リピーター続出!九州の人気観光列車4選

2019年2月28日

JAZZを耳に海沿いの絶景が楽しめる「A列車で行こう」


JR熊本駅から天草諸島の玄関口・三角駅までの36.5kmの区間を、鹿児島本線・三角線(あまくさみすみ線)経由で走行する特急「A列車で行こう」。2011年10月に運行開始、1日3往復するこの観光列車は、JAZZの名曲「A列車で行こう」にちなんで名付けられた。

黒と金色に縁取られたシックな車体が印象的な特急「A列車で行こう」


【写真を見る】車内の天井にはエンブレムが描かれている


黒と金色のシックな車体デザインが施された2両編成の客車は“16世紀に天草に伝わった南蛮文化”がテーマ。車内はクラシカルな情緒が満載で、色鮮やかなステンドグラスやマリア像の置物など、随所に温かみのある色合いのインテリアが配され、ヨーロピアンな風情を際立たせている。

マリア像の置物


車内に流れるのは、もちろんJAZZの名曲「A列車で行こう」。ゆったりとした座席シートで心地よいJAZZを耳にしながらシーサイドラインの景色を楽しむことができる。

車窓からは有明海沿岸の絶景が広がる。また、遠くには雲仙普賢岳の姿も


宇土半島北岸に位置する御輿来(おこしき)海岸


熊本駅を出発してから十数分、宇土(うと)駅を過ぎると列車は「あまくさみすみ線」へ。ほどなくすると車窓には有明海沿岸の絶景が広がりはじめる。中でも最大の見どころは、日本一の干満差で砂紋が美しい「御輿来(おこしき)海岸」だ。宇土半島北岸に位置するこの海岸はその昔、景行天皇が九州遠征の際、あまりの美しさにしばし御輿をとめて見とれたという伝説からその名が付いたとされ、「日本の渚百選」や「日本の夕日百選」にも選定。干満差が日本一で、潮が引いた海岸の砂地に風と波による美しい帯状の曲線模様が出現し、神秘的な姿を覗かせ、晴天時には有明海を挟んだ対岸の長崎県雲仙普賢岳を望むこともできる。

1号車の約半分のスペースを占めるバーカウンター。アルコールやソフトドリンク、おつまみなどを販売する


Aハイボール(デコポン)、季節限定ハイボール(各520円)を片手に車窓の景色を楽しめる。天草塩チョコレート(570円)は、ハイボールとのセット(850円)がおすすめ


また、乗車の際にマストで利用すべきなのが1号車の「A-TRAIN BAR」。まるで本当のバーのような雰囲気漂う空間で、車内にサーバーを備えるハイボールやおつまみ、天草の塩を使ったJR九州限定チョコレートなどを味わえる。カウンターで乗務員と談笑したり、フリースペースのソファに腰掛けて車窓を眺めながら優雅なひと時を過ごすのもおすすめだ。

乗ったらぜひとも手に入れたい記念乗車証


終着・三角駅までの運行時間はわずか40分ほど。座席からきれいな景色を眺め、「A-TRAIN BAR」でお酒を楽しんだらあっという間に過ぎ去ってしまうので、記念フォトや記念乗車証をGETするのも忘れないようにしたい。

「A列車で行こう」のルートMAP


人吉球磨地方のダイナミックな自然を体感!「かわせみ やませみ」


JR鹿児島本線、肥薩線を直通し、熊本─八代─人吉間の87.5kmを1日3往復する観光列車「かわせみ やませみ」。ディーゼルエンジン駆動の2両編成で2017年3月にデビューしたこの列車は、沿線を流れる渓流・球磨川に生息する2種類の鳥の名前から付けられた。

コバルトブルーの1号車「かわせみ」。深い森のように濃いグリーンの2号車「やませみ」


美しいかわせみのデザインが車両を彩る


その美しい車体は、球磨川のブルー「かわせみ」と球磨地方の森のグリーン「やませみ」をイメージ。車両デザインは、豪華寝台列車「ななつ星」やJR九州のほかの観光列車なども手掛ける水戸岡鋭治氏によるもの。球磨地方の豊かな自然の中を走る姿は、まさしく渓流に舞う「翡翠(かわせみ)」のようだ。

車内のそこかしこに「かわせみ」「やませみ」のデザインが散りばめられている


水戸岡鋭治氏デザインのかわせみの模型も展示


車内の基調色もそれぞれの外観カラーリングに呼応する形で配色。カウンターやテーブルは人吉球磨産のヒノキ材を、床にはスギ材が用いられているほか、客室内には八代産のい草を使った暖簾(のれん)が取り付けられるなど熊本の特産品を随所に配し、温もりある雰囲気を醸し出している。座席は各車両いずれもリクライニングシート、ボックスシートのほか、窓向きに設置したカウンター席を配備。「やませみ」車両には、通常の席よりも広いベンチシートが設けられている。

1号車「かわせみ」の車内には、バードウォッチングができる窓を設置


丸い車窓に双眼鏡が備え付けてあり、列車に乗りながら野鳥観察ができる1号車や展望スペースをはじめ、360度カメラで人吉球磨の自然を疑似体感できるVR体験コーナー(平日3~6号、土・日曜、祝日1~6号で貸し出しを行うオリジナルサービス)、軽食の提供や特産品販売のためにサービスカウンターが設置されるなどいろいろな楽しみが待っている。また、車内販売では「球磨焼酎」3銘柄が季節ごとに楽しめるほか、郷土料理の「つぼん汁」や旬の食材を使った弁当やスイーツなども提供。客室乗務員の制服も趣向が凝らされているなど見どころ満載だ。

球磨焼酎の車内販売も。減圧蒸留・常圧蒸留・樽熟成と全3タイプそろっていて、1杯400円から気軽に味わえる(銘柄は時期によって変動)


「九州の小京都」と呼ばれ、この地域の中心地である人吉。「かわせみ やませみ」の終着駅である人吉駅前に、城を模したからくり時計があるほか、市内には熊本県で初めて国宝に指定された青井阿蘇神社や国指定史跡の人吉城跡など、観光名所が点在。温泉地としても名高く、温泉宿が各所にあり、人吉城跡付近には温泉の元湯もあるのでぜひ立ち寄りたい。

「かわせみ やませみ」のルートMAP


黒煙がSL旅の旅情をそそる「SL人吉」


肥薩線全線開通100周年を記念して2009年4月に復活、運行を再開してこの春ちょうど10年を迎える「SL人吉」。現役では日本最古となる1922(大正11)年製造、漆黒のボディと力強いフォルムの8620形蒸気機関車(通称「ハチロク」)58654号機が客車3両をけん引し、春から秋にかけて土・日曜、祝日を中心に「かわせみ やませみ」と同区間の熊本─八代─人吉間を走っている。

漆黒のボディが勇ましい「SL人吉」。タイミング次第で機関士との会話を楽しむことも


木の温もりあふれる車内


車内は大正期に製造された機関車同様、レトロでシックな空間が広がる。木のぬくもりが心地よく、車内にも漂う黒煙の香りがSL旅の風情をますますかきたてる。汽笛を聞きながら車窓を楽しむのはもちろんのこと、日付入りパネルを手にしての記念撮影や記念乗車証へのスタンプ、鉄道の絵本がそろう「SL文庫」での読書やミニSLミュージアムでの観賞など、大人から子どもまで存分に堪能できるのが特徴だ。

3号車の展望ラウンジ。ローズウッドが上質な空間を演出


シックなしつらえが渋い3号車


車窓からの景色をさらに満喫したい場合は、1・3号車にある展望ラウンジがおすすめ。ローズウッドやメープルウッドが高級感を醸し出し、大きな窓からはSLならではの走行音と共に流れる景色をパノラマビューで楽しめる。

沿線では地元住民たちが手を振ってくれることも


窓の外からは時折、沿線の住民が笑顔で手を振ってくれたりするうれしいおもてなしも。「SL人吉」が多くの人に愛されていることを実感でき、心がほっと温かくなると同時に、旅愁を感じられる瞬間でもあるはずだ。

大人の味わいの焼酎アイスやさわやかな晩白柚サイダーなど、郷土の味が旅を彩る


乗車したら楽しみたいポイントはほかにもまだある。2号車のビュッフェでは、ドリンクや軽食、オリジナルグッズのほか、九州の恵みをたっぷり詰め込んだオリジナル弁当「86弁当(ハチロク)」(1200円)などを販売(※熊本→人吉行きのみ)。そのほか、晩白柚(ばんぺいゆ)サイダー(260円)や球磨焼酎を使った焼酎アイス(340円)など、「SL人吉」ならではの必食グルメを味わいたい。

「SL人吉」の車窓から望む球磨川の美しい風景


八代─人吉間は、日本三大急流の1つ・球磨川の清流に沿って進む。晴れた日のエメラルドグリーンに輝く川面は一見の価値ありだ。この区間は球磨川との交差を繰り返すため、通路を挟んだどちら側の座席でもダイナミックな景色を見ることができる(鉄橋など見どころスポットでは案内のアナウンスも)。

「SL人吉」の停車に合わせて開かれる一勝地駅のホーム市


また、木造駅舎の一勝地(いっしょうち)駅では10分ほど停車。その駅名から、勝利を願うスポーツ選手や受験生などに縁起の良いパワースポットとしても注目されている。ホームでは「SL人吉」の運行に合わせて地元の物産品や農産物を販売しており、球磨焼酎や名産の梨、栗を使った菓子などがそろう。試飲や試食もふんだんなのがうれしいところだ。

「SL人吉」のルートMAP


上質な空間でリゾート感を演出する「ゆふいんの森」


JR九州が誇るD&S(デザイン&ストーリー/旅のイメージを膨らませるようなブランド観光列車)列車の先駆けとして誕生し、ことしで運行開始30周年を迎える特急「ゆふいんの森」。博多─由布院─別府間を結ぶ観光列車は、グリーンとゴールドのスタイリッシュな車体に金色(こんじき)のエンブレムを輝かせ、“リゾートトレイン”の名にふさわしい優雅なたたずまいとモダンなインテリアで、今なお予約がとりにくい列車として人気を博している。

エメラルドグリーンの車体が美しい特急「ゆふいんの森」


まるで森の中にいるような客車内


号車や編成によってインテリアは異なるものの、車内は深みのあるグリーンとウッド調でまとめられ、高級感たっぷり。オレンジ色の優しい灯りがゴールドの網棚をぴかりと照らし、あたたかい光に包まれた座席は座り心地が抜群だ。また、3・4人での旅行には、大きなテーブルがついたボックスシートがおすすめ。※座席タイプは事前に指定(予約)が必要

最前部、最後尾からの車窓は必見


博多駅を出発後、鳥栖、久留米、日田、天ケ瀬、豊後森の各駅に停車し由布院が近づくと、緑は色濃く、車窓から流れ込んでくる風が草木の香りを運んでくる。景観をより楽しみたいのであれば、列車の最前部と最後尾へ。ここは全面展望となっており、運転席越しに美しいパノラマビューを望むことができる。森の中を駆け抜けるような感覚は「ゆふいんの森」ならではだ。

「折鶴~おりづる~」(1500円)。旬魚の西京焼きや鯛めし、合鴨ロース煮など具だくさん


「飛翔~ひしょう~」(3240円)。大きなアワビが存在感を放つ。柔らかく煮てありとても食べやすい


列車旅ならではの駅弁も「ゆふいんの森」乗車の際の要チェックポイント。「折鶴~おりづる~」(1500円)は、ミシュラン一ツ星を獲得した北九州の名店「寿司 竹本」が監修した逸品だ。お弁当を広げる様を、鶴が美しく羽を広げた姿に見立てて命名されたもので、車窓の風景を楽しみながら名店の味が堪能できる。車内での個数限定販売ではあるものの、2日前までの事前予約も可能。

おさえておきたいもう1つの駅弁は、事前予約限定販売の「飛翔~ひしょう~」(3240円)。雅な風呂敷に包まれ、中には大きなアワビや脂ののったサワラ、ジューシーなローストビーフ、さらに「寿司 竹本」特製の彩り手毬寿司など豪華なおかずがいっぱい。1つ1つていねいな調理が施され、“ミシュラン一ツ星”の実力をいかんなく発揮したひと品だ。ほかにも「スパークリング梅酒」(350円)をはじめ、海老天サンドイッチとクラブハウスサンドイッチの2種がある「竹本のサンドイッチ」(各300円)などがある。※予約・問い合わせ(092-474-2179※平日9:00~18:00)。

由布院の名宿「草庵秋桜」と日本茶専門店「桐屋」による自慢の逸品


由布院で行列ができるロールケーキとして知られる「山荘無量塔 Pロール」


3号車のビュッフェ(売店)では、沿線のスイーツやドリンク、駅弁をはじめ、バッジやストラップ、クリアファイルなどのオリジナルグッズも販売。「桐屋 お濃茶アイスクリーム」(360円)や「草庵秋桜 特製カスタードプリン」(360円)などのスイーツメニューが豊富にラインアップ。由布院名物の「山荘無量塔(むらた) Pロール」(470円/1・3号での販売なし)は売り切れ必至の人気の品だ。さらには記念乗車証も配布しており、子どもだけでなく大人からも好評を得ている。

また、ビュッフェ車両の隣にあり、誰でも自由に利用できるサロンスペースでは、スイーツを食べたり、棚に並んだ本を読んだり、好きな時間を過ごすことが可能。通常より床高になったハイデッカータイプのため、車窓からの眺めもより楽しむことができる。また、「ゆふいんの森」91・92号に限っては、由布院駅に到着前、客室乗務員による観光案内が行われている。

「桜滝」「観音の滝」とともに天ケ瀬の三瀑に数えられる「慈恩の滝」。上段20m、下段10mの二段滝


豊後森駅に隣接する「豊後森機関庫公園」。実物のSLと機関庫、転車台が残る


天ケ瀬を過ぎると進行方向右手に名瀑「慈恩の滝」が見えてくる。列車はスピードをおとし、乗務員が案内パネルを手に各車両を回るなど、2段落としの名瀑をゆっくり眺めてほしいという粋な計らいが。そしてしばらく進むと、九州で唯一現存する扇形機関庫のある「豊後森機関庫公園」が車窓から見えてくる。“観光列車に乗りながら機関庫を楽しむ”という至福の時間が楽しめるのもここならでは。

足湯で旅の疲れを癒そう


建築家・坂茂氏が手がけた「YUFUiNFO」は全面ガラス張り。旅に関する本を集めた図書館や展望デッキなどもある


ほどなくして由布院駅に到着。ホームに入ると、黒塗りのシックな駅舎が目を引く造りとなっている。駅構内にある足湯でひと休み(大人160円、子ども80円)するもよし、駅に隣接する総合観光案内所「由布市ツーリストインフォメーションセンター」通称“YUFUiNFO”で観光スポットをチェックして、由布院散策に繰り出すのも一興だ。

「ゆふいんの森」のルートMAP