レトロ感あふれる緑色のボトルが目を引く乳性炭酸飲料「スコール」。乳飲料独特の甘味と炭酸が合わさり、爽快な飲みごたえが特徴的だ。南日本酪農協同株式会社(以下、南日本酪農協同)が販売するこの飲料は、2021年に誕生から50周年を迎えた。
今でこそスーパーやコンビニエンスストアなどでよく見かけるが、発売当初の滑り出しは順調とは言えず、むしろ売れない日々が続いていたそうだ。そんなスコールはどのような方法で人気となり、50年もの間多くの人に支持される商品になったのだろうか。
今回は、同社・営業企画部の竹中淳記さんに、スコールについてインタビューを行うことに。開発時の苦労や成功の秘訣、さらに「愛のスコール」というキャッチコピーの理由を聞いた。
スコール誕生のきっかけは初代社長のうっかりミス!
スコールを販売している南日本酪農協同は、もともと南九州にあった3つの酪農協会を束ねた企業団体として発足した企業。会社が設立された目的の1つには、南九州の酪農家が抱えていた「余剰乳処理」の解決があった。
「当社は、南九州地方の乳業の確立化を図って1960年に誕生しました。当時は余剰乳問題が解決できずに、やむなく余った牛乳を廃棄することがありました。この余剰乳をなんとか活用ができないかと思い、試行錯誤を繰り返していたんです」
当時は国内初の200ミリリットル牛乳瓶の発売や、練乳や脱脂粉乳の加工を手掛けるなど対策をしていたが、最も有効な打開策は出ないまま、余剰乳は依然として増え続ける一方だったという。そんな折、初代社長であった木之下利夫氏の“偶然の出来事”から、余剰乳問題の救世主「スコール」のアイデアが生まれた。
「昭和40年代前半のある日、初代社長が大好きな釣りに出かけていました。⽜乳とサイダーを入れたクーラーボックスを携えて海に向かったのですが、いざ飲もうとするとクーラーボックス内で牛乳とサイダーがこぼれて混ざっていたようです。これを見た社長は、『牛乳と炭酸を掛け合わせた商品はどうだろうか』とひらめいたそうです」
常に「牛乳が苦手な子供たちにも、栄養豊富な牛乳を飲んでもらいたい」と新商品開発に余念がなかった初代社長は、早速思い付いた新商品の開発に取り組むことに。しかし、炭酸と牛乳を混ぜると起こってしまうのが「凝固」。牛乳に含まれるカゼインというタンパク質を炭酸が固めてしまうのが問題だった。しかし、2年もの歳月をかけてこれを解決。見事、炭酸と牛乳を混ぜ合わせた飲料の開発に成功した。
「この新しい飲み物の名前を『スコール』と決めました。これはデンマーク語で“乾杯”を意味する言葉で、初代社長がデンマークを訪れた際に出合った言葉だそうです。また、東南アジアの夕立の“スコール”もイメージしていて、“潤いをもたらす恵の雨”という意味も含んでいます。そして“安心して飲める乳性炭酸飲料”という子供たちへの“愛”と、酪農家や牛乳への“愛”を込めて『愛のスコール』というキャッチコピーをつけました」
売れない日々に決着をつけた「クジ」。実は知名度は西高東低
1972年、南日本酪農協同は満を持してスコールを市場に送り込んだ。しかし発売当初は鳴かず飛ばずで、なかなかユーザーに定着することがなかったそうだ。社員たちは「なぜ売れないのだろう」と悩み、どうすれば売れるかを考える日々が続いたという。
「発売当時は『乳性炭酸飲料』という飲料のジャンルがなく、味や⾆触りがユーザーにはイメージできなかったこと、全体に緑⾊をまとった瓶からは味わいが想像しにくかったことなどの要因によって、売上につながらなかったのではと考えています」
苦戦を続けていたスコールだったが、ある日、1人の社員がクジつきアイスクリームから着想を得て、「クジをつけてみてはどうか?」と提案。そこで、瓶にクジをつけて売ってみるとすぐに完売。その後、王冠の裏部分にクジをつけると子供たちの間で話題になり、みるみるうちにユーザーに受け入れられていった。
クジの効果、そしてスコール本来の実力が発揮されて知名度は急上昇。九州をはじめとした西日本を中心に人気を上げてきた。特に関西エリアでは、銭湯での販売が盛んに行われたこともあって“風呂上がりにはスコール”というイメージが浸透。現在でも銭湯の後にスコールを楽しむ人がいるのだとか。
「西日本地域への販路拡大に力を入れたこともあり、定番商品の『スコールPET 500ml』の販売比率は中部以西の西日本が約9割を占めています。関東以北の東日本とではブランドの知名度に大きく差があるのが現在の課題です。スコールをさらに全国的なブランドへ成長させていくため、今後は全国のコンビニエンスストアやスーパー、特に関東での取扱いを増やすことでブランドの知名度を向上させていきたいと考えています」
ここ数年、スコールは安定した売上で推移しており、コロナ禍においても売上への影響はさほど感じられないという。「ユーザーに本当に愛されているブランドだと実感していています」と竹中さんは話す。
社長激怒のボツ商品とは?ブランド拡大を目指すスコール
スコールは、定番の「スコール(ホワイト)」をはじめ、1978年に発売した「スコールレモン(黄)」、「スコールアップル(赤)」を加えた通称「信号機シリーズ」を皮切りに、期間限定や店舗限定の商品を含めて約200種類ほどのフレーバーが登場している。なかでも特に人気だったのが、「スコールブルーソーダ」だそうだ。
「ブルーソーダはフルーティーで爽快感のある味わいと涼しげな見た目が季節感とマッチしたことで人気になりました。現在も夏の定番フレーバーとしてリニューアルを繰り返しながら、期間限定で販売しています」
現在も、季節の移ろいや時代の変化などを取り入れてのフレーバー開発を心掛けているという。数多くの味を販売することで、選べる楽しさと見た目から飽きの来ないブランド展開・商品作りを目指しているが、開発した商品のなかには発売に至らなかったものもあったとか。
「発売されなかったフレーバーの1つが、コーラ味のスコール『ホワイトコーラ』でした。開発したのは先代の社長の時代で、スコールの白色はそのままにコーラの味がし、デザインはスコールのロゴ部分が破けて『ホワイトコーラ』という商品名が描かれているという斬新なパッケージでした。ですが『大事なスコールのロゴが破けているじゃないか!』と社長が激怒し、販売を断念したそうです(笑)」
ブランドとして強いこだわりを持って展開しながら、今では安定的な売上を誇るスコール。ここ数年はコラボ商品の販売やTwitterをはじめとしたSNSの運用、2021年に立ち上げた「スコールファンクラブ(カンパーイ応援団)」を通してコミュニケーションなどを行い、ブランドのさらなる訴求に力を入れているという。
「これからもトレンドに沿ったプロモーションやコラボ企画の実施を続けていき、既存の商品と違う価値観の提供や、新しいファン獲得を目指したいと思います。最近ではエナジー系の『スコールエナジー』や、アッパー商品である『スコール濃いめ』などの新商品を発売しました。今後もブランドを成長させていくため、新しい挑戦を続けていきたいです」
誕生から50周年を迎えたばかりのスコール。この先60年、70年、そして100年を迎えても、今と変わらずユーザーに愛される味わいを提供し続けてくれるだろう。そしてこれからの新しいフレーバー展開にも期待が止まらない。今後の活躍を祈るばかりだ。
取材・文=越前与