約20年前は伸び悩んだのに…サーモス「保冷炭酸飲料ボトル」が再販後に大ヒットした理由とは?

2023年3月19日

スタイリッシュなデザインと、使いやすい機能性が人気の水筒など、魔法びんメーカーとして知られる「THERMOS」(サーモス)。1904年に世界初のガラス製魔法びんを作ったブランドだ。1978年には日本の技術力を持って「高真空ステンレス製魔法びん」を生み出して以降、魔法びんのパイオニアとして世界120カ国以上に展開している。

サーモス株式会社は、2022年3月に「保冷炭酸飲料ボトル(FJKシリーズ)」を発売。文字通り、冷たい炭酸飲料を持ち運べる水筒で、発売後7カ月で20万本以上※を売り上げた大ヒット商品だ。
※保冷炭酸飲料ボトル(FJK-500/750)2022年3月1日~8月末までの出荷本数の集計

しかしこの商品は過去に一度、同じコンセプトのものを発売したものの、まったく売れずに販売を中止したという歴史があった。今回は、保冷炭酸飲料ボトルが再販後に大人気になった理由について、サーモス株式会社(以下、サーモス) 社長室ブランド戦略課プロモーショングループ リーダーの鈴木翔太さんに話を聞いた。

サーモスの「保冷炭酸飲料ボトル(FJKシリーズ)」。1リットル、0.75リットル、0.5リットルの3サイズが展開されている


約20年前は大爆死!全然売れなかった「保冷炭酸飲料ボトル」

炭酸好きの心を掴んでベストセラーとなった保冷炭酸飲料ボトル。この商品の前身となったのは、実は約20年前に発売されていたモデルだった。約20年前、炭酸飲料対応ボトルを開発することになったのは、サーモスが水筒市場を開拓するうえで、さまざまなコンセプトの商品開発に挑戦していたのがきっかけだったという。

「当時は新しいスポーツボトルの企画を行っていました。今ほど水筒が一般的に普及していない時代だったので、より使いやすい製品を、新しい製品を…といろいろな商品を企画開発していました。そのなかの1つとして、炭酸飲料対応のボトルを開発することになりました」

約20年前に発売された「真空断熱イージーキャップボトル(FDD-500)」


この頃は、持ち運びのしやすいペットボトルはまだ少なく、缶入りのドリンクが主流だった時代。そしてマイボトルを持ち歩くというライフスタイルは浸透していなかったため、わざわざ炭酸飲料をボトルに入れて持ち運ぶという習慣が根付かなかったのが、売上が振るわなかった大きな要因だ。

「当時は炭酸飲料を飲むことが今ほど当たり前でなく、さらにはそれを『持ち運びたい』というニーズが少なかったのが売れなかった理由です。そして、炭酸飲料に対応したフタには長さのあるネジを使用したのですが、通常の水筒のフタと比べてネジが2倍以上長かったため、洗浄性や使いやすさに課題があり、ヒットさせることができませんでした。そのため、2004年に終売となりました」

通常の水筒と比べてフタのネジが長く、洗浄性に課題があった

飲み口も現在のものとは異なり、ペットボトルの口ほどの大きさ


約20年の時を経て大ヒットした理由とは?

最初の発売時は全然売れなかった炭酸飲料対応ボトルだが、2022年に再発売すると大人気に。売れ数20万本を超えるヒットを叩き出す結果に。時代を越えて売れた理由として「炭酸水ブームが後押ししたのでは」と、鈴木さんは予測する。

「2018年頃から炭酸水ブームが起こり、炭酸水を日常的に飲んだり職場に持って行ったりと、消費者のライフスタイルに大きな変化がありました。そして、コロナ禍におけるおうち時間のお供として刺激の強い『強炭酸』の飲み物が人気になり、これまで以上に炭酸飲料が飲まれるシーンが多くなりました」

一度終売した後も開発を続けていたが、炭酸飲料市場の高まりを受けて、「炭酸飲料対応ボトルをもう一度発売してみてはどうか?」と、再度製品化に着手した。デザインをよりおしゃれに、機能的に、そして技術面でも安全に簡単に使えるように、リニューアルを行って発売した。

0.5リットルサイズの保冷炭酸飲料ボトル(FJKシリーズ)


現在のモデルは、フタを少し回すと“シュッ!”と炭酸の圧力を逃がし、さらにフタを回すと開く2段階構造。これはサーモスの看板製品でもある「真空断熱スープジャー」のフタと同様で、水筒内にかかった圧力を逃す構造からヒントを得たものだ。これのおかげで、炭酸飲料を入れても中身がふき出さず安全に開けることができる。

独特な構造のフタは、同社が販売する「真空断熱スープジャー」から着想を得て作られた

中身がふき出ないように、フタは「2段階構造」になっている


「炭酸飲料はもちろん、お茶や水を入れるなど水筒本来の使い方をする人も多く、さまざまなシーンで使用されています。また、炭酸水は冷たくないとおいしくないので、氷を入れている人や炭酸水メーカーで炭酸水を作ってボトルに入れている人もいますね。なかにはビールや発泡酒、酎ハイなどを入れる方もいらっしゃり、お酒好きの方にも売れています」

シンプルな構造と使い勝手の良さを向上させ、今の時代に向けた新しい仕様に改良したことによりヒットしたと言える。また、同業他社も同じように炭酸ボトルを発売して市場が盛り上がったこともあり、さらに売上に拍車がかかることとなった。

「これからも“水筒のある暮らし”を浸透させたい」

“炭酸飲料を持ち運ぶ”という、人々に新たな選択肢を生み出した保冷炭酸飲料ボトルは、特に男性に多く売れているという。通常の水筒は主に30〜40代女性に売れることが多いそうだが、ビールやコーラなどさまざまな炭酸飲料を入れられるという特徴からか、これまでの水筒ユーザーとは異なる人にも広まっているようだ。

「今後は、カラーやサイズラインナップを充実させていきたいと考えています。また、『もっと大きいサイズを出してほしい』と要望が多かったため、1リットルサイズの保冷炭酸飲料ボトルも販売を始めました。ぜひいろんなシーンで、炭酸飲料をたっぷり持ち歩いてください!」

1リットルサイズの保冷炭酸飲料ボトル


サーモスが目指すのは、今以上に水筒を持ち運ぶライフスタイルを創造していくこと。これまで以上に水筒の良さを知ってもらい、さらに水筒文化を広めていくことが今後の展望だ。「当社の水筒はデザインも機能もシンプルで、洗浄性も含めたお客様の使いやすさを大切にしているのが特徴。これをきっかけにサーモス製品をもっと知ってほしいです」と鈴木さんは話す。

炭酸飲料を気軽に持ち歩くことができるようになり、水筒が活躍するシーンはさらに増えることとなった。これから、サーモスはどのような画期的な商品を展開していくのだろうか。今後の動きに注目だ。

取材・文=越前与