに将棋モチーフ
駅構内には将棋の駒の形の時計が飾ってあり、「かわいいな」なんて思いつつ駅の外に出てみたが、駅から出てもとにかく街中あふれんばかりに将棋だらけだった。地面には将棋盤を模した装飾があり、温泉やホテルを示す看板の上には巨大な将棋の駒、タクシーの行灯も将棋の駒、将棋をモチーフにした商業施設「将棋むら天童タワー」の看板ももちろん将棋の駒である。
さらに「将棋むら天童タワー」のなかに入れば、格式高い巨大な飾り駒が販売されている一方で将棋柄のスリッパなども売られていた。将棋をモチーフにした商業施設なのだから当然か…と思いつつ、次に「道の駅『天童温泉』」に行ってみてもやっぱり将棋の駒。将棋の駒型のパスタまで売られていた。もはや1泊では追いきれないくらい将棋だらけだ。
聞けば、地元では毎年春に「天童桜まつり人間将棋」という名物イベントがあるという。「人間将棋」とは戦国時代の戦に見立て、兵士などに扮した人間が将棋の駒となり、巨大な将棋盤を舞台に相手の軍と戦うもの。この様子を見学しながら、同時に桜も楽しむのが山形の春の風物詩なのだそう。
しかし、どうしてそこまで将棋推しなのか。その秘密を探るため、「天童市将棋資料館」に行ってみることにした。