日本屈指の“メガネの街”である、福井県鯖江市。日本国内で流通するメガネの95%以上が鯖江で作られていると言われ、その品質の良さは日本国内はもちろん、世界中にも知られている。こういった背景から、鯖江製のメガネはファンの間で特別な意味を持つ場合があり、業者によってはこの「鯖江」の名を強く打ち出すことも。
鯖江ブランドを打ち出す業者のメガネは高額であることが多いのだが、地元には“基本オール鯖江製”でありながら、「2本レンズ付きで5千円」という超破格値での販売を実現する店がある。それが「SABAEOPTアウトレット」という店だ。
今回は、「SABAEOPTアウトレット」で売られるメガネがなぜここまで安いのかを調査すべく、実際に足を運んでみた。
コンテナ内に並ぶ「鯖江製メガネ」に圧倒される
メガネを通してその名を全国に知らしめる鯖江だが、実際に行ってみると意外と静かな街並みだ。駅前にある商店も数軒のみである。
しかし、鯖江市内で比較的賑やかな部類に入る福井バイパス(国道8号線)付近まで行くと、ロードサイドの飲食店や温泉施設があるほか、スーパーマーケットや商店が多数入る複合商業施設がある。この施設内にあるメガネ店「SABAEOPT」のアウトレット店が「SABAEOPTアウトレット」で、エリア内の徒歩圏内の駐車場の一角に、コンテナショップとして出店している。
店主の荒谷直嗣さんは、普段は複合施設のほうの「SABAEOPT」を中心に営業を行っているため、「SABAEOPTアウトレット」の開店はかなり限られている。現在は火曜、土曜、日曜の13〜18時、土曜の21〜24時頃までの営業とかなり変則的。一部不定休などもあるので、訪れる際は必ず公式サイトをチェックしてからにしたい。荒谷さんいわく、「これでも以前よりは営業時間を増やした」とのこと。その理由は、地元はもちろん県外からのお客さんが増え、できるだけニーズに対応したいからだそうだ。
さっそく「SABAEOPTアウトレット」の店内に入ってみると、横長の店内には無数のメガネが並んでおり、メガネのフレームには何やら丸いシールが貼られている。シールの色によって価格が細かく設定されているというわけだが、1番安いものは「2本で5千円」で、フレーム+レンズを購入することができ、高額でも1本で5千円〜1万円だ。
つまり、JINSやZoffといった人気メガネチェーン店レベルかそれ以下の低価格で、鯖江製メガネを作ることができる。
「地元外でメガネを買うのはタブー」の理由
細やかな検眼などはないものの、レンズはその人ごとの度数のものを入れてくれる。普段使っているメガネを持参し、その度数を測ってもらい、同等のレンズを入れてくれるという仕組みだ。
レンズの在庫がない場合は、後日送料別途で発送してくれたりと、「この価格でそこまでやってくれるの?」と驚くばかりだ。ただ、荒谷さんによれば、ここまでしても「あくまでもアウトレットであって、完璧なサービスは期待しないでほしい」という。
「普段は『SABAEOPT』というメガネ店を運営していますが、こちらではきちんと検眼し、アフターサービスも含め細やかに対応させていただいております。一方、この『SABAEOPTアウトレット』のほうは、お店としてやっているつもりはなく『とにかく安くメガネを作ってあげたい』という思いだけで営業しています。そのため、本業のお店が比較的空いている時間帯に『SABAEOPTアウトレット』の営業をするようにしていて、一般的なメガネ屋さんと同じサービスはできないことだけはご理解いただきたいです。
『SABAEOPTアウトレット』はありがたいことに、県外の遠方の方も多くご来店されますが、メガネは本来、生活用品・医療用具ですから、生活圏内のメガネ屋さんで買うのが基本で、地元以外のところで買うのはおすすめしません。『フレームが曲がった』『踏んづけてしまった』といったトラブルが起きた場合に、すぐにお店で対応してもらえないからです。『SABAEOPTアウトレット』ではお手持ちのレンズに合わせたものを測って、同じものを新しいフレームにお入れしていますが、これも厳密に言うと正しいメガネの作り方ではありません。メガネというものは、フレームの形状によって見え方が微妙に異なってくるからです。この点から『SABAEOPTアウトレット』では、絶対に満足できるメガネをご提供できているわけではないことは、事前にご理解いただき、そのうえでご利用いただければ幸いです」
破格の安さには「メガネの聖地」ならではの事情が
しかし、ここで謎も浮かんでくる。冒頭でも触れたとおり、首都圏のメガネ店などでは鯖江製のメガネがかなり高額で販売されていることが多い一方、「SABAEOPTアウトレット」は基本オール鯖江製フレームであるにも関わらず、夢のような価格を実現していることだ。
特に最安となる「2本レンズ付き・5千円」というのは、どうして実現できるのだろうか。
「例えば地元のメガネメーカーに100個のメガネの注文が入った場合、万一不良品などが出た場合の対策として、数パーセント多めに作ることがあります。医療用具という側面があるメガネですので、少しの傷があるだけでも返品されることがあるためです。そういった理由で返品されたメガネを、メーカーはその都度廃棄処分していたのですが、大きいメガネメーカーだと“月の廃棄処分量が2万本”みたいなこともあったそうです。また、地元のメガネメーカーがとあるファッションブランドに『オリジナルのメガネ製品』としてプレゼンする際には、フレームで何色もプロトタイプを製造して選んでもらうことがありますが、その際には採用された色以外のメガネはやはり廃棄処分対象となります。
こういった廃棄処分となるはずだったメガネを仕入れ、格安で販売するお店をやりたいと思って始めたのが『SABAEOPTアウトレット』でした。メガネという特性上、あくまでも地元の方へのサービスとして始め、今もその思いで営業していますが、近年では県外の方も多くご来店いただけるようになり、本当にありがたいです。しかし先ほど言ったように、細やかなサービスなどはできておらず、あくまでもアウトレットとしての営業です。この点はどうかご理解いただき、福井界隈におでかけの際に、ついで程度にお立ち寄りいただければうれしいですね」
買ってみてわかった、鯖江製メガネの“充実感”
というわけで、「SABAEOPTアウトレット」で筆者も5本のメガネをオーダーしてみることにした。このうち3本は比較的高額の、1本5千円〜7千円のフレームのものを普段使い用として、そして「2本で5千円」のメガネはパソコン用として、それぞれレンズを変えてもらった。
「2本で5千円」のメガネであっても十分な仕上がり。出先でのノートパソコンでの作業用、自宅のデスクトップ用と使い分けられるのがうれしい。もちろん、普段使い用としてオーダーした1本5千円〜7千円のフレームも同様で、何より「鯖江製メガネ」をこれだけの価格でオーダーできたことに大満足だ。
東京のちゃんとしたメガネ専門店であれば1本数万円はするメガネを、それ以下の価格で作ることができる「SABAEOPTアウトレット」。品質と安さを両立したメガネ店であり、これは実に有意義な試みだと言って良いだろう。
前述で荒谷さんは、「福井方面におでかけの際のついでに立ち寄ってほしい」と語っていたが、これなら交通費や移動時間を割いてでも「SABAEOPTアウトレット」のメガネ目当てに鯖江まで訪れる価値十分だと思う。本記事でご紹介した店主・荒谷さんが語ってくれた思いを理解したうえで、利用してみることをおすすめしたい。
取材・文=松田義人(deco)