「雪の宿」冬季の販売量は夏季の1.6倍!?白い砂糖蜜をかけた“唯一無二のせんべい”が生まれた理由

2023年5月1日

スーパーの米菓コーナーで必ずと言っていいほど見かける、三幸製菓株式会社のロングセラー商品「雪の宿」。醤油や塩で味付けしたせんべいが多いなか、砂糖蜜の甘さに塩味が絡んだ独特の味わいで、誕生から46年が経過した今もなお根強い人気を得ている。

「雪の宿」の商品名から“冬”を連想する人が多いかもしれないが、実物は年中食べてもおいしいせんべい。夏季と冬季の売上に差があったりするのだろうか?

そんな素朴な疑問を解消すべく、今回は三幸製菓株式会社(以下、三幸製菓)マーケティング部ブランド戦略課の須田和恵さんに、「雪の宿」の夏季と冬季、そして地域ごとの売上の違いについて聞いた。

「雪の宿サラダ(20枚)」。当時の社長は名前を「雪見宿」にしようとしたが、連絡を受けた社員が「雪の宿」と聞き間違い、そのまま商標登録してしまったのが商品名の由来


“唯一無二のせんべい”を追求!過去には「しょうゆ味」も販売

三幸製菓が創業したのは1962年。本社がある新潟県には、「柿の種」の亀田製菓や「黒豆せんべい」の岩塚製菓など、すでに米菓を中心とした多くの製菓会社が立ち並んでおり、三幸製菓は最後発だったという。そうした状況のなか、1977年に発売したのが「雪の宿サラダ」だった。

「新興の米菓メーカーであった弊社が市場へ参入するためには、ほかにはない特徴のある商品を作る必要がありました。そのような事情のなかで、『米菓市場に新しい風を吹かせたい』という熱意を持って開発したのが『雪の宿』です」

当時、米菓で蜜がけした商品は醤油せんべいが中心で、塩味のサラダせんべいに蜜がけした商品はほかになかった。また、油分の多いサラダせんべいに砂糖蜜を付着させるのが技術的に難しかったそうで、当時の開発担当者は地元・新潟の老舗パティスリーで修業し、せんべいと生クリームの相性を手探りで研究した。

「こうした試行錯誤の末、唯一無二のせんべい『雪の宿』が誕生しました。北海道産の生クリームを使用した白い砂糖蜜は、お客様から『クリーム蜜』や『ミルク蜜』と呼ばれるようになり、うれしいお声を多くいただくようになりました」

「雪の宿サラダ」の中身。雪のように白くするのにとても苦労したそう


一方、「雪の宿サラダ」と同じく1977年に発売されたのが「雪の宿 しょうゆ」だ。“せんべい=しょうゆ味”の印象が強かった時代背景に合わせた商品だったが、しょうゆ液をせんべいに付けた時と砂糖蜜をのせた時の計2回乾燥させなければならず、ほかの製品に比べて手間が掛かったという。また、時間が経つと砂糖蜜にしょうゆがにじみ、白さが損なわれるといった課題が理由により、1995年に販売終了となった。

「雪の宿 しょうゆ(2×12枚)」。「雪の宿」とともに誕生したが、製造上の理由で1995年に販売終了


冬季の売上は夏季の1.6倍!では、地域差は?

さまざまな苦労の末に完成した「雪の宿」。商品名のイメージ通り、せんべいにかけられた白い砂糖蜜が雪のように見え、パッケージからも冬の風情を感じられる商品だ。やはり“雪”と名前が付くだけあって、冬に食べられることが多いのだろうか?この疑問について須田さんは、「夏季に比べて冬季は販売量が上がる」と話す。

「代表商品の『雪の宿サラダ(20枚)』に関しては、夏季に比べて冬季の販売量が約1.6倍となっています。また、雪の宿ブランド全体では約1.5倍、米菓全体では夏季と冬季の売上の差は約1.2倍〜1.3倍ですので、『雪の宿』は特に夏季と冬季の差が大きいと言えそうです。寒い冬にホッとひと息つきたい方が、商品の持つ冬のイメージと優しい甘味を求めているのかもしれませんね」

さらに、1年間で雪の季節が長い北海道や、逆にほとんど雪を目にすることのない沖縄県の販売量が良い傾向にあるそうで、沖縄県では沖縄県産黒糖を使用した「雪の宿 黒糖みるく味」が人気なんだとか。では、そのほかの地域における販売量はどのようになっているのか。

「実は『1.中国・四国』『2.関西』『3.九州』『4.中部』『5.北海道』『6.関東』『7.東北』の順で人口当たりのご購入点数が多く、7位の東北エリアに対して、1位の中国・四国の売れ行きは約2倍というデータもあります」

「雪の宿 黒糖みるく味(20枚)」。沖縄県産黒糖使用の黒糖クリームと北海道産生クリーム使用のミルククリームの2種の砂糖蜜をのせた商品


西日本での販売量が多い理由として、「推測にはなりますが、関東や東北には『草加せんべい』や『南部せんべい』など地域に根付いた独自のおせんべい文化があることもあり、浸透しづらいのではないかと考えております。相対的に西日本エリアでは、より多くのお客様に親しんでいただいているのではないでしょうか」と須田さんは話す。

時代を越えて愛される商品を目指して

2022年に誕生45周年を迎えた「雪の宿」。現在の主な購買層は40代以上だそうで、「若い方は、『おじいちゃん、おばあちゃんの家にあるお菓子』といった印象を持たれることが多いのではないでしょうか」と須田さん。そして現在、三幸製菓は新たな顧客層を開拓するべく、SNSを駆使したアプローチを積極化している。

「『雪の宿』は弊社の一大ブランドなので、Twitterの公式アカウントとは別に、公式キャラクターの『ホワミル』が語るアカウントもあります。キャンペーンの案内から日頃の何気ないものまでいろいろな内容を投稿していますね。また、最近ではInstagramのアカウントを開設して、『雪の宿』をはじめ弊社商品のプロモーションを行っています。なお、これらSNSアカウントでは、若い世代の皆さまにもよりおせんべいに親しんでいただきたいという思いを込めて発信しています」

「ホワミル」。若年層にも人気がある雪の宿公式キャラクター

「雪の宿 黒糖みるく味」の公式キャラクター「チャミル」。ホワミルの妹分としてTwitterアカウントにも登場する


商品面では、常に時代を越えて愛されるおいしさを追求していくとともに、「どこかホッとする、ほっこりとしたおいしさ」を大切にしながら、購入者に楽しさと笑顔を提供できる商品・企画を考案していくとのことだ。いろんなことが目まぐるしく変化し続ける現代のなかで、今後も昔ながらの変わらない味わいを提供し続けてほしい。

取材・文=西脇章太(にげば企画)