「かっぱえびせん」の“かっぱ”はどこから来た?「川えび獲り名人」だった創業者の思い出から誕生してロングセラーに

2023年3月20日

カルビーの代表的スナック菓子の1つとして、スナック菓子市場全体でも絶大な支持を誇る『かっぱえびせん』。かつて放映していたCMで歌われた「やめられない、とまらない♪」の通り、次々と手が伸びるクセになる味わいで、子供から大人まで幅広く親しめるお菓子だ。

かっぱえびせんの誕生は1964年。2023年で59年に及ぶロングセラーということになるが、世代を超えて親しまれ続ける菓子にもかかわらず、その出自やストーリーは知らないことも多い。

そこで今回は、カルビー株式会社の担当者に話を聞き、かっぱえびせんの知られざる誕生秘話を紹介する。

『かっぱえびせん』の知られざる歴史とは?


イメージに「かっぱ」を器用した理由とは?

広島県で1949年に創業したカルビーは、スナック菓子の一大メーカーとして知られている。その創業者の松尾孝氏は、あるとき週刊誌で連載されていた漫画家・清水崑による『かっぱ天国』という漫画を読み、大ファンに。原作に登場するキャラクターや語感の良さに惹かれたという。

『かっぱえびせん』誕生のきっかけとなった漫画『かっぱ天国』(清水崑・著)


松尾氏は、「お子さんから大人まで、幅広い世代に親しんでもらいたい」という理由から、その頃カルビーで製品化を目指していた“小麦あられ商品”に「かっぱ」のキャラクターを冠したいと考えるようになったそうだ。

しかし、そのアイデアの元となった清水氏に無断で商品化するわけにはいかない。そう考えた松尾氏は、あらゆるツテをたどり、なんとか清水氏との面会をかなえる。無事に「かっぱ」というワードの使用許可を得て、商品にあしらうキャラクターを描いてもらうまでに至った。

こうしてカルビーは、1955年に日本初の小麦あられ商品として『かっぱあられ』を誕生させた。かっぱあられは大ヒットとなり、続々と『かっぱ』シリーズを商品化していくことになったという。

1955年に誕生した『かっぱあられ』

『かっぱあられ』ヒット後、『かっぱ』シリーズが続々と商品化


「川えび獲り名人」だった創業者の味の記憶から誕生

当時、『かっぱ』シリーズにはまだ「えび」の要素は入っておらず、甘辛い味付けのものばかり。その理由は、まだ“スナック菓子”というジャンルが確立されていなかったことや、出回っているお菓子にはチョコレート菓子が多かったことなどからだという。

それでも松尾氏は、『かっぱ』シリーズの売上が好調であっても、さらに進化させる努力・研究を怠らず、「あとを引くおいしさとは何か?」を考え続けていた。

そんなとき、瀬戸内海で獲れた小えびを干しているところにたまたま通りかかり、松尾氏はここでひらめく。松尾氏は、幼少期に“川えび獲りの名人”と言われたほど、川えびを獲るのが上手だったんだとか。獲った川えびを家に持ち帰ると、母親がかき揚げに調理してくれた思い出があり、「あのおいしかった、川えびのかき揚げのような味を菓子にしてはどうだろうか」と思いつく。

カルビーの代表的なスナック菓子の1つ『かっぱえびせん』


以来、瀬戸内海産をはじめ国内外から多くのえびを探し求め、菓子にできないかと研究を重ねることに。最初のうちはボイルしたえびで試していたものの、えびの風味が半減してしまうことがわかり、次に生のえびを試してみたそうだ。

しかし、生のえびは傷みやすく管理が難しいという、保存方法の壁にぶつかる。えびの買い付けで毎朝3〜4時に市場に行き、選別後はすぐに冷蔵庫に入れ、あらゆる製法を試すといった苦しい日々が続いていたが、やがて松尾氏は、とある製法に辿り着いた。それは「鮮度の良い生えびの頭から尾までを皮ごとミンチにし、それを小麦粉に混ぜて蒸気で蒸しながら練る」という手の込んだものだった。

この製法で作られたかっぱえびせんは、1964年に誕生。『かっぱ』シリーズ最後となる27番目の商品となった。松尾氏の努力の甲斐もあり、かっぱえびせんは全国的なヒットとなっただけでなく、スナック菓子市場を牽引する菓子にもなった。

今日に至るまで、時代に合わせて味の微調整は行いつつも、製法としては松尾氏考案のものを守り続けており、かっぱえびせんは世代を越えた多くの人たちに愛される商品となった。

1964年に発売された『かっぱえびせん』。当初は透明のパッケージだった

パッケージに描かれているえびの絵は、1964年に描かれたものが今でも採用されている


公式キャラクター「かっぱえび家」がかわいすぎる!

かっぱえびせんは、スナック菓子の代表として今も多くの人を魅了しているが、誕生から59年という長い歴史のなかには知られざるトリビアがある。

(1)初の味変わり商品は「フレンチサラダ味」
かっぱえびせんブランド初の味変わり商品として登場したのは、1986年の「フレンチサラダ味」。前述したかっぱえびせんのルーツである「かき揚げ」に柑橘系果物が合うことから、酸味のある「フレンチサラダ味」を限定ラインナップしたという。以来、今日に至るまで複数回登場し、ファンの間でも待望の声が後を絶たないという。

(2)味変わり商品・限定品などには、特別な「えびせん」が入っていることも
かっぱえびせんの味変わり品・限定品などのなかには、特別なえびせんが入っていることがある。2023年の冬季限定商品『かっぱえびせん 紀州の完熟梅味』には、梅の花型のかっぱえびせんが入っていた。

『かっぱえびせん 紀州の完熟梅味』に入っている梅の花型のかっぱえびせん


(3)世界5カ国で販売されている
カルビーによると、現在かっぱえびせんは日本をはじめ、アメリカ合衆国、タイ、香港+中国、シンガポールで販売されている。

(4)8月10日は「かっぱえびせんの日」
毎年8月10日は、2017年に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録されたかっぱえびせんの記念日で、由来は「や(8)められない、と(10)まらない」から。その年によって催しや記念キャンペーンの内容は異なるが、オンラインイベントを実施したり、人気クリエイターが描いた限定パッケージが販売されることも。

(5)公式キャラクター「かっぱえび家」がいる
2012年より「かっぱえびせんにより親しんでもらいたい」という願いのもとで誕生したキャラクター。かっぱえびせんは全世代をターゲットとしながらも、幼児を対象にした『1才からのかっぱえびせん』を展開していることもあり、主に子供向けに誕生させたキャラクターが「かっぱえび家」。家族構成はかっぱパパ、えびママ、かっぱえびくん(長男)、かっぱエビーちゃん(長女・妹)。

公式キャラクター「かっぱえび家」。かっぱえびせんと同様にクセになるかわいさだ


これから先も「やめられない、とまらない♪」を目指す

実はあまり知られていない、かっぱえびせんの歴史やトリビアを紹介したが、1年後に迫る発売60周年を前にしながらも、カルビー担当者は「これからもスナック菓子を通して、小さな幸せをお届けするブランドを目指す」と話す。最後にコメントをもらった。

「かっぱえびせんの独特のサクサク食感は担保しつつ、時代に合わせたおいしさや楽しさを今後も追求していきたいと思っています。定番のかっぱえびせんを代表に、えびの素材違いが楽しめる『えび撰シリーズ』、お酒のおつまみに合う『絶品シリーズ』、小さなお子様や塩分を気にする方も楽しめる『1才からのかっぱえびせん』など多様なニーズに合わせた商品を展開し、いつまでも変わらずスナック菓子を通して小さな幸せをお届けするブランドを目指します。今後も、赤ちゃんからご年配の方までいろんな世代の方に『やめられない、とまらない♪』と言っていただけるよう、努めていきます」

来年で発売60周年を迎える


取材・文=松田義人(deco)