「白いものに白いものをかける」のが許せない理由?
ご飯に合う味で作られているはずのハウス食品のクリームシチューだが、シチューに対してスープや味噌汁といった“汁物”のイメージを持っている人は、「汁物をご飯にかけるなんてみっともない」と感じることがご飯にかけない1つの要因として考えられる。
しかし近年、大手牛丼チェーンで「クリームシチューライス定食」が登場したり、コンビニエンスストアで「シチューライス弁当」が発売されるなど、シチューをご飯にかけた商品が徐々に世間に浸透してきている。このような企業の動きに、「認められた気がした」といったかける派からの声がSNSで多く上がった。
クリームシチューではかける派と分ける派の熾烈な論争があるにも関わらず、同じシチューの仲間である「ビーフシチュー」ではこのような議論は起こらないのだとか。ビーフシチューはカレーに色が似ているためか全く話題にならないという。田村さんは、「クリームシチューが“白い”ことも派閥が分かれる理由なのではないか」と話す。
「当社では2022年に『ブラウンシチュー』という豚肉とキャベツのみで作ることができる、クリームでもビーフでもない新しいシチューを発売しました。こちらの商品を事前調査した際、従来のクリームシチューよりも比較的かける派が多かった印象です。やはり白くなければ抵抗感も薄れるのかもしれませんね。あと、シチューはスープ的な立ち位置で食べられることも多いのですが、今回の商品は“ご飯のおかず”として食べる人が多かったのも特徴的でした」
クリームシチュー×白米の白色被りによる違和感を少なくするため、ハウス食品ではサフランライスなどご飯に色をつけたシチューライスのレシピを提案。また、最近はご飯にかけるメニューとして、「鶏肉のクリーム煮ライス」や「きのこの旨味たっぷり!シチューライス」をはじめとしたアレンジメニューの発信に力を入れている。
そして2017年には「シチューオンライス」という“ご飯にかける用”のルウを発売。ご飯に合いやすいように酒粕粉末やレモンの酸味など加えて独自の味わいになっていたり、ご飯と絡みやすいようにとろみ多めにしているなど、かける派が大満足の仕様に。この商品を発売した後はかける派が全体的に3%増えたそうで、徐々にかける派が進撃してきている。
どちらの食べ方も大切に!ハウス食品が考えるシチューの在り方
ハウス食品は分ける派とかける派、どちらも大切にして商品の開発やメニューの提案をおこなっているが、今後取り組んでいきたいと考えているのが“主食・主菜イメージの強化”だ。というのも、シチューのヘビーユーザーになる人は汁物として食べている人よりも、主食・主菜として食べている人のほうが多いからだそう。
「シチューが好きな人ほど、粘性強め、具多め、味濃いめで食べています。シチューをご飯にかけて食べる場合は味を濃くして作るほうがおいしいので、結果的にかける派がヘビーユーザーになることが多いんです。逆に分ける派はシチューを汁物として食べていることが多く、作る時間は一緒でも、主食・主菜としてではなく汁物として作ると、もう1品おかずを用意しないといけないので、手間感を感じやすくなってしまい、その結果ヘビーユーザーになりにくいのが難点です。そのため、今後はシチューライスなどのメニューにも力を入れていき、かける派を増やしていきたいと考えています」
田村さんは「家庭内で独自に進化したガラパゴスメニューであるゆえに『分ける派かける派論争』は永遠に続くと思います」と話す。今後もさらなる調査をしていき、分ける派とかける派に二分する理由の解明に取り組んでいくという。今後の両派の動向と、ハウス食品の商品展開に注目だ。
取材・文=越前与