ヨックモックの「シガール」誕生のきっかけは“偶然めくった画集の絵”!ギフトの定番となった理由とは?

2023年4月5日

ギフトの定番中の定番となっているヨックモックの「シガール」。シガールは、1969年に百貨店向け菓子の製造販売会社として誕生した株式会社ヨックモックが同年に販売をスタートさせたもので、今日まで続く同社の代表的商品であり、日本における贈呈用洋菓子の代表的存在でもある。

いただきもののシガールの缶が家にあったり、多くの人の思い出のお菓子としても名高いが、その誕生秘話やここまで大ヒットした理由など、意外と知らないことも多い。今回は、株式会社ヨックモックの広報担当者に「シガール」の知られざる逸話を聞いた。

手土産やギフトとして定番となっている、ヨックモックの「シガール」


「ヨックモック」の由来はスウェーデンの小さな町から

まずシガールの話に入る前に、ヨックモックの成り立ちから紹介したい。ヨックモックは東京・青山に本店を置く1969年設立のクッキーブランドで、全国の百貨店、駅、空港などを中心に約160店舗を展開。シガール以外の商品も複数あり、特に青山本店では季節ごとに入れ替わるオリジナル菓子を販売している。

東京青山に本店を構えるヨックモック


この「ヨックモック」という独特なブランド名の由来は、スウェーデンの北部にある、森と湖に囲まれた「JOKKMOKK」という小さな町に由来する。菓子職人だったヨックモック設立者・藤縄則一氏がこの町を訪問した際、その温かい響きと自然豊かな風土に感動し、この名を採用したという。綴りは日本人に読みやすいよう「YOKU MOKU」とし、かの町の食卓を飾るお菓子のように“真心を感じるおいしさ”にこだわり、今日までその思いは守り抜かれている。

このヨックモック設立の同年に登場したのがシガールだが、当時は高度経済成長期真っ只中。それまで口にしたことがなかった真新しい食品も浸透し始めた時代だが、それまでの菓子メーカーでは“バターをたくさん使ったクッキーの量産や量販は難しい”と考えられており、実際、シガール以前にこういった菓子は存在しなかった。

設立者である藤縄氏は、「業界の常識を逆手に取った菓子ができないか」と考え、それまでの“バターをたくさん使ったクッキー”の商品化を目指し、試行錯誤を繰り返した。しかし、藤縄氏が考案したバターを多く使用して薄く焼き上げたクッキーはとても壊れやすく、やはりその量産や量販は非現実的でもあった。

藤縄氏は頭を悩ませたが、そんなとき、たまたまある画集に出合う。17世紀のフランスの画家であるリュバン・ボージャンのもので、そのうちの1枚の絵画には、紙のように薄く焼き上げられた“筒状の菓子”が描かれていた。これを見た藤縄氏は、自身考案のクッキー生地をこの絵の“筒状の菓子”のように巻いてみることにしたそうだ。

すると、クッキー生地が補強されることに加え、薄い生地が折り重なることでより独特の好ましい味わいになり、それまでにない上品な食感にもなった。藤縄氏が目指した「業界の常識を逆手に取った菓子」はここで完成し、ヨックモックの看板商品として「シガール」の販売がスタートした。

初代「シガール」のパッケージ

初代「シガール」には紙パッケージや丸い缶のパッケージもあった


なぜギフトの定番に?百貨店での展開を決めた理由

発売当初は、設立間もないヨックモックという会社に、多くの人が口にしたことも目にしたこともないお菓子という、市場では全くの新参者。そこで、都内の百貨店に売り込みを始めることにしたが、その味わいはすぐに高評価を得ることになった。「同年の歳暮期に商品を出してみてはどうか」という話になり、同年11月にヨックモックの1号店の出店が決定。藤縄氏がシガールを開発してから初出店を果たすまで、わずか半年間の出来事だった。実際に販売を始めると、瞬く間に評判が広まり、展開店舗は1年間で17店舗へと増加した。

ヨックモックがシガールを百貨店で展開させた理由は、まず「『市販菓子より少々値が張ったとしても、シガールのおいしさは十分受け入れられるはずだ』という自信があったから」だという。さらに、当時の百貨店は集客力が高く、“商品の知名度を上げる”という意味でも効果的だったこと、そして流通経路を短縮できることに加え、メーカー自身が販売の実態を直接把握できるといった利点からだったんだとか。

シガールを高級クッキーとして印象づけるために、包装やパッケージでも“百貨店で販売するギフト商品にふさわしい”というイメージを付加させ、高品質なイメージを創造した。結果的に、シガールは日本におけるギフトとして新しい価値を作り、今日までギフト洋菓子の代表格であり続けることになった。

2代目「シガール」のパッケージ

今日まで続く3代目「シガール」のパッケージ


現在のシリーズは定番のシガールに加え、深い味わいとほっこりした気分を楽しめる、ミルクチョコレートをなかに詰めた「シガール オゥ ショコラ」、3種類のシガールを楽しめる詰め合わせ「トロワ シガール」のみに入るミルクティー風味の「シガール オ テ」などがある。

このほかにも、ミニサイズでパンダをモチーフにしたパッケージの「パンダ プティ シガール」や、初夏限定の「シガール オゥ マッチャ」なども人気だそうだ。

定番の「シガール」(左)と、ショコラ味の「シガール オゥ ショコラ」(右)のパッケージ

「シガール オゥ ショコラ」

「シガール オゥ ショコラ」は、ロールの内側にミルクチョコレートが入っている

定番「シガール」(左)と、「シガール オゥ ショコラ」(右)の違い

初夏限定の「シガール オゥ マッチャ」


「たくさんの人々を笑顔にするお菓子」を目指して

開発時こそ苦労したものの、発売当初から熱烈な支持をほしいままにし、今日までロングセラーであり続けるシガール。広報担当者は、藤縄氏が設立前から抱いていた“ある思い”が商品に反映されているからこそ、多くの人に受け入れてもらえたのではないかと語る。

「ヨックモックの『菓子作りの精神』は、食べる人の喜ぶ顔を想像して、心を込めて作ることです。藤縄は戦後、原材料の確保が難しいなか、自身が作った菓子たちが多くの人々を笑顔にするということに心を打たれ、その生涯を菓子作りに捧げ、ヨックモック、そしてシガールを誕生させました。藤縄の思いを受け継ぐ私たちもまた、『たくさんの人々においしい菓子を届けたい』と願い、真心を込めた菓子作りを信念としています。すでに召し上がっていただいているお客様、まだ召し上がられたことのないお客様に、今後とも安全・安心で、おいしいお菓子をお届けすることを約束いたします。特にシガールは、性別・世代・国境を越えて皆様に愛されてきました。今後も、弊社のシガールをはじめとする全商品を通し、多くの方々にとっての“おいしさと笑顔がともにある未来”を創り続けていきたいです」

シガールはこれからも世界中の人たちを笑顔にしていくことを目指す


文:松田義人(deco)