海苔佃煮といえば『ごはんですよ!』を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。とろりとした食感のなかに海苔の風味が生きていて、ご飯にのせてもよし、うどんやパスタに加えるなど調味料として使うのもよしと、さまざまな食べ方ができる。海苔佃煮の市場でおよそ6割のシェアを占める業界No.1の人気商品だ。
そんな子供からお年寄りまで幅広く支持されている『ごはんですよ!』は、2023年で誕生50周年を迎える。この名前もパッケージも特徴的な商品は、もともとは関西先行発売の商品だったんだとか。
では、そこからどのように全国ヒットに至ったのだろうか。今回は株式会社桃屋(以下、桃屋) 営業企画部の栗山歩美さんに、『ごはんですよ!』の開発秘話や販売戦略について話を聞いた。
誕生のきっかけは“ターゲット層の拡大”
『ごはんですよ!』が誕生したのは1973年。その前身にあったのは、桃屋が発売していた『江戸むらさき』という商品だ。『江戸むらさき』は1950年に発売された、板海苔が原料の海苔佃煮。少し硬めでキレのある味わいだったため、ご飯のお供としてだけでなく、おつまみとしての需要が高かったという。
「これまでの海苔佃煮といえば、ご飯の上に“トン”とのるような硬さがありました。箸でつかみやすかったため、お酒のアテとして食されることも多く、主に成人男性のファンが多い商品でした。そこで、『もっと幅広い世代に愛される商品を作りたい』という気持ちから、女性や子供のファンを増やすための佃煮を開発することになりました」
そこで提案したのが、『江戸むらさき』に比べて甘めで、カツオやホタテの旨味がきいたとろりとした食感の佃煮。原料にはこれまで使用していた板海苔ではなく主に生の青さのりを使用し、煮込み時間の少ない浅炊きにするなど新たな製法を採用した。
「実際に開発に取り掛かったのですが、とろりとした食感を出すのに苦労しまして…。何度も試作を繰り返したので、理想のなめらかな舌触りの実現に時間がかかりました。しかも、青さのり以外の海藻などさまざまなものが絡むため、それを取り除くための専門の工場を建造したりもしました」
名前の由来は当時の社長夫人の「ごはんですよ!」から
理想の食感の実現や工場の建造など、多くの苦労を重ねて完成した、青さのりを使用した海苔の佃煮。当時の社長は商品名をどのようなものにするか非常に悩んだという。そんななか、ひょんな出来事からヒントを得ることになったそうだ。
「桃屋二代目社長の小出孝之が新商品のネーミングに悩んでいた際、夕飯の支度を終えた社長夫人が『ご飯ですよ!』と声をかけたのがきっかけでした。そこから『そうだ、これにしよう!』とひらめき、『江戸むらさき ごはんですよ!』という名前に決めたそうです」
いざ発売してみると、“新しい海苔佃煮”として幅広い世代から大好評に。特に『ごはんですよ!』という、当時は珍しい会話口調の名前や、目を惹くカラフルなデザイン、そしてこれまでの海苔佃煮とは異なったまろやかな甘味となめらかな口当たりで人気を博すことになった。
「親しみのあるネーミングやパッケージデザインなどの要素も、ロングセラー商品としてご愛顧いただいている要因だと思います。今後も多くの方に愛される商品作りを目指していきたいと考えています」
『ごはんですよ!」は実は関西先行販売の商品だった?
今でこそ全国的に販売され、海苔佃煮の売上トップとなっている『ごはんですよ!』。だが、もともとは関西エリアでの拡大を意識して全国販売に先駆けて発売したそうだ。その理由として、前身の『江戸むらさき』は関東では人気があったものの、関西ではあまり売上が良くなかったため、そこの市場を攻めるのが目的だったことが挙げられる。
「1973年当時、関西では『江戸』と名前のつく商品が思うように売れず、『江戸むらさき』と差別化を図るために新商品の開発を目指したのも『ごはんですよ!』誕生のきっかけの1つです。味付けまろやか、甘味のある味わいにして、佃煮をご飯と混ぜて食べる風習があった関西の食文化を意識していました」
最初に発売したのはもちろん関西一円で、関西人に受け入れられて大ヒット。その後、「全国で売っても人気が出るに違いない!」と踏んだ当時の社員たちは全国展開を開始し、予想通りの人気となった。
「その後、さらに関西を意識して甘めに味付けした『あまいですよ!』という商品を発売しました。こちらは『ごはんですよ!』よりも醤油を控えめに、昆布の旨味を加えた程よい甘さが特徴の海苔佃煮です」
料理の味付けにも!若年層の知名度向上に力を注ぐ
『ごはんですよ!』は、現在は40~50代の主婦層や高齢者が購入者の中心だという。そこで桃屋は、若者世代や若い主婦世代の知名度を上げるべく、レシピの普及に力を入れている。
「最近では『ごはんですよ!』をはじめ、桃屋の商品を使ってできる『桃屋のかんたんレシピ』のレシピ本を出版し、幅広い層への訴求に努めています。また、若者世代がメインユーザーのメディア『C Channel』にて、10〜20代の女性に向けたレシピの動画などをアップしたり、『ABC Cooking Studio』のリアルレッスンで使用してもらうなど、幅広い世代の購買層の開拓をしているところです」
『ごはんですよ!』といえばのメガネのおじさん「のり平さん」を起用したCMも、長年愛されている。過去には『ドラゴンボール改』とのコラボCMを打ち出したことも。のり平さんが孫悟空になって登場し、孫悟飯と『ごはんですよ!』がかけ合わさった超豪華な仕様になっている。
また、丸亀製麺やピザチェーンの『シェーキーズ』、おやつカンパニーの『ベビースターラーメン』とのコラボなど、さまざまな露出を図って若者世代への認知を深める取り組みも行なっているそうだ。
発売50周年というロングセラーとなった『ごはんですよ!』。現在も安定的な売上を誇る、桃屋の看板商品になった。栗山さんは『ごはんですよ!』が長年愛される秘訣として、「発売以来、味を一度も変えていないこと」を挙げている。桃屋は“一度世に出した商品は味を変えない”ことがポリシーだそうで、そのため、発売当初の味をずっと楽しめることが、売上を支える大きな理由の1つとなっている。
今後も商品自体は変えず、「桃屋のかんたんレシピ」の普及やCM、コラボ展開など、あらゆる角度からおいしさや楽しみ方を提案していくことが桃屋の目標だという。60周年、70周年、そして100周年に向けて歩みを止めない『ごはんですよ!』のこれからが楽しみでならない。
取材・文=越前与