滋賀県の知られざる特産品「赤こんにゃく」はなぜ赤い?織田信長や安土城、産地対決が関係か

2023年9月7日

煮物やおでんなどでおなじみのこんにゃく。こんにゃくといえば黒っぽいものが一般的だが、そのなかに真っ赤なこんにゃくが存在していることはご存知だろうか。

赤いこんにゃくは見た目通り「赤こんにゃく」と呼ばれ、実は滋賀県の特産品だ。思わず「なぜ赤くしたのだろう…」と思ってしまうが、その理由には、戦国武将・織田信長が関係しているという噂も。

今回はその歴史を紐解くべく、赤こんにゃくの製造から販売までを行う乃利松食品吉井商店の吉井昌之さんに話を聞いた。

開ければすぐに食べられる味付きの赤こんにゃくも。晩酌のお供にもぴったり!


地元・近江八幡では給食にも!赤こんにゃくの誕生秘話

400年以上前に誕生したと言われる赤こんにゃくは、生産地である滋賀県・近江八幡市では“こんにゃくと言えば赤色”というほど浸透しており、一般的な黒っぽいこんにゃくを見る機会があまりなく、一般的なこんにゃくを初めて見た子供などは「こんにゃくが赤くない!」と驚くという。

また、滋賀県内の小中学校の給食でも提供されることがあり、地元民にとっては非常に親しみのある食べ物だ。かつては滋賀県内でしかお目にかかれない赤こんにゃくだったが、今では日本各地の料亭などでも使用されており、その味わいは折り紙付きのようだ。

赤こんにゃくの製造から販売までを行う乃利松食品吉井商店


そんな赤こんにゃくの発祥には諸説あり、その1つには、織田信長が“赤”の長襦袢をまとって踊り狂ったと伝えられる「左義長祭」にあやかり、こんにゃくを赤く染めたといわれている。

ほかにも、明治初期に「滋賀県内のこんにゃくの2大産地」と言われていた蒲生郡八幡町(現在の近江八幡市)と栗太郡瀬田町(現在の大津市)のぶつかり合いが勃発したことも有力な説となっているようだ。当時から黒色のこんにゃくが親しまれていたが、直接対決の結果、蒲生郡八幡町のこんにゃくに軍配が上がったことで、勝利の喜びを表すために赤色に染めたのだという。

「隣町になる安土町に織田信長にゆかりのある安土城があるんですが、その安土城に赤色が使われていたことも、こんにゃくを赤色に染めた理由の1つと言われています」と吉井さん。

文献として正確な資料は現存していないため定かではないが、赤こんにゃくの誕生にはさまざまな歴史上の人物や文化が関わっているようだ。

赤こんにゃくと普通のこんにゃく、何が違う?

気になる赤こんにゃくの着色方法は、「三二酸化鉄」(さんにさんかてつ)という着色料。そのため、鉄分を豊富に含んでいる。誕生当初の文献には「とうきびを煎じて赤くした」と残っているそうだが、実際にやってみるとうまく着色できなかったのだとか。結果として三二酸化鉄を用いることで、安全かつ見た目にもインパクトがあるこんにゃくが生まれた。

赤こんにゃくがほかのこんにゃくと異なるのは色だけではない。ゆで上げる前にこんにゃく自体に細かな気泡をたくさん入れ、ゆで上げた後は型に入れて裁断し、80度のお湯にひと晩置くことで温度が下がっていくと同時に不純物を排出させるという製法を用いている。本来であれば省く手間を、あえてかけているのだ。

「こうした手間暇をかけることでよりおいしく、より味が染みやすくなるんです。ただ、1日の生産数は7000~8000丁が限界で…。すべての行程を機械作業にすれば今の倍は作れますが、『この歴史ある赤こんにゃくをこだわって作りたい』という思いから、手作業も含めて手間をかけて作っています」

味が染みやすいことから、おでんや煮物などでは抜群の使い勝手を発揮してくれる。さらに、刺身として食べることもあり、レバーが食べられなくなった際にはレバ刺しの代用品として重宝されたこともあるのだとか。

コロナ禍以前は近隣の小学校を対象に工場見学を実施したことも

ほかのこんにゃくでは味わえないキメの細かい食感が楽しめる。鍋物や煮物に使うと出汁がじゅわっと染み出るのも魅力


時代の変化の影響で苦戦中のこんにゃく業界を盛り上げる

赤こんにゃくは、滋賀県内では気軽にスーパーで買うことができ、それ以外では日本各地の料亭やホテルで食べることができるが、400年以上の歴史があるがゆえのブランド力を持っているため、全国のスーパーやディスカウントショップでの販売は難しいようだ。

吉井さんは「『より多くの人に赤こんにゃくを知ってほしい』という思いもありますが、ブランドを守りたいという思いもあります。そのあたりをうまくやれたらと、模索しているところなんです」と、さらなる展開を意気込んだ。

赤こんにゃくを使用した料理が入ったバラエティセット。自宅で手軽に赤こんにゃく料理を楽しめる


昨今、こんにゃく業者がどんどん廃業に追い込まれているという。時代の変化が食生活にも影響を及ぼし、手のかかる煮物などを作る家庭が少なくなっているのが理由だそうだ。そんな現状を打開すべく、乃利松食品吉井商店ではさまざまな工夫を行っている。

「運送機能の発達や包装技術の進歩によって、赤こんにゃくの賞味期限を約半年間にすることができ、全国に輸送できるようになりました。より多くの人に赤こんにゃくのおいしさを知ってもらい、こんにゃく業界を盛り上げるきっかけになれたらと思います」

料理では脇役のイメージがあるこんにゃくの中で、主役級のインパクトと歴史をもつ赤こんにゃく。滋賀県に行った際は、ぜひその味わいを体験してみて。

取材・文=織田繭(にげば企画)

ウォーカープラス編集部 Twitter